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佐藤寿人から浅野拓磨へ…広島で受け継がれるストライカーの系譜

2015.07.20

浦和戦でチームを勝利に導いた浅野拓磨 [写真]=Getty Images

文=元川悦子

 2015年J1タイトルの行方を大きく左右すると見られた7月19日の浦和レッズサンフレッチェ広島戦の大一番。4万人を超える大観衆が詰めかけた埼玉スタジアムで、前半はファーストステージ王者・浦和レッズがシュート12本を放つなど圧倒。関根貴大の先制点で1点をリードしていた。広島は2シャドウの一角を担う柴崎晃誠が開始早々の10分に負傷離脱を余儀なくされたうえ、エース・佐藤寿人もシュートゼロとほとんど決定機を作れず苦しんだ。

 その流れを一瞬にして覆したのが、背番号29をつける若武者・浅野拓磨だった。後半20分に佐藤と代わってピッチに立つや否や、ドウグラスの縦パスに凄まじいスピードで抜け出し、先輩守護神・西川周作と一対一になりながら左足を一閃。値千金の同点弾を叩き出したのだ。西川が2014年シーズンから浦和へ移籍して以来、広島の選手は誰1人として彼からゴールを奪えていなかった。その高い壁を弱冠20歳の点取り屋が見事に破ったのだから、本人としても感無量だろう。

「いい抜け出しができて、ドウグラスからもいいボールが出てきた。あの形のシュート練習は今やってるし、それが成果となって出たんで自信になりました。周君とは1年一緒にやってましたし、偉大なGKから点が取れたのもすごくうれしい。今の自分はどんな相手でもできるんだって気持ちを持ってやってますし、それをなくさないようにしたい」と浅野も満面の笑みを浮かべながら語っていた。

 彼の勢いはこの1点にとどまらなかった。快速FWの裏へ裏へという動きに浦和守備陣は翻弄され、終盤には逆転を許してしまう。青山敏弘の縦パスに反応した浅野は相手DF陣を向こうに回して堂々とドリブルで突進。ペナルティエリア付近で引っかけられたが、それを青山が拾ってゴール。広島は前半敗色濃厚だったゲームを2-1でモノにし、セカンドステージ3連勝でダントツ首位に立つことに成功したのだ。

 森保一監督は「選手たちが魂を見せてくれた結果」と安堵感を吐露したが、実はハーフタイムには監督就任以来、初めてと言っていいほどの厳しい調子で選手たちを鼓舞していた。エース・佐藤も「前半は経験ある選手たちがビビってボールをつなげなかった。ホントに何やってんだと思った」と反省しきりだった。そんな状況下でも、佐藤自身は走り切れるまで走って相手守備陣を疲れさせ、残り25分というところで浅野に勝負を託した。今季の広島はこの選手交代が勝利への重要なカギになっている。12年連続2ケタゴールに王手をかけている佐藤にしてみれば、発展途上の後輩と代えられるのは正直、納得いかない部分もあったという。だが、最近の浅野の急成長ぶりを目の当たりにして、交代を受け入れられるようになってきたようだ。

「タクもガク(野津田岳人)もいい仕事をしてくれた。このチームは若い選手がもっともっと成長していかないと難しいし、(交代は)健全な競争の中での監督の判断だと思います。若い選手が信頼できるレベルじゃなかったら『なんでお前に代わんなきゃいけねえんだよ』ってことになるけど、彼らもそういうレベルになってきている。だからこそ、自分は交代する時に余力を残さないようにしてる。相手を疲れさせて、代わった選手が崩して点取ってチームが勝てればそれが一番だから」と佐藤は佐藤なりの言い回しで浅野のレベルアップを認めていた。

 浅野の方も「寿人さんが点を取れば取るほど、自分も取りたいって気持ちが湧いてくるんです」と語気を強める。7月11日のベガルタ仙台戦で佐藤が2ゴールをマークし、2ケタ得点まであと1と迫った時には、「自分もやらないといけない」とより一層、強く闘争心を掻き立てられたという。

「寿人さんは偉大な先輩ですけど、負けたくない思いはやっぱり強い。その背中を追いかけつつ、自分のいいところを出せれば、いずれポジションを奪える日が来る。今はそのことしか考えてないです」と本人の素直な胸の内を打ち明けてくれた。

 まずは身近な目標をしっかりと見据え、自分の武器であるスピードとドリブル突破、シュートに磨きをかけるという堅実な姿勢が、U-21日本代表1トップ定着、日本代表候補入りという飛躍につながっているのは確かだ。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督もこの日の大活躍をじかに見たというから、23日に発表される東アジアカップ(武漢)のメンバー入りも大いに可能性がありそうだ。

「結果を残すことを続けていければ、代表には入れると思います。でも僕は代表入るために頑張ってるわけじゃない。目の前の1試合1試合を100%でのぞんで、結果を残していければ、自然とそういうものも見えてくるという考えで頑張ってるんで。次の試合でもいいプレーをできるようにしたいですね」

 伸び盛りのスピードスターがこう話すように、必要なのはコンスタントな結果に他ならない。先輩・佐藤のようにどんな状況でも得点を重ねられる選手になること。それが浅野の成功への一番の近道だ。

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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