22日の明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ第17節湘南ベルマーレ戦の42分にゴールを決め、中山雅史(現アスルクラロ沼津)が持つJ1リーグ戦通算157ゴールのリーグ最多記録に並んだ佐藤寿人(サンフレッチェ広島)。実はこのゴールが決まる18分前に、「もしかしたら……」と記者席を騒然とさせる得点が生まれていた。
24分、塩谷司が右サイドで縦に大きく蹴り出したボールにミキッチが鋭く飛び出すと、敵陣深い位置で大きく切り返して相手DFをかわし、中央へグラウンダーのパス。ここに走り込んだドウグラスが右足で強烈なシュートを放つと、素早く反応した佐藤寿がゴール前で巧みにコースを変えたように見えたのだ。
湘南守備陣は佐藤寿のオフサイドをアピールしたが、ミキッチをマークしていた選手が自陣深くまで戻っていたため、もちろんオフサイドのファウルはなし。一方のドウグラスは力強いガッツポーズで駆け出して自分の先制ゴールを喜んでおり、佐藤寿はやや戸惑った雰囲気でワンテンポ遅れて歓喜の輪に加わっていった。そしてドウグラスの下にたどりつくと、笑顔を浮かべながら「ドグ(ドウグラス)のゴール?」とばかりに指差し確認していたことも気になっていた。
リプレイを見ると確かに相手DFの前でコースが変わっており、佐藤寿が触ったようにも見える。だが、場内ではドウグラスとアナウンスされていた。その後、佐藤寿は42分に清水航平の左クロスを鮮やかにヘディングで叩きつけて正式に最多タイとなるゴールをマーク。「チバちゃん(千葉和彦)とアオ(青山敏弘)が用意してくれていた」という「157」の数字の入ったユニフォームが手渡され、試合中にかかわらずピッチ脇で3度胴上げされるなど、場内は祝福ムードで埋め尽くされた。
だが、先のゴールがもし修正されて佐藤寿の得点と認められたら、この一発が偉大な新記録となるかもしれない――。ハーフタイムに何度もリプレイを見返す報道陣。映像で複数回チェックしたが、確かに佐藤寿が触っているように見える。だとしたら、彼が決めたゴールが、記念すべき新記録の一発になるかもしれない。だが、試合後の公式記録でも先制点は当然ながらドウグラスのゴールと記されていた。
ひとしきり取材に応えた佐藤寿にこっそり声を掛け、彼にとっての“幻の先制点”について聞いてみた。
「あー、それですよね。あのシーンは相手DFに当たってコースが変わったのか、ドグ(ドウグラス)のシュートだったのか分からないんですけど、足を出したのに速すぎて触れなかったんですよ。変な回転が掛かっていたのかな。(足に当たった)感触があったら絶対に喜ぶんですけど、相手も僕が触ったと思ってオフサイドだとアピールしていたんで、変に喜ぶのはやめようと思ったんですよ。ギリギリでも触っていたら絶対にアピールしていたんで、今回は言えないなと思って(笑)。まあ、微妙なゴールでゴンさん(中山雅史)の記録に並んでしまうより、次のゴールが完璧だったので良かったかな」
メインスタンドからの映像もゴール裏からのアングルでも佐藤寿が触っていたように見え、湘南の選手たちも勘違いしていたが、当の本人には「足に当たった感触がなかった」という。スタジアム観戦の方もテレビでご覧の皆さんも気になっていたと思うが、先制点はドウグラスのゴールで間違いないということだ。
とにもかくにも、ようやく決まった記念すべき歴代通算最多タイのゴール。佐藤寿は「この試合でレギュラーシーズンが終わってしまうので、ファン・サポーターの人たちだけでなく、王手をかけてから毎試合足を運んでくれているメディアの皆さんの期待もひしひしと感じていました」と苦笑いしながらも、「まだ年間1位とセカンドステージを取っただけ。いい形でチャンピオンシップへ弾みがついた。今日は喜びが少し抑えめだったところもありますし、チャンピオンシップを勝ち取ってから今日残しておいた分を含めて喜びたい。中山さんのようにチャンピオンシップでもしっかり輝きをしっかり見せたい」と最大の目標を見据え、早くも12月上旬からのJリーグチャンピオンシップ決勝に気持ちを切り替えていた。
文=青山知雄