J2昇格を果たした町田の主将を務める李漢宰 [写真]=春木睦子
4シーズンぶりのJ2昇格に“町田の熱き魂”が人目をはばからず歓喜の涙を流した。
溢れる思いが止まらなかった。1-0でリードして迎えた大分トリニータとのJ2・J3入れ替え戦の第2戦。ホームで行われた第1戦を2-1で制し、J2復帰に王手を掛けていたFC町田ゼルビアのキャプテン李漢宰の脳裏には、これまでの努力や苦闘が次々とよぎっていた。
2014シーズンにFC岐阜から町田へ移籍してきた李漢宰は、とにかくチームをJ2に昇格させると誓ってストイックに取り組んできた。だが、昨シーズンは首位を独走しながら夏場に負傷離脱。その後、チームは終盤に失速して勝ち点1差でJ2・J3入れ替え戦出場を逃してしまい、「大事な時期にチームの力になれなかった」と悔しさを露わにしていた。さらに今シーズン途中にはぎっくり腰を発症。だが、前年の悔しさを胸に「動けなくなるんじゃないか」という状況の中でも全試合出場を達成。チームも大目標だったJ2昇格という結果を手にした。闘志を前面に押し出して戦い抜いたキャプテンは「いろいろな痛みやケガがあった中で、一試合も休むことなく全試合に出ることができた。苦しい中でもチームのために何かできるし、自分がやってきたことは間違っていなかったと自信が持てた。支えてくれたいろいろな人に感謝したいですし、自分自身もそういう強い気持ちがうまく表現できた。非常に充実したシーズンだった。それで感極まってしまったのかな」と笑顔で話した。
11月23日に行われた明治安田生命J3リーグ最終節のAC長野パルセイロ戦。他会場の試合情報が錯綜し、首位のレノファ山口FCが敗れたという誤報がチームに伝わってしまったため、町田は前代未聞の“ぬか喜び”を味わうことになった。そういった経緯もあり、昇格を決めた大分との第2戦では相手のエース高松大樹のPKを止めてヒーローとなったGK高原寿康、入れ替え戦2試合で3ゴールと爆発した鈴木孝司らは「長野で爆発的に喜んでしまったので、今回は『ようやく正式にJ2へ行ける』という不思議な感じ。安心したような感覚」と苦笑い。ただし、これまでの苦闘が試合中から走馬灯のように思い出された熱いハートのキャプテンは、試合中から止めどなく流れる涙を堪えるのに必死だったという。
「試合終了の5分前くらいから感極まって涙が流れてきて、何とか(涙を)止めようと必死でした。この一年間のみならず、自分たちには昨シーズンもあと一歩で昇格を逃した経験があるし、いろいろな思いがある中で様々な記憶がよぎってきた。みんなは“ぬか喜び”になってしまった最終節の長野戦みたいに爆発するような喜び方をしていなくて、そんな中で僕一人だけ泣いちゃってたんでね(苦笑)。個人的な思いでは、J3優勝だと思った長野での感情も昇格は変わらない。目標を達成できたという同じ気持ちで感極まってました。正直、もっと楽にいけば、こんなに感極まることはなかったと思いますけど、楽して富は得られない。苦労してこそ、ようやく喜びを得られると改めて感じたシーズンでした」
実は試合前夜、李漢宰はかつての仲間たちから大きな力をもらっていた。
明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ決勝、サンフレッチェ広島がガンバ大阪を破って3度目のリーグ王者に輝いた。李漢宰にとってはプロ入りから8シーズンを過ごしたクラブ。同期加入のGK林卓人が守護神として君臨し、ともにプレーした選手たちが現在も在籍している古巣の歓喜をテレビで見届けて涙したという。
「昨日も一人で泣きすぎて目がパンパンなんですよね(笑)。自分にとっては特別なクラブですし、実際に一緒にプレーした選手が何人かいる中でチャンピオンシップ優勝に感極まるものがありました。ああいうファイティングスピリットや、最後のところでもう一度頑張れる力に勇気づけられた部分は間違いなくあります。自分としては一つでも上のカテゴリで戦いたいし、追いつきたいという気持ちもある。もう一度同じカテゴリでやりたいですし、同期の林卓人がいる中で本当に刺激ももらっています。実際に何人かとメールやLINEでやり取りする中で、自分も絶対に結果を出さなければいけないという気持ちが強くあったので、昨日に続いて二つの喜びを得られてよかったですね。泣きすぎて顔がパンパンなんですよ、本当に(笑)」
ケガを抱えながら達成したJ2昇格という大目標。厳しい時期も“ぬか喜び”もあったが、チーム一丸となって昨シーズンの悔しさを胸に信念を貫き通し、「今年はどんな状況、どんな結果であろうと、『自分たちは最後に笑うんだ』、『みんなで笑って終えるんだ』という強い気持ちがあった」と前を向き続けた。相馬直樹監督の下、コンパクトで積極的なサッカーを継続させ、積み重ねてきたことで町田が、そして李漢宰が手にしたJ2行きの切符。だが、喜んでばかりはいられない。すでに“町田の熱き魂”は先を見据えている。
「確かにやり遂げたという感じはありますけど、これからも人生は続きますし、実際に(J2昇格は)過去のことなんでね。喜ぶのは一瞬で、もう次への準備が始まってくる。この喜びが来シーズン、J2の舞台で一瞬にして悲しみに変わらないようにしなければならない。僕はもう切り替えて次への準備を考えていますし、来年は少し開幕が早いという話も聞いていますし、そんなに長い準備時間が残されているわけではないですからね。新しいシーズンに向けて今からしっかり準備していきたいと思います」
文=青山知雄
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