昨季J2で18得点のFW小松塁(25番)。今季も北九州の得点源として期待がかかる [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
今季最大の見どころは、スター選手が攻撃面でフィットするかにある。一方で決して足下=守備もおろそかにできない。今季のギラヴァンツ北九州は、“夢と現実を同時に追う”という1年になる。
このチームの“ベース”は、2014年にある。柱谷幸一監督就任2年目のシーズンだ。「強化費はJ2でも下位」と監督がしばしば口にしていたほどの戦力ながら、クラブ史上最高の5位に入った(本来ならJ1昇格プレーオフ出場獲得圏だったが、J1クラブライセンスを有さないため出場できず)。チームは4-4-2のシステムで「オーソドックスなサッカー」(柱谷監督)を展開した。実態は「守備的に戦い、攻撃の手数を少なくしてゴールに迫る」というスタイルだったが、監督曰く「相手との力関係からそうなった」。最終ラインは多少低くなれども、全体のコンパクトさを保ち、可能な手段で攻撃を仕掛けた結果だったのだ。
翌2015年シーズンはここに「攻撃の多様性」を加えることに取り組んだ。この年に加入したFW小松塁の存在はその象徴の一つ。190センチの長身ながら、細かなテクニックに加えて左右に流れる動きを披露。最終的にはJ2日本人最多の18ゴールを記録した。また夏頃には、統計上で「試合中のパス本数」がJ2トップに立った時期もあった(最終的には「本数」、「成功率」ともに大宮アルディージャ、セレッソ大阪に次いで3位)。
ただし、新しいスタイルを導入するまでには時間を要した。シーズン通算の得点数は50→59へと増加したが、失点も50→58と増えていた。前線の「改築」を行っている間に、「土台」となる守備が少し緩んだ感は否めない。この影響もあって第36節終了時点で14位まで順位を落とすなど、戦いぶりに安定感を欠いた。ラスト5節でぐっと順位を上げたのだが、この背景には小松が「5戦連発」を果たしたこともある。逆に言えば、完全なるフィットを見せるのにここまで掛かったということだ。
この点は今季も共通の課題となるが、攻撃面はさらに多様性を増すだろう。特に地元出身のMF本山雅志の加入は大きな話題で、クラブを長く応援するサポーターとすれば、FW池元友樹の復帰(昨季は松本山雅FCに在籍)は本山加入と同等のビッグニュースだ。地元小倉出身で、2010年のJ2昇格年に味わった苦しみから2013年の選手大量離脱まで苦楽をともにした“カリスマ”の存在は、昨季実績を残した小松、FW原一樹とのコンビネーション、競争はどんな効果をもたらしてくれるのか。
これを“期待”ばかりで括れない理由がある。守備面での補強が1名にとどまったからだ。名古屋グランパスから加わった地元出身の刀根亮輔は昨季、期限付き移籍先のV・ファーレン長崎でセンターバック、サイドバックの双方をこなした。柱谷監督の選択は『組織の成熟』ということなのだろう。守備が不安を見せれば当然のごとく攻撃にも影響する。昨年の流れと重ねて今季を見ると、今季のチームが目指すものを理解しやすいように思う。
クラブはこれまで国内の大物選手獲得にあえて取り組んでこなかった。本山の獲得により、いよいよそのカードを切ってきたという印象が強い。2017シーズンには小倉市内に建設中の新スタジアムが使用可能になる。その完成見込みに伴い、今季の審査でJ1ライセンスが付与される可能性が高まっている。“身の丈経営”を謳ってきたクラブが新たなステージに向かう。そのためにも「華麗な攻撃陣」の陰にある「守備の再整備」という課題は必ず克服したい。夢をつかむためには現実を――というところだ。