昨季は甲府でリーグ戦4ゴールを挙げた伊東純也 [写真]=Getty Images
27日、2016シーズンの明治安田生命J1リーグがついに開幕。日立柏サッカー場では、昨シーズン年間10位の柏レイソルが浦和レッズを迎え撃つ。ミルトン・メンデス新監督が率いる柏にとっては、昨シーズンのファーストステージ覇者との対戦は重要な試金石となる。
スポルティング・リスボンから期限付き移籍で復帰したFW田中順也や新外国籍選手のFWディエゴ・オリヴェイラ、アビスパ福岡への期限付き移籍から復帰したU-23日本代表GK中村航輔ら、期待の新戦力を多数揃える柏。その中にあって、ひときわ異彩を放っているのがFW伊東純也だ。ヴァンフォーレ甲府から完全移籍で加入したプロ2年目の若武者は、慣れ親しんだ前線から右サイドバックへと戦場を変え、新天地で羽ばたこうとしている。
ルーキーイヤーの昨シーズン、伊東はJ1で30試合に出場して4ゴールを記録。全34試合で26ゴールと得点力不足に苦しんだ甲府にあって、快足を飛ばしてゴールを脅かす伊東の存在は際立っていた。神奈川大学在籍時、3、4年の2シーズンで42試合出場27ゴール18アシストを記録した実力は、トップリーグでも確かに通用していた。
そして迎えたプロ2年目、新天地で課せられたポジションはFWではなく、右サイドバックだった。新任のメンデス監督は言う。
「伊東は輝かしい将来性を秘めた選手だと思う。ポジションへの理解をきちんと深めれば、日本代表入りも遠くない。サイドバックとしての役割をしっかりと果たしていくためには、まだ長いプロセスが待っているけれどね」
指揮官は日本代表入りの可能性まで持ち出し、伊東のポテンシャルを高く評価した。まずはA代表入りを見据える前に、リオデジャネイロ・オリンピックのU-23日本代表メンバーへの招集が現実的だろうか。伊東は昨年11月、U-22日本代表候補合宿に初招集。当時はFWとしてメンバー入りを果たしたが、FC東京DF室屋成が負傷離脱を強いられた今、右サイドバックの“秘密兵器”として手倉森誠監督にアピールすることができれば、リオ行きの可能性は膨らむ。
14日に行われた「ちばぎんカップ」ジェフユナイテッド千葉との一戦。伊東は右サイドバックとしてフル出場を果たした。前半こそ戸惑いが見られたが、チームが攻勢をかけた後半、前方にスペースを見出すやいなやスピードを上げてオーバーラップを仕掛け、積極的な攻撃参加でアクセントとなった。縦への突破力はもちろん、鋭いサイドチェンジも披露して存在感を見せた。
試合後、伊東は「ポジショニングとか、修正点はたくさんある。やられてはいないけど、もっとやっていかないと。セットプレーでしか失点していないというのは、ポジティブにもネガティブにも捉えられる」と守備面に言及し、「大丈夫だと思います。与えられた場所でやるだけです」と話した。少しうつむきながら謙遜気味に紡ぎ出された言葉には、まだ自信が宿っているようではなかった。新たなクラブ、新たなポジションでのチャレンジ。日々のトレーニングで不安をかき消しながら、一歩ずつ進んでいくしかない。
もともと、縦へ速い攻撃において能力を生かすタイプの快速ストライカーだ。右サイドから見える景色は、以前のそれとは全く異なる。伊東は「守備でのポジショニングや攻撃参加のタイミングは、キャンプの時に教えてもらった。ある程度は消化できている」と言う。「サイドバックの選手の動画をいっぱい見た。バルセロナのダニエウ・アウヴェスとか、内田篤人さんとか」とのことだが、まずは守備での約束事を身体に染み込ませることが先決だ。そのうえで、期待されているのはやはり攻撃面での貢献。FWを務める時と比べて、前方にスペースはない。その代わり、「前線の時よりもフリーでボールを持てる」のがサイドバックだ。ビルドアップで中盤や前線と有機的に絡みつつ、機を見た攻撃参加を増やしていきたい。「うまくサイドチェンジできた時には、良いタイミングで上がることができたと思う」。謙遜気味な言葉の中で、この時だけは手応えがにじんでいた。
今日の相手である浦和は、両サイドハーフが高い位置に張り出して攻撃の起点となる。最終ラインでの駆け引きが続き、伊東にとっては難しい時間となるだろう。ただ、換言すれば、サイドの攻防で主導権を握ることができれば、おのずと優位に立つことができる。持ち前のスピードを生かした攻撃参加で相手を押し込んでいきたい。
「いろいろなポジションをできるに越したことはない。可能性を広げていきたい」と、22歳の若武者は言う。その第一歩が、今日の開幕戦だ。
前売りチケットが一般販売初日に完売するなど、注目度は非常に高い。開幕節屈指の好カードと言えるだろう。赤き強敵を相手に、太陽王の新たな右の翼が羽ばたくことができるか。背番号14の一挙手一投足に注目だ。
文=内藤悠史
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