札幌戦でホームデビュー戦を迎えたヨン・ア・ピン [写真]=田丸英生
4年ぶりにJ2復帰を果たしたFC町田ゼルビアが、2016明治安田生命J2リーグ第6節で北海道コンサドーレ札幌を2─0で下し、4連勝で2位に浮上した。
想定外の躍進を最終ラインから支えるのが、昨季まで清水エスパルスで4年半プレーしたDFカルフィン・ヨン・ア・ピンだ。ヨーロッパ移籍の道よりもJ3から昇格したばかりのクラブを新天地に選んだ29歳の実力者は「またこうして日本でプレーできて、本当に幸せ」と言葉に実感を込める。
町田でのデビュー戦となった第5節の東京ヴェルディ戦で1─0の勝利に貢献すると、ホーム初出場の札幌戦もセンターバックとしてフル出場。後半は押し込まれて最終ラインが下がり何度かピンチを招いたが、GK高原寿康を中心に全員が体を張って2戦連続の無失点で切り抜けた。セレッソ大阪の試合が終わるまでの約3時間は暫定首位に立ち、携帯電話で順位表の画像を保存した陽気なDFは「今だけはパーティーしてもいいよね」と満面に笑みを浮かべた。

元PSVのヘイス(手前)と再戦を果たしたヨン・ア・ピン [写真]=田丸英生
J2のピッチで意外な再会も果たした。札幌FWヘイスはかつてPSV(オランダ)などで活躍し、対戦したこともあるという。「メンバー表を見てまさかと思ったけれど、彼も僕の名前を見て同じように驚いただろうね」と話す。そのブラジル人FWはシュートを1本も打てずハーフタイムで交代。「彼は当時オランダで最高給をもらっていた選手で、チャンピオンズリーグにも出たことがある。すごいストライカーだということはよく知っているから、交代してくれて助かったよ」と本音を漏らした。
昨季限りでJ2に降格した清水との契約が満了し、移籍先が見つかるまで2カ月以上を要した。母国で自主トレーニングを続ける間に、スペインのスポルティング・ヒホンやオランダのクラブなど欧州でプレーする選択肢もあった。それでも「大好きな日本に残ることが最優先だった」とJクラブからのオファーを待ち続けた。その後、J1とJ2のクラブが獲得に興味を示したが最終的には実現せず、町田入りの話がまとまったのは開幕直前の2月中旬だった。

負傷に悩まされた昨季は清水でリーグ戦9試合の出場にとどまった [写真]=Getty Images
移籍話が難航した理由の一つに、コンディションの問題があった。過去2シーズンはひざやハムストリングの負傷で何度も離脱を余儀なくされ、J1出場は計24試合。「そのことをJリーグの多くのクラブは懸念していたようだが、自分では問題がないことは分かっていた」と言う。獲得に踏み切った町田の唐井直GMは「私も昔、清水にいた(1994~98年強化責任者)こともあり、正確な情報は取れたと思っている。過去の受傷歴は消せないが、しっかり戦える確認ができたので、僕らも思い切ってチャレンジした」と経緯を明かす。
実は昨年10月に行われた清水と町田の練習試合でプレーしていたが、関係者は「その時は絶対に取れないクラスの選手だと思っていた」と振り返る。実際、条件面の交渉にあたった唐井GMは「そこは相馬直樹監督がよく言う『22番目のクラブ』の強みだったかもしれない」と敢えて予算規模の小ささを強調し、熱意で口説き落とした。その点に関しては、ヨン・ア・ピン自身も「お金のことはどうでも良かった。とにかくサッカーと人生をまた楽しみたいと思っていた」と、初心に戻れる環境を求めた。
J1でも屈指の練習環境を誇る清水と比べ、町田は自前のクラブハウスがない。「メディカルスタッフは少ないし、練習も人工芝のグラウンド。でも、ピッチ外で大変な分、ハングリー精神が培われる。エスパルスでは何もかもが完備されて不自由しなかったから、そういう気持ちを忘れかけていた」と前向きに受け止める。183センチ、78キロの筋肉質な体を生かした球際の強さと左足のキックは健在で、唐井GMは「ボールを取り切る、グッと出るようなパワーは日本人にない。存在感が違う」と高く評価。相馬監督も「危ないところを感じたり、相手をしっかり抑えるところで、個の強さを発揮してくれている」と能力を買っている。

北京五輪に出場したヨン・ア・ピン [写真]=Getty Images
婚約者が日本人とスウェーデン人のハーフで、自身は今年で来日6年目。「今では日本に慣れすぎて、オランダに帰った時のほうが外国にいる感じがする」と笑う。U-23オランダ代表として2008年北京五輪に出場し、母国のへーレンフェーンやフィテッセといった名門にも在籍したが、新天地のアットホームな雰囲気が気に入っている。「ビッグクラブだと『同じポジションの選手同士は仲が悪い』とか『チームより個を優先する選手がいる』といったこともあるが、ここは違う。自分が他の選手より優れているとも思わないし、サッカーを始めた子供の頃の純粋な気持ちを思い出させてもらった」と充実感を漂わせる。
背番号37は、10年前にフォレンダムからへーレンフェーンに移籍し、初めてオランダ1部リーグでプレーした時につけていた思い出の番号。「キャリアを再出発させるため、その数字を選んだ」と特別な思いを胸に秘め、まだ始まったばかりの長いシーズンを走り続ける。
文・写真=田丸英生(共同通信社)
Text & Photo by Hideo Tamaru(Kyodo News)

かつてヘーレンフェーンで背負った37を着けるヨン・ア・ピン [写真]=田丸英生
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By 田丸英生