ロアッソ熊本は28日、ノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)で明治安田生命J2リーグ第15節のFC町田ゼルビア戦に臨む。
この試合もホームゲームではあるが、うまかな・よかなスタジアム(熊本市東区)が依然使用できない状況のため、前節の水戸ホーリーホック戦で利用した日立柏サッカー場に続く代替地での開催となる。柏レイソルのスタッフを始め、多くの方々の協力でホームゲームが運営できた前節同様、今節もヴィッセル神戸のスタッフがサポートに入る予定だという。また、6月のホームゲーム2試合がベストアメニティスタジアム(佐賀県鳥栖市)で開催されることも発表されている。
フクダ電子アリーナで行われた第13節ジェフユナイテッド千葉戦、柏での前節水戸戦と、ホームタウンから遠く離れた場所で行われたゲームにも関わらず、スタジアムはJリーグに帰ってきたロアッソ熊本への大きな声援と拍手で満たされ、スタンドには温かい励ましのメッセージが書かれた横断幕が多数掲出された。試合後、物資の提供や募金といった幅広い支援に対するお礼のメッセージを記したバナーを持って場内を一周した選手たちも、こうした光景に胸を打たれたのだろう。中には涙をこぼす姿もあった。
リーグ戦に復帰してからというもの、サッカーファミリーの温かさや優しさ、素晴らしさを改めて感じているのは熊本の選手たちばかりではない。サポーターやクラブスタッフ、さらにはこの2試合に実際に足を運んだ観客の皆さん、あるいは様々な報道を通じてその様子に触れただけの方でも、その“絆”の強さを感じることができたのではないだろうか。
一方、そうした中で戦った2試合で連敗を喫してしまい、チームにとっては残念な結果になった。彼らとしても「サッカーができる喜び」や「試合を戦える幸せ」を感じる段階は過ぎ、「ゲームに勝つこと」への欲求が再び、正しい形で戻ってきた。プロの競技者としては当然のことだが、やはりホームタウンである熊本県全体、そして熊本でいまだ厳しい状況にある人たちへ、前に進む勇気や明日への希望を届けるという使命を一層強く感じているからでもある。
運営会社であるアスリートクラブ熊本の池谷友良社長は、柏で行われた水戸戦の後、次のように話している。
「もちろん自分たちも被災者ではありますが、応援に来てくれた人、画面の向こうにいる人に元気を与えるためにプレーしているという自分たちの役割をしっかり見つめてほしい。プロとして僕らが元気をもらっているようではダメだし、多くの人に感動と元気を与えられるようなゲームをすることが自分たちの使命。みんなからもらった元気を返さなければいけないと思います」
池谷社長のそうした思いは現場にも浸透している。清川浩行監督は言う。
「頑張って戦うというのは千葉戦と水戸戦で終わったというか、それだけで声援を受けるのはプロじゃない。4連敗していますし、やっぱり結果を追求して、一人ひとりの頑張りをチームとしてまとめて守り切る、そして攻め切る。一つひとつのプレーをチームのために注いでいくことが勝ち点につながると思うし、そうやって勝ち切ることが、本当に熊本の力になるんだと考えています」
過去、神戸に在籍した経験があり、「今もプレーできているのは、引退を考えた時に拾ってもらった神戸のおかげ」だと話すMF高柳一誠にとっても、ノエスタで戦うホームゲームは特別な一戦となる。
「試合をやる以上、相手も命がけで勝ち点3を取りにくるわけだし、それを上回るのは生半可な事じゃない。勝ちを目指す貪欲な気持ちを、一人ひとりがどれだけ強く持てるかが大事だと思います。どうして僕らが戦えているかって言うと、いろいろな人たちに力をもらっているから。今はまだ力をもらっている状態で、僕らが与える前に、まずは元気や希望をどうやって返すか、示すかって言ったら、やっぱり点を取ることであり、勝つことだと思っています。勝ちにこだわって、得点や球際にこだわる、ハードワークするって部分を一人ひとりはもちろん、チームとしてもっともっと表現して、もっと激しく、もっと要求する。そういうことが大事じゃないかなと」
1995年の阪神大震災から復興を果たした街、神戸で行われる今節の町田戦は、熊本にとっていろいろな意味で次のステップに進むためのターニングポイントになる。これから先、ホームゲームのみならずアウェーゲームにおいても、各地のサポーターやサッカーファミリーが寄せてくれた様々なサポートに応えるもの以上の付加価値――今季のクラブスローガンでもある「+ONE(プラスワン)」を添えて、感謝の思いを返していきたい。
文・写真=井芹貴志