今季ホーム初勝利を挙げるも、神谷(中央)にとっては悔しさが残る試合となった [写真]=平柳麻衣
湘南ベルマーレにとって待望の今季ホーム初勝利を告げる長い笛の音がピッチに鳴り響くと、様々な感情を抑えきれなくなったルーキーの涙が頬を伝った。
「嬉しさと、悔しさと、申し訳ない気持ちだった」
今季の明治安田生命J1リーグファーストステージは開幕からホームゲームで7連敗と苦戦が続いていた湘南。29日の第14節で名古屋グランパスを本拠地Shonan BMWスタジアム平塚に迎えるにあたり、曹貴裁(チョウ・キジェ)監督は「今日は絶対に勝点3を取ること。それ以外はない」と選手たちに発破をかけ、その重要な一戦で、リーグ戦初先発となる神谷優太をスタメンに抜擢した。
「高卒1年目でも、緊張感のあるリーグ戦に彼を出すことに迷いは全くなかった。それだけ彼は練習の中で堂々としたものを見せている」(曹貴裁監督)
青森山田高では左アウトサイドなど攻撃的な中盤を担うことが多かった神谷だが、湘南ではボランチでプレーし、ゲームメーカーとしての役割を求められている。名古屋戦では、練習からいつもプレーを見て学んでいるという24歳のボランチ石川俊輝とコンビを組み、立ち上がりから積極的なプレスや攻撃参加を披露してチャンスを演出。本人も「いつもと変わらず、しっかり落ち着いてやれた」と手応えをつかみ、チームは1-0でリードして前半を折り返した。
ところが、後半に入ると、選手交代も含め修正を施した名古屋に押し込まれる時間が続く。迎えた56分、自陣ペナルティーエリア手前で横パスを受けた神谷のわずかなトラップミスから名古屋MFイ・スンヒにボールを奪われ、同点弾を許した。
「自分の一つのミスで流れを変えてしまった」
ミスを取り返すことができないまま、神谷は66分に途中交代。ベンチから戦況を見守ることしかできずにいた中、チームは81分に菊池大介が決めた勝ち越し弾により勝利を収めた。
神谷は「プレー全体としては悪くはなかったと思うけど、一つのミスで帳消しになってしまった。試合の中で切り替えようとはしていたけど、実際に切り替えられたか切り替えられていないかは、周りから見てわかることなので、(交代は)監督がそう察したのかなと思う」と振り返ったが、曹貴裁監督の評価はそうではない。
「まだやってはいけないミスがあったり、後半に足が止まった時にキックの精度が乱れるといった課題はある。でも、交代したのは疲労で足がついていかない場面が見えたからで、悪くて代えたわけではない。むしろあのミスをした後にもう1回自分でボールを受けて、パスをもらう勇気をピッチの中で出せる選手はなかなかいないので、大したものだなと思った」(曹貴裁監督)
曹貴裁監督は「若いので勘違いさせないようにしますけど」と前置きしながら、「若い選手にはチャンスを与えて、失敗から学ばせて、また成長させる。今日の経験は、彼にとっては何物にも代えがたい経験だと思う。若くて良いボランチが出てきたと皆さんに思ってもらえるように、彼にはもっと頑張ってもらいたい」と、さらなる成長に期待を寄せている。また、「彼は何より、挫折したことやうまくいかなかったことをちゃんと受けいれて、次に進める選手」と、神谷が持つメンタル面の強さを長所に挙げている。
リーグ第8節の大宮アルディージャ戦では、曹貴裁監督が神谷か齊藤未月のいずれかで迷った末、17歳の齊藤を56分に投入し、神谷はラスト8分間の出場にとどまったという出来事があった。
「年下で2種登録の選手(※齊藤は23日にプロ契約を締結)が試合に出ることはプロとして本当に悔しかったし、やってはいけないことだと思ったけど、あの時、曹さんが未月を選んだのは、自分の方が技術やメンタル面など、すべてにおいて足りなかったから。でも、今日スタメンで出してくれたのは自分も認めてもらえたということだと思うし、もっともっと頑張って、さらに認められるようになりたい」(神谷)
立ちはだかる壁を一つひとつ乗り越えている神谷にとっては、名古屋戦でのプレーも「良い経験」の一つ。「次の練習でどうアピールするかが大事だと思うので、勇気を持って、自信を持って頑張りたい」とすでに前を向いている。
「今日は本当に勝って嬉しかったけど、みんなに申し訳ない気持ちと悔しさもある。自分もチームを助けられる存在にならないといけないと感じたし、大介さんのようにチームを救える選手になりたい。次は自分がみんなを助けるプレーをしたい」と巻き返しを誓った神谷。
勝利の嬉しさ、先輩への感謝、そして自分のプレーに対する悔しさ。これからの湘南を背負うであろう新星が涙したこの一戦は、神谷自身にとっても、彼の未来に希望を抱く湘南のファン、サポーターにとっても忘れられないものになっただろう。
文=平柳麻衣
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By 平柳麻衣