首位コンサドーレ札幌を下したロアッソ熊本 [写真]=兼子愼一郎
気迫のプレーで手にした約2カ月半ぶりとなるホームでの白星は、熊本地震で被災した方々に、そして自分たちに大きな勇気と自信を与える勝利となった。
30日の明治安田生命J2リーグ第38節で首位のコンサドーレ札幌を迎え撃ったロアッソ熊本が、序盤から気持ちを前面に押し出したサッカーを展開した。立ち上がりから積極的にプレスを仕掛け、セカンドボールに対しても素早い反応を見せて主導権を握る。
開始11分には齋藤恵太が倒されてPKを得ると、これを「俺が蹴る」と覚悟を決めてキッカーを譲ってもらった清武功暉が右足で蹴り込んで先制。その後も高い位置でボールを奪ってカウンターを狙い、何度も札幌ゴールへ襲いかかった。
そして65分、左サイドの高い位置に清武が抜け出してボールを収めると、片山奨典のクロスを平繁龍一が巧みなヘディングで流し込んで追加点を奪取。その後も体を張った守備で首位札幌を完封し、J2残留に向けて貴重な勝ち点3を積み上げた。うまかな・よかなスタジアムでの勝利は、8月14日の第29節ジェフユナイテッド千葉戦以来。当時はまだゴール裏スタンドの耐震チェックが終了しておらず、メインスタンドだけが限定利用されていた。サポーターとの“勝利の儀式”である「カモンロッソ!」がゴール裏スタンド前で披露されたのは、震災発生から半年以上が経過して初めてのことだった。
最後まで力を振り絞って走り切った熊本イレブン。それを象徴しているのが、この日の交代枠の使い方、そして終盤に見せた選手たちの踏ん張りだろう。相手のロングボールに全力ジャンプを繰り返して対応したセンターバックの薗田淳、そして前線からの果敢なプレスとカウンターへの抜け出しを狙い続けた清武は、足がつってしまってベンチへ退いた。その後もインサイドハーフで攻守に奮闘した村上巧と上原拓郎、左サイドバックとして上下動を繰り返した片山も足をつらせたが、交代枠を使い切っていたこともあり、気力で試合終了のホイッスルが鳴るまで走り続けたのだ。
キックオフ前の時点で勝ち点40の18位だった熊本は、J3自動降格の22位まで勝ち点7差、J2・J3入れ替え戦出場の21位まで同6差と予断を許さない状況にあった。厳しい状況下で迎えた首位札幌とのゲームだったが、この日は「(J2残留へ向けた)崖っぷち感がいい方向に出た」(清武)。まさに気持ちで引き寄せた勝利だった。
そしてもう一つ、この日の彼らには、いつも以上に負けられない理由があった。
7880人という観衆を集めた札幌戦は、復興支援企画として熊本地震で大きな被害を受けた県内7町村(大津町、南阿蘇村、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町)在住の方が無料招待されていた。バス11台、600人以上という被災者の皆さんの前で見せた気迫の戦い。清武は「毎試合被災された方が来てくれているので、常に勝ちたいとは思っていますけど、今日は皆さんが来てくれたという部分が勝利につながったところはあったかもしれない」と振り返る。また、途中出場したキャプテンの岡本賢明も「(被災者の皆さんの来場は)すごく力になりましたし、子どもたちにいいところを見せたいとも思っていたので、そういうところの大切さを改めて感じました。気持ちの入った試合を続けていけば、熊本はもっと盛り上がるし、子どもたちも『ロアッソに入りたい』と思ってくれるようになっていくと思う。これを継続して頑張っていきたい」と前を向く。
自分たちの持てる力を出し尽くし、全員で走り切って手にした勝利は、招待した方々にも何かが伝わったはず。巻誠一郎は試合後のインタビューで、こう思いの丈を口にしている。
「僕たちの役目は、県民の皆さんに元気、勇気、活力を与えること。それが大事な使命。なかなか勝ち点3が取れない状況でもサポーターの皆さんの後押しはずっと感じていましたし、今日はその力があって取れた勝ち点3だと思う。僕たち自身も『戦える!』という勇気をもらったし、まだ普段どおりの生活に戻れていない人に少しでも力を与えられたらと思っています。今日は多くのサポーターと喜びを分かち合えて良かった。喜んでくれるサポーターの皆さんを含めてのロアッソ熊本だと思う。それを感じられた試合でした」
リーグ戦は残り4試合。今日の試合結果で入れ替え戦圏内までの勝ち点差が7と開き、順位を15位に上げた。もちろんまだ油断はできないが、札幌戦のような全員一丸となったサッカーができれば、J2残留は自ずと見えてくるはず。清武は「首位相手にいい試合ができて、ゼロで抑えたのは自信になる。これを続けていかなければいけない。相手がコケるのを待っていても仕方ないので、自分たちで残留を決められるように残り試合も頑張っていきたい」と気持ちを引き締めた。
震災復興の旗印として、被災地に元気な姿を見せ続けたいロアッソ熊本。大観衆の声援とともに会心の内容で首位札幌を撃破した一戦は、観戦に訪れた人々のみならず、チームや選手たちにも確実に“勇気”と“自信”を与えたはずだ。まずはJ2残留、そして来シーズン以降のために――。赤き戦士たちが、被災地の代表として最後の最後まで全力でピッチを走り続ける。
文=青山知雄