呉屋は川崎戦で63分から出場し、得点に絡む活躍を見せた [写真]=Jリーグフォト
大逆転での勝利後も、ガンバ大阪FW呉屋大翔の表情は晴れていなかった。「勝ったことはうれしいけど、自分が点を取れなかったので悔しい」
3日に行われた2016明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ最終節で川崎フロンターレの本拠地、等々力陸上競技場に乗り込んだG大阪は、前半だけで2点のビハインドを負う苦境に立たされた。しかし、後半に入ると65分に藤春廣輝、66分に井手口陽介が得点を挙げ、瞬く間に同点に追いつく。76分はアデミウソンがミドルシュートを沈めて3-2。勝ち点3をもぎ取ったG大阪は、年間4位でリーグ戦を終えた。
鮮やかな逆転劇が始まる直前の63分、負傷した大森晃太郎に代わって呉屋が投入された。すると65分、呉屋のポストプレーからチームの1点目が生まれる。その1分後には、アデミウソンがカットしたボールを呉屋が拾って中央へドリブル。同点弾につながるシュートを放った倉田秋へ、絶妙な縦パスを通した。出場からわずかな時間で2得点に絡み、チームメートからも「起点になっていた」と評価を得たが、呉屋自身は全く満足していない。特に井手口の得点場面は、もしゴールが決まっていなければ呉屋にとって「一番悪いプレー」だったという。
「結果的に入ったので良かったけど、自分で打てたのに一瞬判断が遅れてパスになってしまった。もし入っていなかったら、僕の一番悪いプレーです」
呉屋は関西学院大学のエースを務め、関西学生サッカーリーグで3年連続得点王を獲得。4年時には大学4冠を果たし、鳴り物入りで今季よりG大阪へ加入した。国内屈指の攻撃陣をそろえる強豪クラブを選んだのは、決してプロの世界を甘く見ていたからではない。まだ関西学院大所属だった時に、本人は加入を決めた理由をこう語っている。
「自分がもっとうまくならないと、ここでは試合に出られないと感じたから。大卒なので周りからはすぐに試合に出られるチームに行ったほうがいいと言われたし、賭けだとは思ったけど、よりレベルの高いところでやりたいという欲が勝ちました」
迎えた今季、ファーストステージはメンバー外となる試合が多かったものの、G大阪U-23の一員として出場した明治安田生命J3リーグで10試合7得点。結果を残し続けたことが評価され、徐々に長谷川健太監督の信頼を勝ち得ていく。トップチーム初ゴールは2016JリーグYBCルヴァンカップ準々決勝第1戦のサンフレッチェ広島戦。2nd第16節アルビレックス新潟戦では待望のJ1初得点を挙げた。
今季前半は試合登録メンバーの当落線上だったチーム内での呉屋の序列は、試合の流れを変えるキーマンとしての立場に浮上。長谷川監督は川崎戦終了後の記者会見で、「勝負所で呉屋を入れて、前からプレッシャーを掛けられればと思っていた。本当にいい時間帯に点が入った」と話していたが、その点については呉屋本人も手応えを得ている。
「苦しい1年目でしたけど、その中でもやれると感じた部分はあったし、まだまだ足りない部分もはっきりした。チームの中で認めてもらえているという感覚はあるので、そこはプラスに捉えたい」
一方でFWを務める以上、“ゴール”という目に見える結果を残せていないことが一番の課題だとも感じている。
「(川崎戦で)チームが勝っても自分の中でモヤモヤしているのは、ゴールが取れなかったから。そういう意味では新潟戦後のほうがすっきりしました。結局、FWは結果を出すことが第一。たとえ他のプレーが良くなってきたとしても、そこに尽きると思います」
呉屋が自分の一番の武器だと自負するのは「動き出しの早さ」。味方に生かされて良さが最大限に発揮できるタイプだと自覚していることも、技術の高い選手がそろうG大阪への加入を決めた理由の一つだ。精度の高いボールが多く前線に供給される分、FWの決定力の有無は顕著に露呈する。
「ガンバではいつも本当に良いボールが入ってくるので、周りとのコンビネーションではなく、僕自身がもっとレベルを上げないとダメ」
FWにとって最も重要な役割は、チームを勝たせる得点を奪うこと。しかし、だからといってゴールに向かうことだけを考えていれば良いわけでもない。チームの一員として課せられた役割として、特にアデミウソンと2トップを組む時には守備面での任務が増加する。
「アデ(アデミウソン)は個の力がすごいので、守備がそこまでできなかったとしてもチームに必要とされる。チームとして守備での決まりごとがある中で、アデと一緒に出たら僕の守備の負担は大きくなるけど、試合に出るためにはそこを理解しながらやっていかないと」
運動量が少ない選手が近くにいれば、周りの選手が補わなければならない。特にルーキーの呉屋には守備面でがむしゃらに奮闘する姿勢を見せることが求められている。それでも呉屋は言い訳をしないし、エースの陰に隠れる汗かき役にとどまるつもりもない。
「もちろん守備の負担が少なくて、攻撃面に労力を多く使うほうがいい。でも、100パーセントの力を守備に注いでいるわけではないので。やっぱり僕の持ち味はゴールを取ることなので、『守備を頑張れるから』ではなく、『点を取れるから』使われる選手になりたい。今はアデがエースだけど、同い年なので活躍したら正直悔しい。アデから何かを学ぼうというより、超えなければいけない存在だと思っている」
まずはチームの一員としての役割を全うする。その上で貪欲にゴールを目指す。その意志は、途中出場でも多くの決定機に関わり、試合後にひざに手を当てるほど走り切った川崎戦の姿からもはっきりと見て取れた。
そんな呉屋だからこそ、周囲は彼の未来に期待を寄せる。ルヴァン杯決勝でPKを失敗した呉屋を、長谷川監督は直後のリーグ戦で先発起用した。
「呉屋はPKを外したけど、勇気を持って蹴った。その勇気を評価して、彼がどこまで気持ちを出せるのか期待したかった」
呉屋は自身のミスで優勝を逃しても涙を流すことなく、ただひたすらに悔しさを噛み締めていた。その思いは長谷川監督に限らず、彼の姿を目にした多くの人が感じたことだろう。
今季のG大阪に残されたタイトル獲得のチャンスは天皇杯のみ。「天皇杯では自分がタイトル取らせるぐらいのプレーを見せたいし、ゴールを取りたい」。ルヴァン杯、そして1得点にとどまったリーグ戦での悔しさを晴らすために――。呉屋は誰よりも強く、自身のゴールを渇望している。
文=平柳麻衣
By 平柳麻衣