J2第40節を終えて最下位に沈むツエーゲン金沢
昨季序盤戦、J3卒業生のツエーゲン金沢がJ2で単独首位に立つなど、『金沢旋風』が吹き荒れた。しかし、序盤の上昇気流が失速すると、2015シーズンは12位でフィニッシュ。J2・2年目の今季は残留争いの渦中にある。昨季のJ2で一世を風靡した金沢の“現在地”を番記者である野中拓也が斬る。
▼ポゼッションへのチャレンジ
昨年の春、J2・1年生のツエーゲン金沢は、6連勝を含む13戦負けなしの快進撃を見せた。チームの躍進がクラブや行政を動かした結果、金沢は2016シーズンJ1クラブライセンスを取得したものの、夏場以降に失速。19戦勝ちなしの長い苦しみを味わった。シーズン序盤は“堅守速攻スタイル”で勝ち点を積み上げたが、相手に押し込まれる時間が長くなり、エネルギーを消耗する試合が多くなった。
昨季の反省を踏まえ、今季はマイボールの時間を増やすことに挑戦。ボールを保持することが、守備の負担軽減にもつながるからだ。最終ラインではね返して、そのセカンドボールを拾えずに二次、三次攻撃を受ける時間が続けば、いずれ決壊するのは時間の問題だった。
新戦力として熊谷アンドリュー、山﨑雅人、古田寛幸らを迎え入れた金沢の選手層は、昨季より厚くなった。開幕を控えた森下仁之監督は「ポテンシャルの高い選手が多く、去年と比べたら間違いなく質は高い。マイボールの時間も増えるのではないかと思うが、こればかりは相手がいることなのでやってみないと分からない」と話した。
J1のクラブから来た期限付き移籍組は試合経験に乏しく、J2でどれだけやれるかは未知数。ボールをつなぐことにチャレンジするとはいえ、チームのベースが堅実な守備にあることは変わらず、そこに新戦力がフィットするかどうかに懸かっていた。
▼見付かった“落としどころ”
J2・2年目は、最悪のスタートだった。守備の完成度が上がらず、先制点を許す試合が続き、チームは開幕から5連敗を含む11戦勝利なし。ポテンシャルが高い選手たちはボールを触ることを好む一方、守備に問題を抱えていた。先制して守りを固める相手に対してボールを回せる時間はあったが、攻撃の形は見えてこない。「自分たちの時間を増やす」ことが課題だと誰もが分かっていた。しかし、いざ試合になると相手のプレッシャーを恐れた最終ラインが蹴ってしまう。そんな日々が続いた。
そんな理想と現実の狭間で、指揮官は決断する。第12節・レノファ山口戦、[4-4-2]のシンプルな堅守速攻で臨み、今季初勝利を挙げた。それまでは攻撃に手数がかかるぶん、奪われてカウンターを受け、縦パス1本への対応で後手に回った。森下監督は「ずっと足元、足元とボールに寄ってくる選手を使っていたことが、攻撃が停滞していた要因」としながらも、あくまで「速い攻めと遅攻の両方をバランス良くやれたら」と話した。ただ、戦い方がクリアになり、選手たちから迷いが消え、成績も少し上向いた。
さらにクラブは夏場に秋葉勝と中美慶哉を期限付き移籍で獲得。昨季の主力である秋葉がすぐさまチームに溶け込んだのは言うまでもない。あうんの呼吸で中盤を支える、秋葉勝と山藤健太のダブルボランチ復活は明るいニュースだった。森下監督は二人を「チームの心臓」と評している。攻守にハードワークする中美慶哉もすぐさま右サイドハーフにフィット。守備や切り替えの速さを身に付けた熊谷アンドリューは第20節から左サイドハーフに定着。全体が連動する組織的な守備を取り戻し、簡単にボールを失わない選手が増えたことで、中盤の構成力が上がり、ある程度ボールをつなげるようになった。
▼ラスト3にすべてを懸ける
シーズンも佳境を迎え、残留を争うチームはクラブの命運を懸けた大一番が連続する。ここからは精神的な重圧がのしかかることになるだろう。「いまできることは目の前の試合に食らい付くこと」(金子昌広)、「チームのためにハードワークすることが一番大事」(古田寛幸)、「1試合、1試合を粘り強くやりたい」(熊谷アンドリュー)。20位以内でフィニッシュできたら最高だが、入れ替え戦を含めた可能性に食らい付く覚悟が求められる。
第37節・ファジアーノ岡山戦。金沢は今季初、約1年半ぶりに逆転勝利を収めた。複数得点を挙げるチームではないため、先制されると「またか……」という空気が流れ、勝ち星が遠のいていたため、劇的な逆転劇はチームに自信をもたらした。第38節・徳島ヴォルティス戦はスコアレスドローだったが、終盤戦になって負け試合が減っているのは好材料。「あと1点、あと一歩」(作田裕次)相手を上回って勝ち点3をつかみたい。誤解を恐れずに言えば、昨季は勝ち点1でも良かった。だが、いまは勝ち点3が必要。ノルマが異なれば、必然的にメンタルにも違いが生まれるし、それが1失点したあとの焦りに表れている。
第39節・愛媛FC戦を終えて現在21位。金沢が置かれている状況は予断を許さないが、5連敗したときに比べれば、チーム状態そのものは決して悪くない。開幕から10試合で勝ち点を『2』しか積めなかったことが、いまも響いている。うまくいかないシーズンとあって、それぞれが胸に抱えるストレスはあるだろうが、シーズン後半は連敗がなく、何とか踏ん張っている。金沢に強烈なリーダーシップを発揮する闘将はいない。良くも悪くも“みんなで”という雰囲気だからこそ、全員が危機感を持ち、この大ピンチを乗り越えていくしかない。
野中拓也(フリーランスのサッカーライター。サッカー専門新聞エル・ゴラッソでツエーゲン金沢を担当)
By サッカーキング編集部
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