FIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016で準優勝を果たした鹿島アントラーズにあって、決勝のレアル・マドリード戦で2ゴールを挙げたMF柴崎岳や安定した守備でチームを支えたDF昌子源とともに、輝きを放ったのがMF土居聖真だ。2人と同じ1992年生まれ、2011年加入組の背番号8は、全4試合に先発出場。準決勝までの3試合はフル出場で、決勝でも88分までプレーした。チーム4試合で記録した9ゴールのうち、土居は1ゴール3アシスト。約半数の得点に絡んでみせた。
12月3日、明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ決勝第2戦で浦和レッズを2-1と逆転で破ってから、鹿島は濃密で目まぐるしい日々を送った。優勝を決めた2日後に横浜へ移動し、8日の第1ラウンド、オークランド・シティーFC戦から11日間で4試合。次々にやってくる試合、未知の相手との対峙。肉体的な疲労が蓄積する中で、それを凌駕する充実感と高揚感が選手たちの身体を動かしていた。土居は「“何か”が出ちゃってるんだと思います。身体を動かしてくれる“何か”がこの舞台にはあります。このチームにはあります」と、大舞台で戦える喜びやあふれ出るアドレナリンの存在を笑顔で明かしている。
「プロ1年目の時に『クラブW杯に出ることが夢です』と言ったことが実現して嬉しい。しっかりと爪痕を残せればいいですね」
浦和に勝ってJ1制覇を決めた後、土居はクラブW杯出場の喜びをこう語っていた。そして足を踏み入れた「夢」の舞台、鹿島の背番号8が躍動する。まずは8日の初戦、88分にFW金崎夢生の逆転弾をアシスト。DF山本脩斗からのクロスを頭で叩きつけ、金崎へと届けた。「力を込めてシュートを打ったら、力が入り過ぎて叩きつけたみたいになったんです」と苦笑いしていたが、さっそくゴールに絡んでみせた。
続く11日の第2ラウンド、マメロディ・サンダウンズ戦。土居は再び決勝弾を演出した。63分、FW赤崎秀平からのクロスボールを頭で折り返すと、MF遠藤康が左足を一閃。シュートは相手GKの手を弾いてゴールへ吸い込まれた。先制に成功した鹿島は、2-0でアフリカ王者を撃破。そして14日、南米王者アトレティコ・ナシオナルとの準決勝で、土居は“歴史的PK”のスコアラーとなる。28分、柴崎が蹴ったFKに反応したDF西大伍が倒されたプレー。2分程度が経過したうえで、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)によってファウルと判定された。突然のPK宣告に、スタジアムは騒然となった。
のちに「FIFA主催大会で初めて、VARによって与えられたPK」と世界中で報じられることとなるシーン。そして南米王者の猛攻を受け続けていた鹿島にとって、願ってもない先制の絶好機。極めて重要な意味を持つ、計り知れない重圧のかかるPKキッカーに名乗りを上げたのが、土居だった。緊張感がみなぎる中、思い切りよく右足を一閃。放たれたシュートは、相手GKの逆を突いてゴール左隅へ突き刺さった。
「きっかけがあれば決めたいと言っていたので。何人か候補がいて、自分もその中に入っていたんです。誰もボールを持たなかったので、“自分で行こう”と思って。自信を持って蹴ることができたので良かったです。コースは決めていなかったけど、“駆け引き勝ち”かな」
勇敢なチャレンジを成功させた土居の一撃でリードを得た鹿島は、その後も続いたアトレティコ・ナシオナルの猛攻を耐えしのぎ、終盤に2点を加えて3-0と勝利。アジア勢初の決勝進出を成し遂げた。
「昔は夢を与えてもらう側だったけど、今は夢を与える側になった」。ジュニアユースから鹿のエンブレムを胸にピッチを駆け抜けてきた24歳は、PK弾を決める前日に懸ける思いを語っていた。
「チャンピオンシップからバタバタしたままここまで来て、あまり実感がないけれど、ピッチに入る時は『夢を夢で終わらせたくない』と思っています。1つずつ勝ち上がることができているのは素晴らしい経験だし、まだ終わっていないので、夢を夢で終わらせたくないんです。決勝まで行って優勝することが目標なので、実現したいです」
トップチーム昇格後2年間はほとんど出場機会を得られなかった土居。かつては“ネガティブ聖真”と自分で言うほどの性格だった若武者も、3年目の2013年夏にレギュラーの座を掴み、2014年にはリーグ戦で8ゴールを記録した。そして昨季、クラブから背番号8を託される。MF小笠原満男(現在は40番)やMF野沢拓也(現・ベガルタ仙台)らが継承してきたレギュラーナンバーを背負い、「土居聖真という“新しい8番”を作り上げていきたい。優勝に貢献できるような選手にならないといけない。しっかりと責任を持って、鹿島の“顔”になれるようにしたいですね」と抱負を語っていた。その言葉は、8番を背負って2年目の今季、J1制覇という形で実現した。そして迎えた「夢」の舞台。あのPKは、単なる1ゴール以上の重みがある。クラブの歴史において、チーム内の立ち位置において、一段上へ足を踏み入れる――。そんな価値のあるスコアだった。
「まだ、終わったわけじゃないからね。こんな経験はなかなかないので。やり方を変える必要はないと思うし、自分たちらしいサッカーで戦うだけです」
準決勝を終えて、静かに決意を語った土居。「優勝」という目標は果たせなかったが、レアル・マドリードと対峙した決勝でも、持ち前のクイックネスとアジリティーを活かして何度も突破を仕掛けた。厳しいプレスに屈する場面も少なくはなかったが、トラップで反転し、前を向くプレーの数々こそ、積極性の表れだ。44分、柴崎の同点弾を演出したのも背番号8だった。左サイドでボールを持つと、鋭いキックフェイントで対面のブラジル代表MFカゼミーロを振り切り、縦へと突破。低いクロスを通してみせた。
優勝することはできなかった。それでも土居にとって、逞しく成長を遂げた大会であったことは間違いない。今季のリーグ戦、出場30試合(先発は23試合)中、フル出場は10試合だったアタッカーが、クラブW杯では4試合中3試合にフル出場。FWの一角で先発し、後半途中から左サイドハーフへと配置転換されるパターンも定着した。前線からのプレスを要求されるチームにあって、多大なる運動量が必要なタスクをしっかりと遂行。絶えずスペースを探し、見つけて活かす戦術眼も遺憾なく発揮していた印象だ。
鹿島は試合を追うごとに相手のレベルが上がっていく4試合で、国内では体感し得ないプレースピードやフィジカルの相手に必死に応戦し、適応と進化を遂げてきた。その中で輝きを放った土居が、これからどんなプレーを見せてくれるか。充実した表情を悔しさで包み込んで横浜国際総合競技場を去った夜から2日。J1王者として参加する20日のJリーグアウォーズを経て、チームは21日からトレーニングを再開する。24日に再開する天皇杯へ、そしてさらなる高みへ。鹿島の背番号8は再び走り始める。
取材・文=内藤悠史
By 内藤悠史