【コラム】鹿島は真の黄金時代に突入できるか?…2冠王者が乗り越えるべきハードル

鹿島アントラーズ

Jリーグと天皇杯の2冠を達成した鹿島アントラーズ [写真]=©JFA

  スーツにネクタイを締めた選手もいれば、ジャージー姿のままの選手もいる。6大会ぶり5度目となる天皇杯全日本選手権大会制覇で歓喜の雄叫びを上げて、9年ぶりとなる国内タイトル二冠を達成した直後のロッカールーム。波乱万丈に富んだ戦いの軌跡を刻んできた鹿島アントラーズが、2016シーズンの解団を迎えた。

 ホームタウンの茨城県鹿嶋市に戻ることなく、延長戦の末に川崎フロンターレとの元日決戦を2‐1で制した市立吹田サッカースタジアムで、選手たちは思い思いの服装に身を包んで解散。延長4分に決勝弾を叩き込んだヒーローのFWファブリシオは期限付き移籍の満了に伴い、この日が最後の顔合わせとなる。

 一抹の寂しさを胸の奥底に秘めながら、キャプテンのMF小笠原満男は静かな口調ですぐに訪れる次なる戦いを見すえた。

「本当に大事なのはこれから。次のシーズンで勝てなくなったら、(二冠獲得も)意味のないことになる。ただ、日程的なものを含めた中で勝ち切ったこの経験は必ず財産になる。J1は1ステージ制になるので安定した力が求められるし、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)もあるからこういう日程も増える。こういう時の勝ち方を覚えて、過密うんぬんではなく当たり前と言えるように、もっとタフで強いチームにならないといけない。自分もタイトルを取って成長してきたから、今いる選手たちももっと成長して、鹿島の伝統というものを繋いでいってほしい」

 新チームの始動日は今月17日に設定された。明治安田生命J1リーグ・ファーストステージが開幕したのが昨年2月下旬。長いシーズンを戦い抜いた上に、特に明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ準決勝が行われた同11月23日からの39日間で、2つの延長戦を含めた10試合を消化してきた。

 その中には死闘の記憶がまだ残る、レアル・マドリードとのFIFA クラブワールドカップ ジャパン 2016決勝も含まれる。「今したいことは」と聞かれれば、誰もが異口同音に「休みたい」と返す。待望のオフがわずか15日間となっても、選手会長のDF西大伍はジャージー姿で涼しい表情を浮かべる。

「オフが長かったとしても、本当に身体を休める期間は同じくらいなので。今年は自主トレがなくなる、と思えばいいんじゃないですか」

レアル・マドリードを相手に健闘を見せたクラブW杯 [写真]=FIFA via Getty Images

 フィールドプレーヤーではただ一人、39日間で10試合、合計960分間にフル出場。最終ラインの中心でチームを鼓舞してきたDF昌子源はネクタイにスーツ姿で「まあ、休みがあるだけましかな」と苦笑いを浮かべながら、図らずも終盤戦で鹿島が注目された状況に気を引き締めた。

「この39日間で8勝2敗ですか。同じような成績を、次のシーズンの始めから継続していかないと。特に僕らは4連敗でセカンドステージを終えてからのチャンピオンシップ入りやったけど、次のシーズンからはチャンピオンシップ制度もなくなる。チャンピオンシップを取った勢いでウチはここまで来られたけど、なかったら本当に難しいシーズンだった。去年は何かと『鹿島の年』と言われたかもしれないけど、続けて『やっぱり鹿島だね』と呼ばれるような年にしないと。まずはしっかり休んで、終わったばかりのシーズンをすべて忘れること。去年がよかったから同じことを続ければ勝てると、一人でも思えば特にACLでは絶対に勝てない。新たな気持ちで、向上心をもっていかないと」

 昌子の記憶にはファーストステージを制しながら、年間勝ち点が59にとどまる原因となったセカンドステージの不振が刻まれている。下克上として注目された年間王者獲得も、安定した実力のバロメーターとなる年間勝ち点は1位の浦和レッズの74、2位の川崎の72にそれぞれ大差をつけられた。

 何よりもクラブワールドカップは次回大会から、舞台をUAE(アラブ首長国連邦)移す。開催国代表がUAE王者に移るため、再び世界の強豪を熱い戦いを繰り広げるにはACLの頂点に立つしかない。国内三大タイトル数は今回の天皇杯獲得で「19」と、他のJクラブの追随を全く許さない鹿島だが、翻ってACLではラウンド16の壁すら打破していない負の歴史が続いている。

 メインスタンドで選手たちが天皇杯を掲げる姿を見つめていた鈴木満常務取締役強化部長も、2月には幕を開ける新シーズンへ目を向けると、感無量の表情に危機感を交錯させている。

「この1ヶ月ちょっとはいいサッカーをして、タイトルも2つ取って、若い選手というか経験の浅かった選手たちがすごく伸びてきている部分はある。でも冷静にシーズンを分析すればセカンドステージはあんな結果になっているし、YBCルヴァンカップでもグループステージで敗退している。ひとつサイクルが乱れると、まだまだあのようなサッカーになりうるチームなんですよ」

 元日をもって強化部長職に在任すること22年目を迎えた、常勝軍団の生き字引でもある鈴木常務はここ4年間の年間勝ち点の推移をとりわけ重視している。2013シーズンが59、2014シーズンが60、2015シーズンが59と横ばい状態が続いている。

 昨シーズンに至ってもファーストステージを勝ち点39で制しながら、11位にあえいだセカンドステージでは20しか上積みできなかった。連覇のかかったYBCルヴァンカップでも、グループリーグの6試合でわずか1勝しかあげられなかった。20日間の空白が生まれたセカンドステージ最終節とチャンピオンシップ準決勝との間で「一度膿みを出させた」と、鈴木常務は振り返ったことがある。要は喝を入れたわけだ。

「チームが集中できるのはだいたい1ヶ月くらいだから、そういう流れに持っていければ、という確信みたいなものはあった。今はギリギリで上手く戦えば勝てるけど、まだ他チームとの差がない。ウチとジュビロ磐田が争っていた時代みたいに、頭が抜きん出たチームにしたいという思いがあるので。次のシーズンで優勝すればJリーグからの配分金も増える。次に勝って勝ち組に入るのとそうじゃないのとでは、どんどん差がついていく。その意味でも、来年は少し無理をしてでもやらなきゃいけない」

 来シーズンの新戦力には、J1で屈指のボール奪取術を誇るボランチのレオ・シルバ(アルビレックス新潟)をはじめ、ペドロ・ジュニオール(ヴィッセル神戸)と金森健志(アビスパ福岡)の両FW、そして天皇杯決勝でも山本脩斗の代わりがいない点を露呈した左サイドバックの候補となる三竿雄斗(湘南ベルマーレ)がすでに発表されている。

 特にレアル・マドリード戦で2ゴールをあげたMF柴崎岳に関して、鈴木常務は「(海外からの)オファーはあると思っている。(移籍の)覚悟はしているし、そのために対策も立てている」と明言。柴崎のヨーロッパ移籍に備えて、レオ・シルバを獲得したことを認めている。

クラブW杯ではブロンズボールに輝いた柴崎 [写真]=FIFA via Getty Images

 一方でイギリスの動画配信大手パフォーム・グループが提供するスポーツのライブストリーミングサービス『DAZN(ダ・ゾーン)』と締結した、10年総額約2100億円にのぼる放映権契約を原資として2017シーズンから均等配分金が1億8000万円から3億5000万円、J1優勝賞金が1億円から3億円にそれぞれ増額され、さらに優勝すれば3年間で最大15億円となる理念強化配分金も新設される。つまり、来たる2017シーズンを制すれば21億5000万円が分配される。

 2016シーズンもファーストステージ優勝で5000万円、年間勝ち点3位で2000万円、チャンピオンシップ準決勝で1500万円、同優勝で1億円、クラブワールドカップ準優勝で4億7000万円、そして天皇杯優勝で1億円と合計7億5500万円の賞金を獲得したが、来シーズン以降はまさに桁が違ってくる。鈴木常務が苦笑いしながら続ける。

「2016シーズンの賞金は今年度の決算になるから、投資に回せるといっても難しいんだけどね。ただ、次のシーズンでも勝てばいろいろな配分金や賞金も入ってきて、投資というか、いいサイクルが生まれるので。年間勝ち点の壁を打ち破れないでいるという現状から、競争を激しくするような補強をして、上手くすれば勝てるというチームから、力で勝ち取れるチームを目指していこうということ」

 近年にない積極的な補強に、20歳のFW鈴木優磨は「来シーズン優勝するために、多少借金をしてでもいろいろな選手を取りに行っている。ウチは常に優勝しなきゃいけないクラブなので」と表情を引き締めた。レオ・シルバとポジションが重なるMF永木亮太も「鹿島に良い選手が揃うのは、去年も変わらなかったことなので。お互いに戦いながらできるので楽しみです」と早くも闘志を高ぶらせる。

 新チームは体作りを終えた後の1月下旬にタイ遠征を行い、1月末からの宮崎合宿を経て、J2水戸ホーリーホックとのプレシーズンマッチ、浦和との富士ゼロックススーパーカップ2017、ACLグループリーグ第1戦、そして2月25日のJ1開幕といきなりの過密日程を迎える。

「次はもっと打倒アントラーズで来るチームが多くなる。その中でもちろんJ1連覇を目指すし、一度でもタイトル獲得を味わうと『もうやめられん』というか、もう一回取りたくなる。去年も当初の目標は三冠であり、そこにクラブワールドカップ制覇も加わった。その中で二冠に終わったことは鹿島としては不甲斐ないし、反省するところでもあるので」

 昌子がチーム全員の思いを代弁する。勝って終われたからこそ待ち受ける過密日程を、小笠原が指摘したように「当たり前」と思えるために。確かに身体は疲れているが、メンタルの部分ではすでに鹿島の選手たちは、真の黄金時代を迎えるためのハードルを乗り越える準備を整えている。

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