その勢いはとどまることを知らない。31歳で自身初のJ1リーグ得点王に輝くと、同タイトルを3年連続で獲得。キャリアの円熟期を迎えた大久保嘉人は、J1通算得点数を171ゴールに伸ばし、前人未到の領域に突入している。
なぜ、34歳になった今でもゴールを量産できるのか。ストライカーとしての変化やゴールへのこだわりを語った。
インタビュー・文=高尾太恵子
取材協力・写真=ナイキジャパン
■局面での選択肢が増えた
――大久保選手は2013年から2桁得点を維持しています。30代に入り、まさに今がストライカーとしての旬だと思うのですが、10代〜20代の頃と比べてプレーで変化したところは?
「どうしたら自分が生きるのか」を考えるようになりました。それこそ、国見高校時代はがむしゃらに走って、がむしゃらにシュートを打っていた(笑)。今は90分間、常に100パーセントで走ることはないです。それは、相手やその時のシチュエーションに応じてプレーできるようになったことが大きい。若い頃に比べて、今のほうがプレーしていて楽しいです。
――「考えるようになった」という部分をもう少し具体的に教えてください。
ただ一直線にゴールに向かうのではなく、パスを選択するのか、ドリブルでいくのか。ディフェンダーの動きや場所をイメージしたり、シュートに持ち込むまでの選択肢が増えました。
――試合前にイメージトレーニングをすることはありますか?
僕はないですね。対戦相手の映像も見ません。
――スカウティングの映像もですか?
見ないです。映像を見て変なイメージを持ってしまうのが嫌なんですよ。「自分は自分、俺について来れないだろう」という強い気持ちで、先入観を持たずに目の前の相手と戦いたい。映像を見ていたとしても、試合で勝てないと意味がない。その時の動きに対応できるかが大事だと思っています。
――ディフェンダーとの駆け引きで意識していることは何でしょう。
相手がどこを見て、何を考えているのかを観察するようにしています。自分へのマークが厳しくなればなるほど裏をかくチャンスがある。フェイントをかけた時の反応で「こいつ焦っているな」と感じたら、「次はこの動きで試してみよう」とか。あとは飛び出しのタイミングを意識しています。やっぱりオフサイドになってはいけないので(笑)。
――どういうタイプのディフェンダーが苦手ですか?
しつこい選手やスピードがある選手は苦手ですね。海外は一瞬の寄せが速いですし、スライディングで一気に止めようとしてくるんですけど、逆に言えば、そのスライディングをかわすことができればキーパーとの一対一に持ち込める。日本だとかわしてもずっとついてくるんですよ(苦笑)。
――そのしつこい相手を剥がすためには?
一瞬の隙を逃さないようにしています。例えば、ピタッと止まった瞬間に一歩横にずれてシュートを打てば、相手は足を出すタイミングがわずかに遅れます。ディフェンダーの足のステップを見ながら、うまく駆け引きしています。
――試合が進むにつれて、相手の癖も分かってきますか?
分かりますね。その癖をつかむまでの時間も早くなりました。昔は勢いだけでシュートを打っていましたから(笑)。
■PKは嫌い、でもゴールは譲れない。
――ディフェンダーを剥がした後に待ち構えているのがキーパーです。そこでも駆け引きがあると思います。
「右サイドから打った時、キーパーはどのコースを消すかな?」というように、とにかくイメージをします。多くの場合、股が開くのでニアを狙って打ちます。
――あんな狭いところによく入るな、と感心してしまうんですが、意外と狙い目だったりするんですね。
そうです。僕にとっては狙いやすい場所ですね。
――苦手なキーパーはいますか?
うーん……いないですね。どんなキーパーが相手でも、コースが見えれば入れる自信があります。
――PKの時はいかがですか? 独特の緊張感があると思います。
身長が高い選手は嫌かもしれない。ギリギリまで動かない選手も苦手ですね。PKはめちゃくちゃ緊張しますよ。嫌いです(苦笑)。
――でも、ボールを離さないですよね(笑)。
そこは譲れないんですよ。やっぱり自分が点を取って、チームの勝利に貢献したい。決める自信はあるし、外しても「試合中に決めればいいか」とポジティブに考えられるんですけど……緊張するので嫌いです(笑)。でも、PKを蹴らなかったら後悔する。
――PKを失敗するよりも、譲る方が後悔すると?
そうなんですよ! 試合の流れの中で、ディフェンダーを抜いてキーパーと一対一になっても緊張しますけどね(笑)。そこで決めなければ批判されることもある。だからこそ、そういう場面で点を取った時の喜びは大きいです。もう快感ですね。
――以前のインタビューで、ミドルシュートを決めた時も快感だとおっしゃっていました。ゴールネットに入った瞬間は時間が止まったような感覚で、スタジアムの歓声も聞こえないと。
その気持ち良さに匹敵するくらいです。一対一は簡単そうに見えて、結構難しい。後ろからディフェンダーが戻ってくるかもしれないという焦りもありますから。そこで落ち着いてシュートを打てるようになったのも、年齢を重ねるにつれてです。やっぱり考えるようになって、選択肢が増えたことが大きいと思います。
■このスパイクでたくさん点を取りたい
――ゴールを取り続けるために、大久保選手がスパイクに求めることを教えてください。
こだわりが多いんですけど、履いた時のフィット感や軽さ、柔らかさ、あとはポイントがどれくらい芝生を噛むかという点です。
――新スパイク『ハイパーヴェノム3』の履き心地はいかがですか?
紐を結んだ時にギュッと包み込まれるようなフィット感があって、すぐ足に馴染んでくれました。ストライカーは相手の意表を突く動きをするので、トリッキーな動きや一瞬の切り返しについてきてくれるスパイクは最高ですね。側面部分の凹凸でボールに摩擦が生まれるので、ブレ球や速いボールが蹴りやすい。しっかりとボールを捕らえられている感触です。
――ピッチでもかなり目立つカラーに仕上がっています。
僕は派手でかっこいいスパイクが好き。すごくテンションが上がるカラーです。このスパイクでたくさん点が取れればいいと思います。
■馬鹿になれ!
――大久保選手に憧れているサッカー少年がたくさんいると思います。一方で、日本はストライカーがなかなか育たないという印象があります。
外国人ストライカーと比較したら、僕だってまだまだですよ(笑)。言葉は悪いかもしれませんけれど、外国人選手には「馬鹿」が多い。日本人は「外れたらどうしよう」と恥ずかしがったり、「自分だけでシュートまで持ち込んだら何か思われるんじゃないか」と気にしすぎるところがある。そこが外国人選手と大きく違う部分だと思います。批判は怖いかもしれないですけど、自分が「行ける!」と思ったら突っ込んだらいいんですよ。
――いい意味で「馬鹿」になれと。
そうそう。プロになって日本代表に入りたいと思うのであれば、それくらい強い気持ちがないといけない。海外には「俺がヒーローになってやる!」という勢いでプレーするストライカーがごろごろいますよ。日本人は高い技術を持っているんだから、時には周りを気にせずに「馬鹿」になることが必要だと思います。
――では、最後に今季の意気込みを聞かせてください。
とにかくFC東京でのプレーが楽しみです。僕は、対戦相手のサポーターにブーイングされる方が燃えるタイプ。「注目されているんだ」と感じるので、相手にとって怖い選手でいられるように今年も爆発したいです!
【インタビュー】なぜ原口元気は走り切れるのか…躍進を支える“肉体改造プラン”とは
【インタビュー】浅野拓磨「前半戦の出来は40点」 ドイツでも変わらぬストライカーとしてのこだわり
By 高尾太恵子
サッカーキング編集部