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【ライターコラムfrom松本】J1昇格へチーム最年長の田中隼磨が見せた「不退転の決意」

2017.03.22

「今年はホームで全部勝ちたい」と語った田中はJ1昇格へ強い決意を示す [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 3月19日、アルウィン。第4節にしてようやくホーム開幕を迎えた雪国の松本に、他でもないこの男が一足早い春をもたらした。

 田中隼磨

 チーム最年長の34歳で、唯一の県内出身者。その輝きは色褪せていないどころか、ますます鮮烈に光を放っていた。

 そのプレーは24分だった。左サイドで起点をつくった局面で、田中は逆サイドの大外からジェフユナイテッド千葉DF陣の動きを確認。マッチアップする千葉のホルヘ・サリーナスがボールに気を取られているのを見逃さず、死角からスルリと前に入り込んでゴール前でクロスを受けた。GKの位置を一瞥し、左脚でゴール。15,000人超を飲み込んだスタジアムは一瞬にして歓喜に沸き、試合も3−1で白星を手にした。「スロースターター」と呼ばれがちな松本がホーム開幕戦で勝ったのは、地域リーグ時代の2009年以来実に8年ぶりとなる。

「相手がジェフという多少特殊なチームだったけど、臨機応変に対応するのも自分たちのスタイル。それを貫いてホーム開幕戦で勝てたのは本当に大きい」と田中。そもそも生来の負けず嫌いな自身にとって、今季は悲壮なまでの覚悟を背負って臨むシーズンだ。昨季は84もの勝点を積み上げながら得失点差の3位に終わり、J1昇格プレーオフも敗退。今シーズン始動直後には「何も努力をしていない人は悔しい思いを味わって当然だけど、このチームはそうじゃない。ここでやらなきゃ男じゃない」と語気を強めていた。

ホーム開幕戦は田中の先制点を含む3ゴールで快勝 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 だが、横浜FCとの開幕戦はその情熱が報われず黒星発進となったうえ、自身は82分にピッチを去った。加入4年目、リーグ戦102試合目で初となる途中交代。「もちろん内に秘めた思いはいろいろあるけど、それはピッチの上で表現するしかない」。多くを語りこそしないが、胸中が穏やかでなかったことは確かだ。第2節愛媛FC戦、スコアレスドロー。第3節FC岐阜戦、ようやく白星。そして首位タイの千葉を迎えるホーム開幕戦で勢いを加速させられるかどうかが、不退転の今季を占う上で重大な意味を帯びていた。

 そんな状況で大仕事をやってのけた田中。渾身のガッツポーズをつくって喜びを爆発させた。「素直にうれしかった。アシストも大好きだけど、サッカーをやっている以上はやっぱりゴールの醍醐味を忘れちゃいけない。改めてそのフィーリングを思い出した」。今季は開幕戦から枠内に強烈なシュートを飛ばしており、そのトライが値千金のゴールを引き寄せた。

 そして次節、再びホームに迎えるのは古巣の名古屋グランパス。かつてJ1制覇の歓喜を分かち合った仲間こそ少なくなったものの、ひときわ思い入れの強い相手であることに変わりはない。「名古屋にとっても自分たちにとってもJ2は最高の舞台とは言えないが、やっぱり特別な感情になるし名古屋と試合ができるのは幸せ。お互いが切磋琢磨して一緒に上がれれば最高だと思う」と語る。とはいえもちろん、「直接対決」で勝ちを譲るつもりは毛頭ない。「今年はホームで全部勝ちたいと強く思っているし、自分たちの戦いをすれば勝てる」。そう語る胸のうちは、北アルプスの根雪さえ溶かしそうなほどに熱くたぎっている。

文=大枝令(山雅プレミアム編集長)

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