MF原川力の一言に、進化へのヒントが凝縮されていた。
「勝っている時の試合運びが下手、というか」
原川は物足りなさを感じているようだった。「ボールを持ちながら試合をコントロールできるようにならないと、相手が嫌がるチームにはなれない。もっと引き出しが多いチームになるべきだと思います」。伝統の堅守速攻やハードワークだけでは、“怖さ”は生まれないという。
4月1日に行われた2017明治安田生命J1リーグ第5節、サガン鳥栖はFC東京と勝ち点1を分け合った。開始4分にPKで先制したがその勢いには乗れず、次第にカウンターの応酬で相手ゴールに迫る場面が増える。最終的に3-3の痛み分けに終わった試合は、なんとも締まりのない内容だった。
「去年の映像を見ていても思うのは、リードしている展開の中でも“守り切る”ということが頭にありすぎること。もちろん、そのイメージは大事ですし、それがチームの特長でもあります。でも、そこから2点目を取ることや突き放すことを考えると、多少は攻撃にも頭を変えていかないといけない」
今季から鳥栖に加入した原川は、「4-3-1-2」の3ボランチの一角として出場を重ねている。すでに直接FKで2点を決めているのは収穫だが、「サイドは運動量やスプリント回数が多い」と話すように、非凡なパスセンスで攻撃を操る場面はまだまだ少ない。ゲームメイクというよりは守備に追われている印象が強く、本人も「僕はボールを触ってなんぼのタイプ。もっとボールを触りたいです。90分を通して手応えを得られる試合はほぼない」と分析する。
チームが一つ上のステージに登るためには、“勝ち切る”力をつけていく必要がある。エースのFW豊田陽平を筆頭に、FWビクトル・イバルボやDFキム・ミンヒョク、DF谷口博之といった空中戦に強いタレントがそろっている鳥栖の攻撃は、シンプルなクロスやロングボールが主体。原川の言う通り、プレッシングの強度はそのままに、変化に富んだ攻撃を仕掛けることができれば、「相手が嫌がるチーム」へと進化を遂げるはずだ。
「守備だけにならないように、攻撃の引き出しを増やしていくべき。多少はボールを持つ時間が必要だと思います。一人ひとりのゲームを読む力や柔軟性が必要」
得意のロングカウンターを封じられた際、いかにボールを動かしながら相手の隙を突くことができるか。そのためには司令塔のMF鎌田大地や、ベルギー帰りのFW小野裕二との連係がポイントになってくるだろう。小野もまた「力と大地の3人でしっかりとパスをつないで、そこに豊田さんやイバルボが裏に抜けたり、ボールを受けに来たり。もっと流動的に動けるようになれば、相手もどこを突いたらいいのかが分かりづらくなると思う」とコンビネーションの重要性を説いた。
空中戦と地上戦、そして速攻と遅攻をうまく使い分けながら相手をかき回すことができれば、鳥栖の攻撃が面白くなる。原川は冷静に言葉を続けた。
「僕は個人で打開するのではなく、周りを使いながらペナルティエリアに入っていくタイプ。周囲との連係が必要なので、もっとボールを触らなければいけない。落ち着かせる役にもならないといけないと思う」
守備を第一に考えるマッシモ・フィッカデンティ監督が構築した基盤をもとに、2年目はどう進化していくのか。“守り切る”から“勝ち切る”チームへ――。攻撃バリエーションの増加が一つの鍵となりそうだ。
取材・文=高尾太恵子