金沢は柳下新監督(右)の下、新たなチーム作りを進めている [写真]=©J.LEAGUE PHOTOS
三年目のJ2を戦うツエーゲン金沢は、ここまで2勝2分3敗の16位。今季からチームを率いる柳下正明監督はコンサドーレ札幌、ジュビロ磐田、アルビレックス新潟で監督を務めた経歴を持つ。金沢は新指揮官の下、新たなチーム作りを進めている。柳下監督が掲げるのは、自分たちからボールを奪って速く攻めるアクションサッカー。前線から激しいプレッシングを行い、奪ったら素早くゴールを目指す。
選手の言葉を借りれば、志向するサッカーは昨季から「180度変わった」。大きな変更点として、守備方法がゾーンディフェンスからマンツーマンディフェンスに変わったことが挙げられる。昨季はボールの位置を基準して選手たちがポジションを取り、守備ブロックを形成。前線からの制限、サイド誘導、ボール奪取のプロセスを踏んでいた。
しかし、今季はとにかく人をマークすることが求められる。局面での優先順位が昨季と真逆になった部分もあり、選手たちはかなり苦労した。瞬間的に、ゾーンで守っていた頃の対応をしてしまうこともしばしば。練習場に柳下監督の声が響く。「スペースはシュートを打たない、シュートを打つのは人!」、「(フリーになっている選手を示して)誰がマークする!」。トレーニングとゲームでトライアンドエラーを繰り返しながら、少しずつ積み上げている。「攻撃も守備もやるべきことをちゃんとやれば、十分良いゲームができる」(柳下監督)。
第1節・愛媛FC戦、第2節・水戸ホーリーホック戦は4-4-2で臨んだものの、3-4-2-1の相手にうまく剥がされた。相手がどんなシステムだろうと、4-4-2を信条とする指揮官だが、その後は3-4-2-1の相手に対してミラーゲームを挑んだ。ただでさえマークをつかめない中で、ミスマッチが生じるチームと戦うのは難しいという判断だった。その決断が奏功し、第3節・湘南ベルマーレ戦は一歩も引けを取らずに引き分けた。しかし、同じく3-4-2-1のミラーゲームとなった第4節・V・ファーレン長崎戦は1-2の敗戦。ミラーゲームを嫌った長崎のビルドアップに、前線からのプレッシングがハマらなかった。4-4-2同士の対戦となった第5節・町田ゼルビア戦は2-2の引き分け。
そして第6節・ザスパクサツ群馬戦。3-4-2-1の群馬に対して、4-4-2で臨んだ金沢は前からのプレッシングで群馬のビルドアップを粉砕。2-0で今季初勝利を収めたものの、相手に救われた部分も否めない。前半は守備の課題が露呈した。相手ボランチに前を向かれ、シャドーはフリー、カウンター対応もかなりバタついた。それでも、ハーフタイムの修正により後半は大きく改善。金沢はサイドハーフが中に絞ってトップ下気味になる4-2-2-2でマークを明確化。トップ下がボランチを抑え、ボランチがシャドーを捕まえた。
柳下監督はミスマッチが生じる相手に4-4-2で挑んだ背景を、「(3-4-2-1だと)攻撃でボールサイドで2対1を作るということが、なかなかできていなかったから、4-4-2で(臨んだ)。その方がみんなの距離(間)が良くなる」と説明。「システムが3-4-3のチームはたくさんあるけど、それぞれに特徴があって(4-4-2での対応が)難しいチームもあれば、ある程度マークにつきやすい、見つけやすいチームもある。これは一概には言えないけど、基本的にやることは同じだから、(群馬戦が)ヒントになってくれれば良い」という。
試合ごとに少しずつ良くなっているとはいえ、課題は山積みである。「無駄な動きが多い。(守備で)一人が2回も3回も追っている状況が結構ある。そうじゃなくて、みんなが同じ距離(を動く)。アプローチに行って、横パスが出たら次の人が行けば良い」(柳下監督)。また、度を越えた“行ったり来たり”で消耗しているのも事実。奪ってから速く攻めて、速く奪われて攻められるから、速く戻らないといけない。ある日のトレーニングで柳下監督が「ボールを落ち着かせないと、行ったり来たりはしんどいぞ!」と声をかけることもあった。「考えることが大事。こんなにずっと行っていたらしんどいと体で分かっただろうから、しんどかったらどうしたら良いのか。『誰かちょっと持てよ、ここしっかりつなごうよ!』というやつがいない」。縦への速さをベースに、ボールを動かせるようになれば試合運びがラクになるのは明らかだ。夏場を見据えた効率的な戦いも必要だろう。
第7節・ファジアーノ岡山戦。90分を通じて高い集中力と強度を保った金沢は、終了間際のゴールで勝利を収めた。互いにロングボールを蹴り合う展開の中、シンプルな早めのクロスで岡山を押し込んだ。相手がビルドアップを試みる機会は少なく、ミスマッチが生じて数的不利に立たされるはずの“対3バックの前線からの守備”という観点において、評価しづらいゲームだった。今週末に迎える第8節・大分トリニータ戦。3-4-2-1の大分に金沢が4-4-2で臨んだなら、2トップと両サイドハーフに注目してほしい。大分のビルドアップに対して、うまく連携して対応できたとき、金沢のサッカーはひとつ階段を昇ったと言える。
文=野中拓也
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