J2に降格した広島にやって来たサンパイオ ©J.LEAGUE PHOTOS
クラブ創設以来25周年を迎える今季、サンフレッチェ広島は週末のベガルタ仙台戦を「25周年記念試合」と銘打って、様々な企画を準備している。その中の目玉の一つが「レジェンド中のレジェンド」。セザール・サンパイオの招請である。
セザール・サンパイオ。元ブラジル代表で1998年フランス・ワールドカップの準優勝メンバー。この大会で彼は、開幕戦でのオープニングゴールをはじめとして3得点。レギュラーとして堂々たる存在感を示したのだ。そしてテレビに映る名前の横には「横浜フリューゲルス」。この年の年末、横浜マリノスと合併してしまう伝説のクラブ名が、誇り高く刻まれていた。
デポルティボ・ラ・コルーニャでスペインリーグやチャンピオンズリーグでも活躍した彼が2003年、J2に降格してしまった広島にやってきたのだ。驚くなという方が難しい。その年に35歳を迎えるとはいえ、プレーの質は超一流。他のJ1クラブやフラメンゴなどブラジルの伝統あるクラブからもオファーがあった中で、偉大なるサンパイオがJ2のチームを選択するなんて。
きっかけは愛娘だった。
2002年、柏レイソルとの契約満了が決まり、日本を去ってブラジルでのプレーを決意し、代理人に告げようと思っていた。その時、電話が鳴った。連絡しようと思った代理人からだった。
「広島からのオファーなんだけど、どうする?」
「え?」
サンパイオは心底、驚いた。その3週間前、警告の累積で出場停止となり、テレビで見ていた試合がまさに広島vs柏。その試合を一緒に見ていた長女のガブリエラが「パパ、広島はJ2に落ちるわ。でもね、その広島をパパが助けることになるの。きっとパパのところに、広島の人たちがお願いにくるわ」と言葉をかけたのだ。
サッカーのことなどまるでわからない長女の言葉を、父は取り合わなかった。だが、その予言はピタリと当たった。
「しかも広島は、僕に対して『経験を若い選手に伝えてほしい』と言ってくれたんだ。嬉しかったね。自分がやってきたことを総合的に評価してくれた。これはもう、神様の思し召しでしかない。確信したよ」
そしてサンパイオは、娘の言葉どおり、広島のJ1昇格に大きく貢献した。いや、そんな言葉では物足りない。広島を彼が、救ってくれた。
もっとも存在感を発揮したのは、チームが逆境に立った時だ。7月、8月の2カ月間、広島の戦績は2勝3分5敗。特に第22節から第27節まで6試合連続して勝利できないというどん底に落ち、昇格圏外の3位に。底の見えない暗闇の中、サンパイオは動いた。
小野剛監督が示した、守備的なリアクションスタイルへの転換を誰よりも早く支持。「つまらないサッカーかもしれないが、チームが勝つためにはこれでいい」と語って血気盛んな若者たちを納得させた。
「僕らはレアル・マドリードじゃない。もっと戦わないと、もっと頑張らないと。きれいなサッカーばかりじゃ勝てないよ」
才能が豊かなのに力を発揮できない若者たちを叱咤する。それでいて、ロッカールームで歌を歌って雰囲気を盛り上げたり、インタビューを受けている選手に「おおっ、スターだ。もうお金持ちだね」とウインクして笑わせたり。ネガティブになっていたチームの中で、彼の言葉が、明るさが救いだった。
それだけではない。「J1昇格、それは神様の後押しによって」とプリントされたTシャツを選手に配り、勝利した後にはサポーターに向かって投げ入れた。「もっともっと、うるさい応援を」。そう訴えて、スタジアムに素晴らしい雰囲気をつくりあげた。
当時、広島を担当していた記者たちは、困ったことがあるとサンパイオを取材した。どうすれば勝てるのか。そのために必要な「魔法」の言葉を知りたかった。
「自分たちを信じることね」
彼は、いつも日本語でそう答える。ある日、記者の1人がこう尋ねた。
「結果が出なかったら、信じ続けるのは難しいんじゃないかな」
サンパイオはかぶりを振った。
「それはね、信じていないことと同じだよ。勝ちも負けも、悔しいも嬉しいも、全てを受け入れる。それが信じるということね」
多くの記者が首をかしげた。目の前で、広島は負け続けている。勝てなくて、点がとれなくて、もがいている。それなのに、信じられるものなのか。
だが、サンパイオはチームを、仲間を、サポーターを、そして自分自身を信じた。だからこそ、動くことができた。森崎和幸や上村健一(現カマタマーレ讃岐コーチ)ら主力と話し合い、チームとしてやるべきことを伝えた。プレーの手本をピッチで示し、選手たちを鼓舞し、前に向かおうという意志を表現した。
その時の心境を、著書『SAMPAIO勝者の証』でこう表現している。
「状況を変えて見せる。目標を達成する。そしてそれは自分の力だけでなく、信じる力を与えてくれる神によるものだ」
「広島には目標を達成する力があるとぼくは確信していた。しかし、自分自身への不信感に捕らわれていては不可能だ。まず自信をもって挑んでこそ周囲の不信感をも振り払うことができる」
2003年11月17日、広島はJ1昇格を決めた。カルロス・セザール・サンパイオ・サントス。10歳以上も年の離れた若者たちから「サンちゃん」と呼ばれることを嬉しがっていた英雄はこの日、涙を浮かべて「よかったね」と連呼し、誰からともなく抱きしめ合った。森崎和幸が「もっとも影響をうけた選手」として名前をあげた偉大なるボランチは、今の広島の苦境を見てきっと、言うだろう。
「自分たちを信じることね」
今度は素直に、この言葉を受け入れることができる。
文=紫熊倶楽部 中野和也
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By 中野和也