2015シーズンより清水でプレーしている鎌田翔雅 [写真]=Getty Images
「狙っていた」J1通算2万ゴール目となるボールは、スライディングで伸ばした足の先をすり抜けていった。倒れ込みながら、こぼれたボールを金子翔太が蹴り込むのを見届けた。
あとわずかのところで逃したプロ初ゴールの絶好機。主役の座は奪われた。それでも清水エスパルスのDF鎌田翔雅は、チームメイトの得点を心から祝福した。
「完全に(ゴールを)取りに行ったんですけど、足が短くて……(苦笑)。ダメでしたね、持ってないです。でも、よくあそこに(金子が)居てくれたなと思いました」
21日の明治安田生命J1リーグ第8節、川崎フロンターレ戦。先制点を挙げた清水の選手たちによる歓喜の輪が解けた後、鎌田はあらためて腕を高く突き上げて喜びを表した。ゴールやアシストという個人記録は残らないものの、鎌田自身にとっては会心のゴールシーンだったからだ。
前節の大宮アルディージャ戦を1-1の引き分けで終えた後、FW鄭大世は言った。
「翔雅はディフェンスタイプのサイドバックだから、守備に関してはスーパーなんだけど」
守備面を評価されるのは、DFとしてうれしいことであったし、鎌田自身も「自分は守備で貢献するタイプ」と自負している。しかし、その言葉は同時に、攻撃面の物足りなさも差していた。鎌田は、攻撃力が売りの左サイドバック・松原后とのバランスを意識するあまり、攻撃に関しては遠慮している部分があった。
「本当にテセさんの言うとおりで、攻撃に関してはまだまだやっていかなきゃいけない。持ち味の守備で頑張りつつも、もう少し攻撃でも力になれるようにしないと」
それだけに、自身が起点となった川崎戦の先制点には、大きな手応えをつかんだ。
ゴールシーンは、鎌田のパスカットから生まれた。14分、相手のロングパスをカットして奪うと、すぐさまドリブルで前線へ持ち上がった。右サイドに開いた鄭大世に渡し、そのままゴール前へダッシュ。鄭大世が折り返したグラウンダーのボールに、自分自身が合わせることができればベストだっただろう。しかし、金子の得点につながったことで、鎌田は「狙いどおり」と頷いた。
「インターセプトは自分の得意な部分なので、常に狙っていた。自分のところで奪えたら前にかなりスペースがあると思っていたので、それがうまく形になって良かった」
2年ぶりにJ1を戦う清水の強みは、昨シーズンにJ2での激闘を経て培った組織力だ。チーム目標は一桁順位に設定されているが、「まずは残留」と口にする選手も多い。キャプテンの鄭大世が「個の力では一対一で突破できる選手も、相手を圧倒できる選手もいない。それがわかっているから、J2で組織としての土台を固めて上がってきた」と語るように、一戦一戦、粘り強い戦いで勝ち点を積み重ねている。
その中で“献身性”が光る鎌田の存在は大きい。鎌田は昨シーズン、左ひざ前十字じん帯損傷の大けがで長期離脱しているが、そのけがを負ったのも試合中に相手のシュートをブロックした場面でのことだった。
ピッチを離れている間は、テレビやラジオに出演するなど、プレー以外の面で精力的に活動する姿が印象的だった。
「プレーすることができない中で、何がみんなの役に立てるか、チームの力になれるかと考えた時に、メディア出演だったり、いろいろなことをしようと思った。どれだけ力になれたかわからないけど、とにかく少しでもチームのプラスになることをしたかった」
そして完全復活を遂げた今シーズンも、けがを負う以前と同様に、的確な読みで危険を察知し、勇気あるプレーを何度も見せている。右サイドで縦のコンビを組むことが多い村田和哉は、鎌田の長所について口にした。
「鎌田はすごく良い距離感で、僕を生かす動きをしてくれる。すごく頭のいい選手なので、守備では『そんなに下がらなくていい』と声を掛けてくれるし、非常にやりやすい」
鎌田の存在が目立たないまま終わる試合もある。だが、決して守備一辺倒の選手ではない。チームメイトの特長を最大限に生かすことを考えた上で、時に体を張ってゴールを守り、必要とあればアグレッシブに攻め上がる。常にプレーの選択の基準は「チームのために」。だから、鎌田のプレーには、観る者を熱くする“気持ち”が感じられる。
川崎戦を2-2のドローで終えた後、鎌田は冗談交じりに言った。
「もしプロ初得点が(J1通算)2万ゴールだったら、もう引退してもいいと思っただろうけど……やっぱりまだ引退はできないですね(笑)」
J1でタフな戦いを続けるには、鎌田のように「チームプレー」に徹することができる選手の存在は欠かせない。また、昨シーズンの挽回を図る意欲もある。
「(長期離脱をして)チームにたくさん迷惑をかけてしまったし、その経験が自分自身にとっても無駄にならないように、もっと頑張らないといけない」
もっともっと、チームの勝利のために――。たとえ自分が脚光を浴びずとも、常に死力を尽くして戦い、味方の活躍をも心から喜べる。鎌田の存在は攻守において、ピッチ内外において、チームを支えている。
文=平柳麻衣
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By 平柳麻衣