U-20W杯に臨む柏の中山雄太 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
テレビのヒーローインタビューに呼ばれた。遅れて挨拶に駆けつけたゴール裏では、サポーターから拡声器を手渡され、名前を連呼されながらお立ち台に立つように促された。
終わったばかりの90分間で、特別な何かを残した記憶も記録もない。それでも柏レイソルのDF中山雄太ははにかみながら、日立柏サッカー場に満ちあふれた“思い”を共有した。
「確か『皆さんと一緒に勝ちを得られたのが嬉しいです』ということと、後は『次はもっとたくさんいいプレーをして、もっと貢献したい』と話したと思いますけど」
セレッソ大阪を1-0で下して、3戦連続無失点での4連勝を達成。首位の鹿島アントラーズと勝ち点3差の暫定4位に浮上した、6日の2017明治安田生命J1リーグ第10節後。今シーズン最多の1万4015人で埋まったスタンドを前にして、中山は肝心なひと言をあえて封印した。
20日から韓国で開催されるFIFA U-20ワールドカップに臨む、U-20日本代表に選出されている。直前合宿は11日からスタートするため、C大阪戦をもってJ1を最大4試合欠場する。
だからこそ、黄色地に『柏から世界へ』と記されたフラッグを手渡した総意として、誰もがお立ち台を締める言葉として「代表で頑張ってきます」を思い描いていたはずだ。
「まだルヴァンカップがあるので、そこは言わないようにしました」
10日にはベガルタ仙台との2017JリーグYBCルヴァンカップグループステージ第5節が待つ。敵地ユアテックスタジアム仙台での一戦を終えるまでは、代表モードに切り替えない。他の選手よりも多くの距離を走れるからと、日々の練習でも率先して集団の一番外側を走る20歳の真面目な性格が、緊張と興奮が交錯するお立ち台で見せた立ち居振る舞いにも反映されていた。
実は昨年の大型連休中にも、クラブ新記録となる5試合完封を達成している。当時は左利きを見込まれて左サイドバックとして起用されていた中山は、一つ年上のDF中谷進之介とセンターバックを組んで達成した3試合連続完封に成長の跡を感じている。
「昨年は5バックにすることもあって、結構後ろに重点を置いた守備だったんですけど、今は自分たちが攻撃にも移りやすい4バックで守り切れている。センターバックとして結果を出せている点で、昨年よりも収穫があるのかなと」
柏レイソルU-18監督時代の愛弟子で、トップチームに昇格した2015年は1試合の出場にとどまっていた中山を積極的に起用した理由を、昨年の今頃の下平隆宏監督はこう説明していた。
「ビルドアップの部分に関しては、中山は左利きなのでスムーズに良いボールが出てくる。ただ、守備に関しては増嶋の方がはるかに良いんですけどね」
2011年から在籍し、柏の最終ラインを支えてきた32歳のベテラン・増嶋竜也が、今季からベガルタ仙台へ期限付き移籍した。守備面でも進化し、主戦場を左サイドバックからセンターバックへ移していった中山の成長もあって、出場機会を求めて新天地へ旅立った。
同時期に背番号を「29」から、増嶋が背負ってきた「5」に変えてはと打診された。背番号には「特にこだわりも思い入れもないんですけど……」と苦笑いするが、フロントから勧められた一桁番号は3季目へ向けた期待の大きさと、伝統の重さを感じずにはいられなかった。
「5番を付けていた先輩方が偉大なので。素直に嬉しかったですけど、試合に出られなければ意味がない。先輩方に負けないように、5番を(自分の色に)塗り替えたいという気持ちはあります。その結果として『柏の5番は中山雄太』となればいいかなと」
Jリーグは1997年から固定背番号制を導入した。柏の初代「5番」は、くしくも今シーズンの指揮を執る下平監督。「柏の魂」として誰からも愛され、悲願の初タイトルを手にした1999年のヤマザキナビスコカップ(当時)には優勝カップを掲げる大役を担った歴史を、もちろん中山も知っていた。
今では「誇りを持って付けています」という「5番」を時には光り輝かせながら、試合を重ねるごとに中谷とのコンビネーションを熟成させている中山が、日課としていることがある。自分が出場した試合の映像を、徹底してチェックする。良かったと言われる試合ほど何度も見直す。
「良いところではなく、良い試合だからこその悪かった部分を結構見ます。自分が抱いている感覚と、改めて映像を見た時の感覚は違う部分があるので。逆に悪かった試合はかなり印象に残っているので、サラッと見る程度ですね」
例えば自身初の一発退場を食らった3月10日に行なわれた第3節の川崎フロンターレ戦。今も反省の二文字を忘れていないためか、「本当にサラッと見ました」と振り返る。ならば、日本代表MF清武弘嗣、元日本代表FW柿谷曜一朗ら強力攻撃陣を擁するC大阪を完封した一戦はどうなるか。
「長くなりそうですね。自分の引き出しは増えたかもしれないけど、苦しい時間帯が多かったし、紙一重で防ぐことができたシーンや(中村)航輔君のスーパーセーブがあっての無失点だったと思うので。結果に満足することなく、そういうシーンに至らないような守り方をもっと考えていかないと」
ホームのお立ち台に立ったのは、3年目で初めての経験だった。ピッチより一つ高い位置には、今まで見たことのない景色が広がっていた。
「本当に良い場所でしたし、また立てるように頑張りたいですね」
次に立てる可能性があるのは、韓国の地での戦いを終えた後になる。一生に一度の挑戦へ。ファンやサポーターに伏せた胸中には、実は今にも溢れそうな熱い思いが脈打っている。
「結果や自分のプレーの内容次第では、今後のサッカー人生が変わると思うので。一日一日を大切に過ごしながら、一瞬から得られる刺激を大事にしていきたい」
若き日本代表の最終ラインを統率するホープは、自身が初めて臨む、ワールドカップという名のつくヒノキ舞台を今から心待ちにしている。
文=藤江直人
By 藤江直人