鹿島戦で金崎のマークを振り切ろうとする関根 [写真]=Getty Images for DAZN
ここぞという時に突破口になれなかった自分が不甲斐なかった。4日に行われた明治安田生命J1リーグ第10節の鹿島アントラーズ戦後、関根貴大は無言のまま埼玉スタジアムを立ち去った。
本来、関根は丁寧に取材に応えるタイプの選手である。浦和レッズは人気チームの分だけメディアの数も多く、ミックスゾーンと呼ばれる取材エリアで一人の選手が様々な記者に何度も呼び止められることも珍しくないが、関根はその度に足を止め、その直前に聞かれていたような質問であってもおざなりにせず、しっかりと受け答えをする。
白星を挙げた時でも、黒星を喫した時でも取材に応じてきた。まだあどけなさを残す風貌とは裏腹に、関根はプロフェッショナルとしての矜持を備えている。これまで取材をしてきた限りで言えば、関根が取材に応じなかった姿を見たことはなかった。鹿島戦の出来はそれほど悔しいものだったということだ。
鹿島は昨年のチャンピオンシップ決勝で到底忘れることのできない深い傷を負わされた相手であり、サポーターも選手も強く勝利を望むライバルである。今季最多5万7447人もの観衆が埼玉スタジアムに集まったという事実も、この対決がどれだけ特別なものなのかを裏付けている。関根はその因縁のチームに何もできなかった。
今の浦和のプレースタイルにおいて、サイドアタッカーの担う役目は重要だ。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督率いるチームの特徴として、1トップ2シャドーの前線トライアングルを軸にコンビネーションプレーで相手守備を崩す攻撃が挙げられる。その3人が機能した時の破壊力はリーグトップクラスである。それゆえ、対戦相手は前線トライアングルに自由を与えないこと、その3人に縦パスを通させないことを意識した守備戦術を採ることが多い。
そういった相手の守備を攻略するのに鍵を握るのがサイドアタックであり、両ウィングバックの仕掛けである。彼らが脅威となることで相手のブロックは外から揺さぶられ、守備網にほころびが生じる。
鹿島戦、関根は相手サイドバック・西大伍との1対1、あるいは森脇良太とサイドハーフ・土居聖真がそれぞれ絡んだ局面でも沈黙を強いられた。鹿島戦の敗因はいくつかあるが、現在の浦和のストロングポイントでもある右サイドの質的優位を生み出せなかったこともその一つに数えられる。
今の関根はチームをけん引する存在であるべきという覚悟を持って常に戦っている。
「もちろんチームが勝利すればうれしいですし、いいプレーができたらうれしい。でも、自分がチームを勝たせた、周りの人たちにそう言ってもらえるくらいにならないといけないとずっと思っています」
まだ22歳の若者だが、浦和という日本代表クラスの選手がひしめくトップクラブでプロ1年目の2014年からコンスタントにピッチに立ってきた。海外でプレーしたいという夢もある。先輩たちに引っ張ってもらう「若手」という意識は本人にはなく、チームを勝利に導く存在でいることが当たり前という心持ちでいる。
実際、今季の関根は多くの試合で一際強い存在感を示してきた。ノルマとして「10アシスト」を公言しているが、ここまでのところリーグ出場9試合で4アシストを決めており、十分に射程圏内に捉えている。
だからこそ、真価が問われる重要な試合でこそ結果を残したかった。浦和は鹿島戦の前に行われた大宮アルディージャ戦でも黒星を喫していた。その時も目立った活躍ができなかった関根は「悔しい気持ちを通り越して、情けないと思います。本当に申し訳ない気持ちです」と唇を噛んでいた。
大宮との“さいたまダービー”、鹿島との“因縁の対決”。浦和にとって絶対に勝たなければいけない2連戦で、関根はいずれも「自分がチームを勝たせた」と言わせるようなシチュエーションとは逆の状況に陥ってしまった。
しかし、重要な2連戦で辛酸を嘗めた経験は必ずや今後の糧となる。シーズンが終わった時、そう笑顔で振り返れる日が来るはずだ。
文=神谷正明
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By 神谷正明