ルーキーイヤーながら、メンバー入りは開幕から間もなかった。J2リーグ第4節愛媛FC戦、GK後藤雅明は、トレーニング中に負傷したタンドウ・ベラピに代わりベンチに座った。
不意に訪れた出番にも、しかし22歳の胸中に驚きは浮かばなかったという。
「なかなかメンバーに係わることができなくて悔しかったけど、もちろんチームメイトからの信頼もまだないし、地道にやり続けていたなかで、たまたまタンドウさんが練習で怪我をしてしまい、メンバーに入ることになった。試合に出ることを目標に、開幕前からフレッシュな気持ちでトレーニングしていたので、びっくりという感覚はなかったです」
公式戦を間近に体感した経験は得難い。
「雰囲気や感じるものは、スタンドの上から見ているときとはまったく違います。試合前のロッカールームには張り詰めた緊張感があり、これから戦うんだという空気を感じるし、サポーターの声援が自分たちの力になることも肌で感じた。多くのひとに応援されるなかで、試合に出てチームに貢献し、勝ってみんなが喜ぶ姿を見られるのはうらやましく思います」
190センチの恵まれた体躯をもとに、シュートストップを武器とする。ただ、自身の成長を期するうえで見据えるのはプレー面に限らない。「GKというポジション柄、チームメイトから信頼を得ることがいちばん大事だと思っています」後藤は言う。
「日々のトレーニングの積み上げだったり、公式戦の翌日の練習試合でのパフォーマンスを上げたり、ピッチにいることでチームメイトに安心感を与えられるプレイヤーになれば、おのずと試合に出られるチャンスは転がってくるのではないかと思う。そのためにはハッキリしたコーチングや仲間とコミュニケーションを取ること、チームに流れを持ってくるひとつのセーブといったプレーが必要だと思います」
考えを改めるひとつのきっかけがあった。3月も終わる頃、ある日のトレーニングで、曹貴裁(チョウ・キジェ)監督にしこたま叱られた。
「サッカーは11人でやっているんだ。周りと繋がっているから守れるんだぞ。自分だけの世界でプレーするな」
「シュートを止めて失点しなければOKみたいな考えがあった」自身を省みる。
「GKも11人の中の一人。他のメンバーと繋がり合って守る能力が自分には足りない。DFにシュートブロックさせて止める、その前にさかのぼってDFと守る。自分が最後を止めればOKではなく、チームとしてプレーすることが大事だとあらためて思いました」
試合に出たいと、シーズン当初はただやみくもに先走っていた気持ちも、それ以来、整理された。できないことを無理にやろうとするのではなく、1回のトレーニングを大切にして、いまできることを100パーセント注ぐ。もちろん開幕からフル出場を続ける秋元陽太をはじめ、元オーストラリア代表のタンドウ・ベラピ、東欧で単身武者修行を積んだ経験を持つ伊藤剛と、先輩たちの存在は大きい。それでも、「波はあるかもしれないですけど、つねにそういう意識を持って練習に入るよう心掛けています」と自覚するとおり、開幕の頃とは異なる心持ちで、後藤はチームへの貢献を思い描いている。
文=隈元大吾