19日の鹿島戦でゴールを挙げた登里享平 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
5月19日の鹿島アントラーズ戦。カシマスタジアムでの勝利を決定づけるゴールを決めたのは、登里享平だった。
2-0でリードしていた後半途中、長谷川竜也に代わって左サイドハーフのポジションに入った登里は、鹿島のプレスを味方が中盤で剥がした瞬間を見逃さなかった。左サイドに張るのではなく、タイミングよく中央に顔を出すことでボールを引き出し、そこから前を向いて仕掛けたことで攻撃が加速した。そして、登里が左から中央でのポジションを取ることで左サイドバックの車屋紳太郎が攻撃参加するスペースも生まれていた。
「ノボリくん(登里)は中でプレーしてくれるし、引きつけたことで、相手がサイドをかなり空けてくれた」とは車屋の談話。オーバーラップしていた車屋からの折り返しを受けた阿部浩之が流して、中央に走り込んでいた登里へ。
「最初、阿部ちゃんとワンツーしようと思ったんですよ。ただ受けに行ったときに相手があんまり来ていなかったし、(阿部が)転んだのと、スペースが見えた。一瞬だったので、あんまり覚えてないですけど」(登里)
一度は体勢を崩したものの、そのまま粘り強く縦に突破。ゴール前の密集地帯ながら、左足で豪快にねじ込んでゴールネットを揺らす。自身にとっては2014年7月以来となる約3年ぶりのゴールに、「あんまり喜び方がわからなかった」と明るく笑った。
このゴールで注目すべきは、あの場面で登里がパスではなくシュートを選択したという点にある。なぜなら、彼はあそこで味方にパスを選択する判断の多い選手だからだ。だが、この場面ではシュートを決断した。それも、どこか自分の抱えていたものを払拭するようなシュートだった。
実は去年のある試合で、登里は同じような局面でパスを選択している。そしてそのことをずっと悔やんでいた。
それは、昨年のチャンピオンシップ準決勝・鹿島アントラーズ戦だ。
この試合でも登里は、後半途中から左サイドハーフのポジションで出場。縦の突破力と車屋紳太郎との左サイドの連携でチャンスを作り出し、1点のビハインドを追いかけているチームに攻撃の推進力を与える存在となっていた。
迎えた70分、縦に抜け出した登里は左サイドを鋭くえぐって、フリーでゴール前に侵入。この大きな決定機に、逆サイドからは三好康児、中央には大久保嘉人、そして後ろからは中村憲剛が飛び込んできていた。まさに1点もののチャンス。
この場面で切れ込んだ登里は、最終的に中村憲剛へのパスを選択。だが必死に戻る鹿島守備陣のクリアにあい、惜しくもゴールとはならなかった。試合を通じて訪れた数少ない決定機をものにできず、試合はこのまま0-1で敗れた。年間勝ち点3位の鹿島アントラーズに逆転される形で、年間勝ち点2位の川崎フロンターレは準決勝で姿を消している。
あの準決勝・鹿島戦での敗戦からしばらく経ったのち、残る公式戦となった天皇杯に向けて取材していると、登里はあの場面での選択について思うことがあると、明かしてくれたことがある。
「自分のプレーの選択のところで納得がいってないんです。自分の中で消化しきれないものがありました。(あの場面の)シュートもそうですし、パスもそう。ケンゴさんに出しましたけど、自分でできたんじゃないか…そういう気持ちがありました。自分の中でもそうだし、自分でどうにかしたかった」
あれから約半年。このことがあったので、第12節鹿島戦後のミックスゾーンでは、あの局面でパスではなくシュートを選択した理由について、登里に尋ねてみた。「チャンピオンシップでの悔しさもあって、シュートを選択したのではないか」と。
彼は「そう。ありました、その思いは」と頷き、言葉を続けた。
「ゴールだったり、アシストが少ないのは納得していないんです。試合に出ているのに少ないのは、自分の中でも納得していない。もっとガツガツ。これをきっかけにしていきたいですね」
去年、チャンピオンシップと天皇杯決勝で煮え湯を飲まされた鹿島相手に3-0で勝利。ただ、このリーグ戦の勝ちで去年の悔しさを晴らせたと胸を張る選手は一人もいなかった。しかし、同じ相手に似た場面で決めた、登里の3年ぶりのゴールは、去年に抱えていた思いを払拭する一撃だったとも言えるのかもしれない。
文=いしかわごう
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