今季、山口から岡山に移籍したGK一森 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
2014年にJFLからJ3に昇格し、15年にJ3からJ2へ昇格し、16年はJ2で旋風を起こした。「一緒に這い上がってきた」レノファ山口FCでの3年間は、GK一森純にとってかけがえのない財産になっている。「もう一つ自分の殻を破りたい」と考えていたオフにファジアーノ岡山からオファーを受けて挑戦を選んだ今季も、山口で培ってきたサッカー選手として大事にしているものは変わらない。
ビッグセーブでピンチを食い止めてチームを勝利に導く活躍を見せても、DAZNが選ぶ週間ベストセーブに3週連続で名を連ねる評価を受けても、1失点を喫してしまえば「悔しい」「申し訳ない」と口にする。一森はそんなGKで、その理由は「サポーターがあ~って思うから」。チームが勝利するためと同じくらい、「ゼロに抑えたらサポーターが傷つかない」という想いをもって一森はゴールマウスに立ちはだかっている。
そこまでサポーターの想いを気にかける理由を彼に聞いてみると、こう語った。「やっぱり山口で働きながらサッカーをしてきたってことが大きいんだと思います。ほんまにサポーターやスポンサーに助けてもらいながらやってきましたし、それはどこでプレーしようが一緒で、サポーターありきの俺らだと思っている。その想いは俺の中で外せないところです」。
だから、新天地でポジションを勝ち取っていても、サポーターを落胆させる失点を食い止められない自分の力不足を感じる日々を過ごしてきた。「これでもかって準備をしているつもりでもまだ甘いんだってこと。まだまだだってことを痛感させられています」。何度も失点シーンのVTRを見返し、相手がシュートを打つタイミングの自分のポジションはどうか、両足が足に付いているか、上体はどうか、手の位置はどうか、徹底的に追及して日々の練習に励んでいても、失点が止められない。むろん失点はGKだけの責任ではないが、「ベストの選択ができたら防げた失点ばかり」と、一森はストイックに自分を追い込んできた。
それがやっと山口戦で無失点を成し遂げることができた。リーグが開幕してから17試合連続で失点を喫してきたチームが、一森の古巣である山口戦で今季初の無失点に抑えられたのは、神様のご褒美か、いたずらか。どんな因果かは分からないが、初めての古巣戦を戦い終えると山口のサポーターに挨拶に出向き、大きなコールに包まれて「懐かしかったです」と破顔した一森は充実感に満ちていた。
岡山のサポーターを落胆させることなく90分間を終えられ、「苦楽を共にしてきた仲間だと僕は思っている」山口のサポーターに元気な姿を見せられた。一森にとって、これ以上はない至福の古巣戦だった。
文=寺田弘幸