内田には長崎戦での奮起が期待される [写真]=今井雄一朗
青木亮太の本格ブレイク、そして楢崎正剛の復帰が期待されるV・ファーレン長崎とのホームゲームは、内田健太にとっても復権を期する重要な一戦となる。第16節の横浜FC戦まではポジションを問わず不動のスタメンだった技巧派レフティーは、やや下降気味だったパフォーマンスを考慮されてかここ3戦はベンチ待機が続いていた。代わって左サイドバックを務めているのは青木だったが、今節は押谷祐樹の出場停止とその他負傷者続出の台所事情から、新進気鋭のドリブラーはポジションを1列上げることが濃厚。もちろん、空いた左サイドバックの位置には内田が起用されることは間違いなく、それゆえ今節は格好のアピールの場となるわけである。
しかし、内田がそれを表立って意気込むことはあまりない。今季でプロ10年目となる28歳はただでさえ「若手ではないので」が口癖だ。泰然自若を地で行くところがあり、うっかり何かを言いそうになっても「…準備します」と飲み込んでしまう。落ち着き払った立ち居振る舞いはピッチ内でも変わらず、広島ユース時代はトップ下のゲームメイカーだったテクニックを生かし、ピッチ全体を見渡しながら気の利いたプレーに全力を注ぐ。フォアザチームに徹したテクニシャンほど怖いものはない。内田は一本のパスの質に代表されるディテールに自らへの矜持を込め、黙々と、あるいは淡々と任務を遂行する。
それでも、前述したように心中にはメラメラと燃えるものを持っているのもまた、内田という選手の特質だ。試合に出られなくなったきっかけを思えば、やはり前半で交代させられた横浜FC戦でのとりわけ守備面にあったと考えられる。勘所を抑えた玄人的なディフェンス対応を見せる内田だが、球際での粘りやDFのメンタリティーとして淡白なところがあったのもまた確かだった。攻撃的な姿勢を崩さないチームだけに、最終ラインがどれだけ忍耐強く守れるかはある種の生命線。逆サイドの宮原和也がチーム唯一のフル出場を続けているのも、若さに似合わぬ守備センスと、体格にそぐわぬ執着心たっぷりの対人守備があるからだ。だが、内田とて経験豊富な選手である。そうした部分は自分でも把握しており、“復権”への足掛かりの一つとして意識を高めている。
「ウチは失点が続いてますからね。そこをみんなで守れるように、声でつながっていけたらなと思います。個人としても、対人の部分ではやらせないことが一番で、前より半歩でも寄せることを練習からやってきました。そのことで相手がプレーできなくなったり、選択肢を減らせるという部分を意識することで、自分が優位に立てるようにとは考えています」
いわばウィークポイントと冷静に向き合ったならば、彼の特長がより生きてくるだろう。和泉竜司や青木亮太、杉森考起など機動力とボールを引き出す力の強い前線を得意のパスで操り、天皇杯で見せた強烈な無回転FKという武器も切れ味を増してきた。実はこのFK、6月11日の大学生相手の練習試合でも叩き込んでおり、「ずっと練習していたんですよ」と胸を張る逸品だ。天皇杯での一撃も、「決めなアカンと思いましたね」とニヤリ。チームは飛び道具いらずでリーグ最強の攻撃力を誇るが、守り勝つスタイルではないだけに、取れる時に取れるだけというのは必要な要素でもある。再び内田が攻守に不可欠な人材に返り咲くことは、十分に可能だ。
仕事人は名古屋でのキャリアに「自分という選手を知ってもらえるチャンス」と語る野心家でもある。左サイドでいぶし銀の輝きを放つ背番号39の、静かなる逆襲にもご注目を。
文=今井雄一朗