清水の新守護神・六反勇治 [写真]=Getty Images for DAZN
前節のヴァンフォーレ甲府戦で、今季のホーム初勝利を挙げた清水エスパルス。実にJ1では約2年1カ月ぶりのアイスタでの勝ち星だった(2016年はJ2)。なぜ、それほど勝てなかったのだろうか。
特に今季に関しては、アウェイでは3勝4分け1敗(得点13・失点10)と結果を残しており、上位チームにも負けない粘り強いサッカーができている。だが、ホームではそれができていなかった。その一因について、小林伸二監督は次のように語る。
「アウェイでは我慢強く戦っているんですが、ホームに帰ってくると、多くのサポーターの声援と期待を受けてモチベーションと攻撃のリズムが自然に高くなります。そこに大きな落とし穴があって、ポゼッション率が高くなる反面、攻撃がシュートやクロスにいく手前でミスが出て引っかけられたときに、カウンターで取られている失点が目立ちます」
その意味では、甲府は特に難しい相手だということは試合前からわかっていた。だからこそ、攻撃しているときのリスク管理を徹底し、「0-0でもいいぐらいの気持ちで」(鄭大世)慎重な攻撃を続けてセットプレーから先制点を奪い、甲府には決定機を一度も与えないまま1-0でタイムアップ。アウェイ的な戦い方で、ようやくホーム初勝利を掴んだのだった。
とはいえ、清水が本当に勝負強くなっていくためには、まだ足りない面がある。今季ベガルタ仙台から移籍してきたGK六反勇治は、次のように語る。
「危機察知能力が高い選手があまりいなくて、試合の中で『あ、これが起こったら失点する可能性が高いな』というのが分かるとか、そういう意味でサッカーを知っている選手が少ないと感じます。ボールを持つのはうまいチームですが、“危険を感じる”という面は足りないと思います」
今季の清水の戦いを見ていると、確かにもったいない失点が目立つ。危険な位置でのミスや、カウンターに対する準備不足、対応の甘さ……。「そこでそんなプレーをしたら、そりゃやられるだろ」とツッコみたくなるような失点によって、勝ち点を逃す試合が多かった。
それは最近よくニュースになっている政治家の失言問題とも似ている。このシチュエーションで、こんな発言をしてはいけない。それは後から振り返れば明らかなことなのに、その場ではつい忘れてしまう。政治家が政治の“プロ”だとすれば、脇が甘すぎると言わざるを得ない。
サッカーにおいても、たとえばDFがペナルティエリア内で手を挙げる空中戦を競り合えば、PKをとられてしまう恐れがある。第15節セレッソ大阪戦では、そうしたミスによって清水は最後の最後で勝利を逃している。39歳の今もJ有数のセンターバックとして横浜F・マリノスを支えている中澤佑二が、同じミスを犯すことがあるだろうか?
静岡県民は「のんびりしている」と言われることが多いが、静岡県で生まれ育った筆者としても、県民全体の傾向として危機察知能力が不足しているのはよく感じる。江戸時代から気候的にも経済的にも比較的恵まれてきた土地柄なので、そうした脇の甘さが出るのも無理はないとも思う。
サッカー王国・静岡と言われた時代は、技術で圧倒していたため、その弱点が目立つことはなかったし、勝ち続けることで自然に勝負強さやしたたかさも身についていた。だが、今は違う。リーグ全体で力が拮抗しているからこそ、わずかな甘さによって結果にも大きな影響が出てしまう。
今は静岡出身ではない選手も多いが、クラブの文化として、危機管理能力を重視した指導や選手選びをしてきたかというと、やはり疑問がある。J2ではそれでも勝てたが、J1では勝ち切る力が不足することが、改めて浮き彫りになっている。
だが、今からでも遅くはない。現時点では、若くて経験が不足しているために危機管理の甘さが出てしまうこともあるが、日頃の練習からいかに最悪の状況を想定しながらプレーしているかによって、選手一人ひとりも大きく変わってくるはずだ。六反は、先ほどの言葉から次のように続けた。
「みんなボールを扱うのはうまいけど、サッカーで勝負に勝つためには他にもいろんな要素がありますし、そこは足りないのかなと思います。逆に甲府とか、僕がいた仙台は、危険に備える能力が高くて守り切れるけど、サッカーがうまい選手は多いとは言えない。ただ、J1でタイトルを獲るチームは、その両方を持っているんですよね。だからエスパルスが上を目指すなら、勝敗の分かれ目になるところの感覚を研ぎ澄まさないといけないし、そこに個人個人としてもチームとしても、伸びしろがすごくあると思います」
チームとしても、今後も甲府戦のようなサッカーのままで良いとは考えていない。もっとボールを支配しながら勝つサッカーを目指しているし、サポーターもそれを求めている。だからこそ、ボールを保持している中でも抜け目なくカウンターに備える、隙を見せない、やってはいけないミスをしない。攻撃的にプレーしたいからこそ、そういう部分の改善が重要になるはずだ。
文=前島芳雄
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