ここまで21試合に出場している宮阪 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
宮阪政樹は考える。
7月15日に28歳の誕生日を迎えたボランチ。「22歳でプロになって、キャリアの折り返しに来ている。そういう中で存在感を出していくにはどうすればいいのだろうか」。松本山雅FCにおけるボランチは、チーム随一の激戦区と言える。現状では岩間雄大とのコンビで先発に定着している感があるものの、パウリーニョや武井択也ら実力派が常に虎視眈々とその座を狙う。激しいチーム内競争で勝ち続けるために必要なことは――。
導き出した答えの1つが、ボール奪取力の強化だった。「スペースを埋めることやコースを限定することも大事だけど、奪う力がまだまだ足りない。以前は『自分の次でボールが取れればいい』と思っていたけど、自分のところでしつこさとか粘り強さを出して奪えればいいのでは」。それを実現するためのヒントが、意外なところに転がっていた。
テレビのバラエティ番組。“野獣”の愛称で知られる柔道女子57キロ級五輪金メダリスト・松本薫さんのエピソードに着想を得たのだという。「言葉は悪いかもしれないけど、『殺すスイッチ』を入れるという話をしていた。自分ももちろんケガをさせるつもりはないし、フェアプレーの精神は持ちつつも、『ガシャン』となるのを恐れて球際が弱くなっていたらダメ。今までもやってはいたつもりだったけど、もう一段階上げていこうと」。実際に小兵ながら大柄のボールホルダーに粘っこく体をぶつけたり、奪取に成功して攻撃に転じたりするシーンが着実に増えてきた。
宮阪はこうした考えを巡らせるために、常にアンテナを張っている。「何がきっかけになるかはわからないし、それはゴロゴロ転がっている。心理学とか論理学とか哲学とか、サッカーとはかけ離れた分野でも自分なりの解釈をすれば自分のものにできる。テレビやラジオや本、今の時代はSNSも含めて色々な情報が飛び交っている中で、自分に合ったものや興味のあるものを取り入れて活用していこうと思っている」と宮阪。現在は将棋で前人未到の29連勝を達成した14歳の藤井聡太四段に注目しており、フィールドは違えど思考を刺激されているという。
こうした話に記者を「食い付かせる」戦略も手慣れたものだ。「記者さんに『これは面白くて書きやすい』ということを話せれば、自分を知ってもらう機会にもなりやすい。そういうことも考えてしゃべるというとイヤらしいかもしれないけど(笑)。それに、質問に対する答えにプラスアルファを付け加えて返せれば次の質問に繋がりやすいとも思うし」。そして自分はまんまと食い付いて掘り下げ、掌の上で転がされながらこの原稿を書くに至った。
冷静な語り口とは対照的とも言える「キル・スイッチ」を身に付け、ピッチ内で成長を示す宮阪。練習後に呼び止めたこの日も話題が多方面に流れて時が経ち、気が付けば残っているのは2人きりになっていた。「話していると長くなっちゃうけど、それを編集するのが記者さんですからね」。いたずらっぽい笑みとともにさりげなく書き手のプロ意識をくすぐってくるあたりも、実に心憎い戦略家だ。
文=大枝令
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