プロ3年目を迎えた千葉DF乾貴哉 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
今季初となる4連勝をかけた明治安田生命J2リーグ第23節ロアッソ熊本戦は、「我々にとってはいい日ではなかったし、いいプレーが出来なかった」(フアン・エスナイデル監督)と話す通り、チームは運動量も乏しくパスミスも散見していた。試合を決定づけたのは63分のことだった。乾貴哉のバックパスを熊本の黒木晃平に拾われると、シュートを止めようとしたGK佐藤優也も交わされ無人のゴールに流し込まれ、乾はまさかの失点に頭を抱えピッチに崩れた。J2最多得点を誇るジェフユナイテッド市原・千葉だったが、この日は最後までゴールを割ることは出来ずに0-1で敗れた。
「相手が来たのは分かっていましたが、バックパスという選択肢を決めていました。判断を変えることが出来れば良かったのですが……。反省をしています」と乾は唇を噛みしめ俯いた。
普段は飄々としているが、この敗戦に責任を感じ、考えなくても失点シーンが頭に浮かびモヤモヤする時間を過ごしていた。
一瞬の隙間からすり抜けていった勝ち点だったが、チームメイトはこれを責めようとはしなかった。キャプテンの近藤直也には「『誰にでもミスはある、切り替えろ』と言ってもらいました。声をかけられたことで自分の中で勇気をもらうことが出来ました。ありがたく感じています」。
また、同じピッチに立った町田也真人は「失点はもったいない形だったが、乾が一番悔しい思いをしている。それをチームとして取り返さなければいけなかったし、個人的にもミスを取り返しかった」と語っていた。
サッカーは、コントロールが難しい足でボールを扱うミスを前提としたスポーツ。ミスは誰にでも起こり得ることだが、まだ経験の浅い21歳の若武者にとって、あまりにも非情な現実だった。“モヤモヤ”を晴らすには前に一歩を踏み出すしかない。
“サッカーでの借りは、サッカーで返すしかない”と胸に誓い臨んだ第24節ツエーゲン金沢戦。左サイドバックで先発出場をすると「絶対にやってやろう」とスタートから気迫あるプレーを見せた。
4分にラリベイが決めて先制すると、45+1分、乾はバイタルエリアの混戦でボールをキープ。相手をターンでかわし町田に絶妙なパスを通しチームに貴重な追加点を導いた。
「高い位置を取ればチャンスがある。アグレッシブさを忘れずに出したい」(乾)と、ミスに縛られることなく試合前に口にしていた言葉をピッチで表現した。
乾は浮かれてもいなければ、前回の苦い経験が帳消しになったとも思ってはいない。
「(熊本戦で)僕がミスをしなければ勝っていたかもしれないし、今シーズン初の4連勝になったかもしれない。(借りは返せたと思っていない)まだやり続けないと取り戻せない」と前を向く。
今季3年目の乾は、ここまで10試合に出場し、第16節愛媛FC戦(4-2)ではプロ初得点を奪い2得点3アシストの活躍だが、シーズン当初は試合に絡めない時期も続いていた。
「自分の力がまだ足りていないと感じていました。少しでも自分の能力を伸ばせるように練習から取り組み“その時・その場で何が出来るか”が、これからのサッカー人生の分かれ目になると思っています」とピッチに立つことに満足するのではなくさらなる高みを目指し駆け上がる覚悟だ。
そして、ここまでの成績を振り返り、乾はこう答えた。
「(2ゴール3アシスト)この成績がいいか分からないのですが(笑)。もっとクロスからのアシストを決めたい。精度を上げることと、中に入る選手によって“高い・低いボール”を使い分け細かい部分も追及していきたいです」
エスナイデル監督が描く攻撃的なサッカーのプロセスに不可欠なのが1対1での積極的な仕掛けだ。特別に足が速い訳でもなくキレキレのドリブルを披露する訳ではない。少々、無骨に映るが独特のリズムでボールを敵陣に運び指揮官の起用に応えている。まだまだ未完成で荒削りだが「(1対1の仕掛けを)監督にも強く言われているので自分も変わるチャンスだと思っています。前への積極性を大事にしたいと思います」と話した。
チームと乾はJ1昇格のために前進して行く。
若武者は挫折や失敗を繰り返し逞しく成長する。失敗は結果ではなく、過程であり、そのチャレンジの先に成長が待っているのだ。
今後、乾がどんな変貌を遂げるかでチームの未来も大きく変わってくるはずだ。苦汁を舐めた経験は必ずこれからの糧になるだろう。
シーズンが終わった時に、「まだやり続けないと取り戻せない」と言っていた、あの借りは返せたのかを乾に訊いてみたい。
文=石田達也
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