今季リーグ戦全試合にフル出場している松原 [写真]=Jリーグ・フォト
体が自然と、歓喜に沸くゴール裏へと向かっていた。左胸のエンブレムを握り締め、高ぶる感情のままに吠えた。もっと、もっと――。両腕を挙げて煽ると、アウェイ側スタンドをオレンジに彩ったサポーターのボルテージがさらに上がった。
「今季初アシストだったのですごくうれしかったし、ここから行くぞ、もう1点取るぞって、感情が爆発しちゃいました。どの試合でもそうだけど、本当にこのチームを勝たせたいから」
29日に行われた明治安田生命J1リーグ第19節、横浜F・マリノス戦。70分に鄭大世の得点で清水エスパルスが2-2の同点に追いついた場面でのことだった。アシストを記録した松原后は、まず鄭大世と抱擁を交わすと、すぐさまゴール裏に向かって走った。
ようやく生まれた今季初アシスト。1点のビハインドを追う中で、物怖じしない松原の推進力が生きた。味方が右サイドで起点を作る間にオーバーラップすると、ボールを受けて迷わずにドリブルを開始した。
「相手は縦を警戒していたので、相手が食いつくのを待って、(ミッチェル)デュークが良いところにいたのでワンツーで剥がして。イメージ通りでした」(松原)
そして左サイド深くに抜け出すと、ニアサイドに入った鄭大世へワンタッチでパス。松原のプレーと鄭大世が描いたイメージがリンクした。
「僕についていたDFが松原のマークに行ったので僕がフリーになって、マイナスで待っていたら絶対にボールが来ると思った。いつも松原は僕の動きと逆にパスを出すけど(笑)、今日は珍しく冷静に出してくれたので良かった」(鄭大世)
プロ入り3年目、20歳の松原は、昨季途中から左サイドバックのレギュラーに定着した。J2リーグ戦28試合に出場した中で、鄭大世から口酸っぱくクロスのタイミングや質について指摘され続けてきた。今年はここまでリーグ戦全試合にフル出場しているが、「昨年ほどは(鄭大世から)言われなくなったけど、どうしたら合わせられるのか、自分なりに意識して取り組んできた」。だからこそ、「今季初、それもテセさんにアシストできて良かった」と素直に喜びを表した。
そんな松原に対して、「やっと初アシストって、ここまで何しとったんだって感じですけどね。今日はそのワンプレー以外は全然良くなかったし、1回アシストしたぐらいで褒める気はないので」と一蹴した鄭大世。
しかし、「でも」と続いた口調は柔らかかった。
「今日はチームが勝ち点を取れて良かったし、(アシストをしてくれて)ありがたいなと思います。以前の松原は無理に仕掛けて相手との距離が縮まって、クロスを上げるスペースがなくなってしまうことが多かったけど、最近はちゃんと足下にボールを置いて、相手を見てから仕掛けるようになったし、僕の動きに合わせて(ボールを)入れるようになった。逆に僕が決めきれなくて、松原に謝るシーンも増えているんですよ。タイミングも分かってきたし、クロスの精度は間違いなく上がっていると思います」
厳しい指導を受けても折れないメンタルの強さは、松原の魅力の一つ。それは今回の横浜FM戦のように、試合で劣勢に立たされた時にも光る。リードを許した時、攻撃で数的不利な状況となった時。チームが勢いを失いそうな場面でも、松原のプレーは大胆でアグレッシブだ。そんな血気盛んな若手の存在は、チームの大きな力となる。だからベテランとして、キャプテンとして、鄭大世は厳しくも温かい目で成長を促している。
「まだまだあいつは生意気だし、今日も試合中に相手選手と揉めたりしていて、立ち振る舞いが若いなと思います。若いうちから試合に出てチヤホヤされているから、ちょっと調子に乗っているところがあるんですよ。そこは俺が出鼻をくじかなきゃなと思っていますけど(笑)、まだまだこれから。もっとたくさんアシストしてもらわないとね」(鄭大世)
松原も「僕自身、まだまだだと思っている」と現状に満足することはない。真摯にサッカーと向き合いながら、伸び伸びとプレーすることができている。
まだ荒削りの原石だが、輝きは日々増している。「サポーターと喜ぶのはサッカーの醍醐味だし、ああいうシーンをもっともっと増やせるように、毎試合アシストやゴールをしたい」。その思いが原動力となっている限り、松原の成長は止まらない。
文=平柳麻衣
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By 平柳麻衣