クラブ史上初のコパ・スダメリカーナ決勝進出を果たしながら、悲劇的な飛行機事故で選手の大半を失ったシャペコエンセ。仲間たちの思いを胸に、南米王者として浦和レッズと対峙する。
文=三島大輔 Text by Daisuke MISHIMA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images
奇跡の快進撃を見せるも、その先に待っていた悲劇
「もし今日死んだとしても、幸せに死ねるだろう」。シャペコエンセを率いたカイオ・ジュニオール氏は、コパ・スダメリカーナ決勝進出の際にそう言い残し、この世から去ってしまった。
シャペコエンセにとって、コパ・スダメリカーナ決勝進出はクラブ史に残る快挙だった。2009年はまだ4部相当のブラジル全国選手権セリエDに所属していたが、12年にセリエC、翌13年にはセリエBと着実にステップアップ。そして、14年にはついにブラジルサッカー最高峰の舞台、セリエAへとたどり着いた。
コパ・ド・ブラジル2016でラウンド16以前に敗退したチームの3位としてコパ・スダメリカーナ2016の出場権を獲得したシャペコエンセは、予選2回戦で同国のクイアバを2戦合計3-2で下し、ラウンド16に進出した。8強進出を懸けた試合の相手は、アルゼンチンの古豪インデペンディエンテ。互いに譲らず、2戦合計0-0のままPK戦に突入する。ここで輝きを放ったのはGKダニーロだった。驚異の反射神経を誇る守護神が相手のキックを4本もストップする活躍を見せ、ベスト8進出を決めた。
続くコロンビアのジュニオール戦は初戦を0-1で落としたものの、ホームでの第2戦を3-0と快勝。逆転で準決勝に駒を進め、アルゼンチンのサン・ロレンソと対峙する。敵地での第1戦を1-1で終えると、第2戦では守備陣が奮闘し、2試合合計1-1のままアウェーゴールの差でクラブ史上初のコパ・スダメリカーナ決勝進出を勝ち取った。
「ヴァモ ヴァモ シャペ!(行こうぜ、シャペコエンセ!)」
選手や監督、コーチ、スタッフ、そしてサポーター。シャペコエンセに関わるすべての人たちが腹の底から歌い、心から初の決勝進出を喜んだ。
16年11月28日、意気揚々と決戦の地コロンビアへ向かう途中、突如として悲劇は訪れた。チームを乗せた飛行機がコロンビアのメデジン郊外で墜落し、乗客乗員71名が死亡。待ち望んだ決勝戦は“幻”となったものの、対戦する予定だったアトレティコ・ナシオナルと南米サッカー連盟の意向もあり、優勝を譲り受けることになった。
メンバーを一新し再始動。誇りを胸に埼スタ決戦に挑む
主力の大半を失ったシャペコエンセは、育成組織からの昇格11名を含む22名の新加入選手を迎え入れ、平均年齢24歳という若いチームで1月に再始動した。新監督には96年に旧JFLの本田技研サッカー部(現Honda FC)でプレーした経験を持つヴァグネル・マンシーニ氏が就任した。
急造チームという不利な状況でありながら、サンタカタリーナ州選手権で2連覇を達成。5月に開幕したブラジル全国選手権では、開幕節で強豪コリンチャンスとドロー、続く第2節では前年度王者パルメイラスを撃破した。その後もアヴァイ、クルゼイロを下し、ついにクラブ史上初のセリエA首位に躍り出る。快進撃を受け、ブラジル大手メディア『グローボ エスポルチ』は、15-16シーズンにプレミアリーグで奇跡の優勝を果たしたレスターになぞらえて“シャペ・レスター”と評し、その躍進ぶりを称賛した。
しかし、第8節のボタフォゴ戦に0-2で敗れると、フラメンゴ、アトレチコ・ミネイロにも敗れて3連敗に。第11節のフルミネンセ戦は3-3のドローに終わり、ようやく連敗を止めたものの、クラブはマンシーニ監督の解任に踏み切った。
後任に指名されたのはヴィニシウス・エウトロピオ監督。15年にシャペコエンセを指揮しており、約2年ぶりの古巣復帰となる。今回の就任に際し、「今年はシャペコエンセにとって重要な一年だ。この仕事の責任は大きいが、私はここから立ち直ることができると信じている」と意気込んだ。
エウトロピオ監督は4-3-3を基本フォーメーションに採用。点取り屋のロッシが中国2部の深セン市足球倶楽部へ移籍したことは誤算だったが、新監督就任に伴う大幅なメンバー変更はなし。初采配から2試合は同じ11人を起用しており、身長192センチを誇る大型センターバックのヴィクトールラモス、攻撃の軸を担う34歳のウェリントン パウリスタらがチームの中心となる。新監督就任から3試合目となる第14節のサンパウロ戦で久々の白星をつかむと、前年度王者として臨むコパ・スダメリカーナ2017では、PK戦を制してベスト8入りを決めた。調子は徐々に上がってきている。
南米王者の称号と志半ばで倒れた仲間たちの思いを胸に、シャペコエンセの選手たちは8月15日、2016JリーグYBCルヴァンカップ王者、浦和レッズとのスルガ銀行チャンピオンシップ2017に挑む。
By 三島大輔
サッカーキング編集部