初優勝を飾ったジェフレディース [写真]=©JEFUNITED
「みんなで運んだゴールです。最後のプレーだと思いましたし、あの場面で打たなければ悔いが残ると思いました」と、決勝点を決めたジェフユナイテッド市原・千葉レディースの瀬戸口梢は喜びを噛みしめながら語った。
8月12日に、プレナスなでしこリーグカップ1部決勝戦が、味の素フィールド西が丘で行われ、ジェフレディースが浦和レッドダイヤモンズレディースを1対0で破り悲願の初優勝に輝いた。
前半からレッズレディースに押され、あわやという場面を何度も作られたが、一丸となった粘り強い守備を体現することでこれを凌ぐと、ジェフレディースはショートカウンターで活路を切り開き反撃を試みる。
しかし、両者ともフィニッシュの形は作るものの得点を奪えず、一進一退の攻防が繰り広げられるが、終盤にかけて足が止まっていたレッズレディースに対しジェフレディースの運動量は落ちず、得点を奪うために全員がピッチを駆け回った。
時計の針は進み90分間では決着が付かず、迎えたアディショナルタイムの90+2分、中盤で瀬戸口がボールを運びペナルティエリア手前で強烈な左足ミドルシュートを突き刺しネットを揺らす。試合終了間際の劇的弾に会場のボルテージが最高潮に達すると黄色の歓喜が爆発した。
昨年も同大会で決勝まで進んだジェフレディース。優勝には手が届かず悔し涙を流したが着実に成長することでタイトルに相応しいチームへと変貌して行った。
チームの指揮を執る三上尚子監督は「今日の試合、選手は気持ちで戦えたと思います。去年の悔しい決勝戦を含め、それを経験した選手が多かったので『耐えどころを耐えた』、『去年の経験があっての今年』だと思います」
今季、チームは日本女子代表選手の菅澤優衣香と山根恵理奈が抜けネガティブな要素もあったが、指揮官は若手を鍛え上げ成長を促すと同時に、個の力に頼らず全員がボールに関わり、チームとして粘り強く戦える集団を作っていった。「自分が試合に出場して“やらなければ”と強く思うことが出来ています。使ってくれる監督には感謝をしています」(瀬戸口)
瀬戸口が放った起死回生の決勝弾は決して偶然ではない。チームが前へ前へと成長してきた証なのだ。
また、キャプテンの上野紗稀は「今年はタイトルを取るしかないと思っていました。本当に嬉しいです。去年と同じ場所での決勝戦でしたし、前回の決勝戦では0対4で負けていたので今回はという思いがとても強く、勝ちたくてしょうがなかったです」と、飛び切りの笑顔で振り返った。
強豪チームと比べ技術的に劣っている部分もあるかもしれないが、泥臭く“走る・闘う”というチームスピリットでカバーをした。自分たちに出来ることを追求し徹底したことが躍進の理由だ。
瀬戸口は言う。
「ジェフレディースのサッカーは相手よりも走り勝つスタイル。深澤(里沙)選手をはじめ、前の選手が走って追ってくれているので自分もサボれません。チーム全員が最後まで走り切ったことが結果につながりました」
この日のゲームに脇役はいない。ピッチに立った選手全員が主役だった。
「選手全員がそれぞれの役割を粘り強く、そしてジェフらしいサッカーが出来たところが、この夏場のタイトルにつながったと思います」(三上尚子監督)。
そして、選手とスタッフは、表彰式が終了すると応援に駆け付けてくれたサポーターの下に向かい、熱い応援に対する感謝と優勝報告をすると再び歓喜の輪が出来る。三上監督、上野キャプテン、そしてチーム在籍11年目の深澤の胴上げが行われた。「ここまでタイトルに縁がなく、自分がいるうちにタイトルを取れて嬉しく思います。こみ上げてくるモノがありました」と深澤は目を潤ませながら真情を吐露した。
また、初戴冠はクラブのオフィシャルカメラマンとして、この日も彼女たちの雄姿に幾度もシャッターを切り続けていた今井恭司氏の日本サッカー殿堂入りに華を添えることにもなった。
ただ、ジェフレディースはこのタイトルが終着地点ではない。次なる目標はリーグ戦での二桁勝利だ。現在、リーグ戦では6位(5勝5敗)。優勝争いに絡んで行くためにも勝ち点の積み上げは必要であり、残り8試合で5勝のノルマは決して簡単ではないが、ここで得た大きな自信と勝利への熱量を持つ彼女たちならやってくれるはずだ。瀬戸口の言う通り「浮き足だたず、地に足をつけて戦うこと」に尽きるだろう。
この先もタフな試合が待ち受けているが、タイトルを取ったからこそ目標をより高く掲げ粘り強く戦わなければならない。
苦難を乗り越えて叶えた夢は、さらにここから何倍にも膨らんで行く。
再び、黄色の歓喜に包まれるため挑戦を続けるジェフレディース。彼女たちの物語は、ここから第二章を迎える。
文=石田達也
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