夏に加わった新戦力リンス [写真]=J.LEAGUE
今年に限らないことかもしれないが、J1は残留争いが面白い。ヴァンフォーレ甲府にとって最大のミッションが「15位以上」に入ること。甲府はJ1最少規模の強化予算で、現在4年連続でこのハードルをクリアしている。ただし順位は15位、13位、14位、14位と常に「ぎりぎり」だった。
17年の残留争いは特に厳しい。甲府は第23節を終えた時点で勝ち点20の14位に位置している。ただ15位・北海道コンサドーレ札幌が同じく勝ち点20、16位・大宮アルディージャが勝ち点19、17位・サンフレッチェ広島が勝ち点18に迫っている。この4チームは「横一線」と言っていい。
どのチームも夏場の移籍期間で外国籍選手の入れ替え、日本人選手も含めた補強を精力的に行っている。大宮、広島と最下位の新潟は既に監督交代という手も打った。
甲府が13日に対戦した札幌はジェイとチャナティップが攻撃の中心を担っていた。20日に対戦した広島はパトリックと丹羽大輝がフル出場し、椋原健太もベンチ入りしていた。大宮もマルセロ・トスカーノ、カウエが早くも戦力になっている。
甲府は高野遼とリンスを獲得した。この時期に獲得する選手は当然「即戦力」で、勝敗に直結する役割が期待される。
甲府は23試合を終えてJ1最少の12得点。よくその数字で勝ち点を20も稼いでいるという話なのかもしれない。特にFW陣はウイルソンが2点、ドゥドゥが1点という視力検査レベル。
「押し込まれずに自分たちの時間を作る」部分は今季の収穫で、それが守備の建て直しにも好影響を及ぼしている。しかし攻撃は純粋に駒不足で、「頑張れる選手」はいるが、ゴール前でプラスアルファを出せる選手がいない。
リンスは自らの仕事についてこう述べる。「自分はFWなのでゴールを沢山決めたい。このチームではそれだけでなく、守備もしっかりやらなければいけない。チームメイトのスペースを空ける動きもしないといけない。甲府でやるべきことをしっかりやって、できるだけ早くチームに溶け込めるように、周りとコミュニケーションを取りながら準備していきたい」
リンスは14年と15年にガンバ大阪でプレーし、14年はJ1制覇に貢献。途中出場から終盤にゴールをよく決めて「仕上げのリンス」という異名を取った。916分の出場時間で5得点という14年のペースで得点を量産してくれれば甲府の大きな助けとなる。
ただし、このクラブでは「FWが美味しいところだけを持って行く」ことが許されない。そこは彼もよく理解している様子だった。甲府のアタッカーにとって「頑張る」「周りを助ける」ことは大前提。その上でプラスアルファを出さなければいけない。それはG大阪時代以上に難しい仕事だ。23試合で12点しか取れていないチームなのだから、一人が短期間で2点、3点と取ってくれればそれは干天の慈雨となる。
とはいえ広島戦のプレーやトレーニングを見ると、やはり彼はオン・ザ・ボールのスキルが高い。方向転換がスムーズで、1歩目2歩目で一気にスピードへ乗る鋭さもある。大柄ではないがボールを収める、相手を剥がすという部分で違いを出せるだろう。オフ・ザ・ピッチの適応も全く問題なさそうで、24日の練習後は本来ライバル関係のドゥドゥと延々じゃれ合っていた。
吉田達磨監督はリンスについて「ウチにとっては貴重な、ボールを奪われない、正しいタイミングで走ることのできる選手」と評する。川崎フロンターレ戦の起用については「スタートから出てどこまで持つのかというところと、あとは途中から出してよりパワーを出してもらうかというところの瀬戸際。それを今フィジカルコーチ、メディカルと話しながら考えているところ」と説明していた。
2017年のJ1はもう残り11試合。甲府が残留争いのラビリンスから18年のJ2へと抜け出すために、リンスの貢献は不可欠だ。
文=大島和人
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