ルヴァン杯への意気込みを語った野沢拓也 [写真]=J.LEAGUE
野沢拓也、36歳。高度なボールコントロール技術と、豊かな発想、そして瞬時の状況判断力によって、相手の意表を突くパスや、摩訶不思議なシュートを繰り出せる選手だ。
鹿島アントラーズで、数々のタイトル獲得に貢献してきた名手。その彼は2014年の8月からベガルタ仙台に加わり、今年で4度目の夏を迎えた。チーム最年長として自らのプレーで勝利に貢献することはもちろん、仙台というまだまだ発展途上のクラブに経験を落としこんでいる。
その野沢は今季、仙台が取り組む3-4-2-1を基本としたシステムの中で、彼なりのやり方で1トップを務める。シャドーと入れ替わってトップ下のようになったかと思えば、大外のウイングバックと予想もつかないパス交換をする。リーグ戦の出場機会に到らない中でも、出場機会を得れば初挑戦のポジションで奮闘を続けた。
今季のJリーグYBCルヴァンカップで、仙台は2013年以来となるノックアウトステージ進出を果たした。グループステージを首位で突破するまでに、西村拓真や佐々木匠、椎橋慧也といった若手選手が躍動。その中で、野沢はファンタジスタというよりは“最前線の黒子”とでも言うべき役割を果たし、若手の背中を押した。
仙台は8月30日と9月3日に、準々決勝を戦うことになった。相手は、この大会で6度の優勝を経験している鹿島である。仙台はというとこの大会での最高成績はベスト8にとどまっており、今季のように一週間で同一大会の同一対戦カードをホーム&アウェイで戦うのは、2009年のJ1・J2入れ替え戦以来である。
個人としてはこのような形式の戦いを経験してきた野沢に、仲間とともに強敵に挑むこの準々決勝を展望してもらった。
「この一戦目をホームでできるのは、僕は大きなことだと思っています。このアドバンテージを利用して、戦いたい。一戦目で勝って結果を残すことで、すぐやってくる次の試合(アウェイ戦)に得たモノを生かし、プラスアルファの戦いができるともいえるし、一戦目を勝つことは本当に大事なんです」と、彼は勝利の重みを強調する。
勝利の重み、タイトルの重みを、身を持って知る人間だからこそ、その言葉もまた重い。そして、勝利やタイトルの経験を自らの血肉にするだけでなく、成功体験の少ない若手選手にまでその経験をともにできるように気を配るのもまた、野沢なのだ。
「グループステージをトップで通過できたのは、出場したこのチームの選手全員が成長して積み重ねたものがあった結果なんです。そこに自信をもっと持っていいと思う反面、そこで満足してしまってはいけません。カップ戦は1位しかない大会だと思っていますから。自分もそういう経験を重ねてきたからこそ、今があると思うんです。
突破できて良かった……。で終わらず、タイトルを獲ったという経験をしてこそ、その先の考え方も身につくし、選手個人も次のステップに行けます。ここまでの経験を無駄にしないためにも、その先に進んで、もっと大きな経験につなげないと」
相手の鹿島は、野沢にとってその経験の多くを重ねてきた場所だ。しかし、“古巣戦”の感傷よりも、敵に対して何ができるかを、仙台の背番号8は語る。「鹿島は今もJのトップだし、僕たちにとってはリーグ戦で負けたあの時の借りを返さなければいけない。そのために全力を尽くしたい」
鹿島とのリーグ戦の対戦では負傷などもあって出場できなかった野沢だが、今回の対戦に向けて、自身のコンディションも上がっているようだった。そのことについては
「うーん、そこは……見た人の評価に、お任せします」
と苦笑いしたが、彼はどういう形でこの準々決勝以降で力が必要とされたとしても、その技術で、その勝利への執念で、貢献してくれるだろう。1stレグを前にした紅白戦で、味方へのサポートが遅れた若手選手に「そこでボールにケツを向けるな!」と指示したかと思えば、その若手選手がパスを出したときには即座にゴール前のポジションを取ったように。
野沢拓也、36歳。彼のプレーは、高度な技術、豊かな発想、瞬時の判断、勝利への執念、そして……彼なりにチームを見守る心で、構成されている。
文=板垣晴朗
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