好調を維持する安西幸輝 [写真]=J.LEAGUE
30試合を終え、東京ヴェルディは6位につけている。昨年、J2残留争いも経験し、18位に終わったことを考えると、大躍進と言っていいだろう。その中で、個人としても、ひときわ充実のシーズンを送っているのが安西幸輝である。ケガで開幕2試合は欠場したが、第3節に復帰。第7節からは先発レギュラーとして起用され、以後ここまで全試合出場が続いている(第9と15節は途中出場)。
今季の自分自身を“無”と表現する。「気持ちにあまり振れ幅がないというか、『絶対にめちゃくちゃやってやろう』とか、『絶対に点を決めよう』とかいう“絶対”という思いがなくなりました」。唯一、「『絶対に勝とう』は、毎試合あるんですけど」と、勝利への強いこだわりだけは譲れないと、慌ててフォローを入れるが、それ以外のことに関しては、これまで必要以上に自らを追い込んでいた、“絶対”というプレッシャーワードから、不思議と解放されているのだという。それによって、メンタルの大きな変動がなくなり、プレーの大きな波がなくなった。「僕、こう見えてけっこう繊細なタイプで、去年までは、『絶対に活躍する』と決めて試合に入ったのに、変なボールの取られ方をしたり、ミスをしたりすると、やっぱりどこか消極的になる部分がありました。でも、今年に限っては、たとえミスをしても、切り替えて、また次にどんどん仕掛けていけています」。
チームは、第21節から6試合未勝利という結果をうけ、第27節からは4-3-3にシステムが変更。その中で、第28節からは、下部組織時代から本職としてきたサイドバックではなく、右FWで起用されているが、それが見事に機能し、連勝に大きく貢献している。背番号2を前線に配した意図を、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は「1対1が強く、右にも左にも抜ける。裏への動きもある。チームに深さを与えることができる」と、説明する。
もともと得点意欲が強く、DFで出場している時から常に「ゴールに絡むプレーを」と心掛けている選手だ。FWとして点を取ることが明確に求められることで、その意識がより促進されたことは間違いない。監督やチームメイトからの「取られてもいいから、とにかくクロスやシュートを狙っていけ」という言葉にも後押しされ、「気持ち的にも、迷わず仕掛け続けられる」。それが、チームにも個人にも好結果をもたらしているといえよう。
序盤戦から続く、高い質でのパフォーマンスの安定に、周囲からはコンディションの良さを指摘されることが多いが、本人の考えは少し違う。「最初は、僕もそうだなと思っていたのですが、それだけだったら、これだけ長い間、ずっと良いプレーを続けるのは難しいと思うようになって。コンディションも悪くはないですが、今はそれ以上に、“今”が良いのではなく、1年目から他の人よりずっと試合に出させてもらって、いろいろな経験をさせてもらってきた分、自分が成長できているからなのかなと感じています」。「何の根拠もないんですけどね~」と、すぐに冗談ぽく笑って見せたが、その表情は、確かな自信と充実感で満たされていた。
実は、「根拠」はある。象徴的なのが、第29節V・ファーレン長崎戦でのゴールだ。1-1で迎えた60分、内田達也からボールを受けると、迷いなくドリブルで勝負。自身が最も得意とする、カットインからのミドルシュートで、チームを勝利に導いた。幼少時からこだわり続けているだけに、その時のドリブルの感覚に、自分の成長を感じたと明かす。「『ボールを持ったら縦に行く』というのを決めてドリブルするのではなくて、ボールではなくて相手の足や体を見て、フェイクした時に相手がちょっとずれたので、チョンとずらして、巻いて(シュートを)決めた。ああいうドリブルの仕方は、今までとは違う。成長しているからできたのかなと思います」。
同節の『DAZN週間ベスト5ゴール』にも選出されたゴラッソだっただけに、喜びや、満足感も大きいのだろうと思ったが、話す口ぶりは、意外なほど淡々としていた。「あんなに良いゴールを決めたら、普通なら、『次もやってやろう!』という気持ちになると思うのですが、それよりも『もう1点ぐらい取りたかった』というのが、正直な気持ちなんです。それはたぶん、自分でも今、伸びているんだろうなぁというのが分かっているから。どうしても、満足できないんです」。決して過信ではなく、確かなる感覚の変化。成長への手応え。だからこそ、複数得点やアシストなど、目に見えた数字が、もっと残せそうな気がして「もどかしい」のだと、素直な心中を語る。
「こんな感覚の時期、今まで来たことがなかった。とにかく今は、練習でもゲームでも、もっとやりたい。もっとサッカーが上手くなりたい」と、22歳。オフの時間は、裸一貫で海外に出向き、漢字や毛筆など、日本独自の文化を手段に日銭を稼ぐ“ユーチューバー”の動画を見て、金銭の大事さを感じて過ごす日もあれば、趣味の“即興ラップ”で、頭の回転を鍛える、自他共に認める「変わり者」だ。これらが自身のサッカースタイルに直結することはないというが、その感受性の豊かさ、直感的なアイデアと対応力は、やはり、どこかしらプレーに通じるものを感じる。そのキャラクター、そしてポテンシャルの高さに、下部組織OBであり、ジュニアユース時代からの恩師、さらに前監督でもあった冨樫剛一氏(現東京V強化部ダイレクター)が、「Mr.ヴェルディになれ」と託した逸材でもある。「僕がプロに入り、試合に出させてもらった3年間で、いろいろなことがありました。常に『J1に行きたい』という強い思いを持っている中で、今が一番、掴めそうなところにいます。だからこそ、全勢力をかけてやらないと、また逃しちゃうかもしれない。チャンスがあるときにどれだけ頑張れるかが、これからの課題。去年の残留争いの苦悩を、今後生かしたい」。
チームの躍進と、自ら実感できる成長期。最高のシチュエーションの中で磨かれていく緑の原石がどれほどの輝きを放っていくのか。その過程を、残りのシーズンでじっくりと堪能したい。
文=上岡真里江
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