甲府は残留をかけて12月2日にJ1最終節を戦う [写真]=JL/Getty Images for DAZN
2017年11月26日14時43分――。ヴァンフォーレ甲府はJ2降格の瀬戸際にいた。
NACK5スタジアムの第33節・大宮アルディージャ戦は80分まで0-0で進んでいた。そのまま終われば16位・甲府の勝ち点は「29」に留まる。甲府と残留を争っていた清水エスパルスはアルビレックス新潟を、サンフレッチェ広島もFC東京をリード。そのまま勝ち点を清水が「34」、広島が「33」まで伸ばすと甲府はもう届かなくなる。
しかし新潟は0-2のビハインドから71分にホニ、85分に加藤大、89分に酒井宣福と立て続けにゴールを決めて3-2の逆転勝利を挙げた。甲府は0-0で試合を終えて「痛み分け」に終わったものの、清水の勝ち点が「31」のままになったことで最終節に望みをつないだ。
甲府の吉田達磨監督にとって、新潟の選手は昨季、苦楽を共にした仲間でもある。指揮官は新潟の奮闘についてこう述べていた。「新潟の面々が『必ず勝つから』と言ってくれていましたし、『絶対勝つから絶対勝ってくださいね』といったメッセージや電話もすごいもらっていた。彼らが僕たちの命を一週間延ばしてくれた。ウチは試合をモノにできず、約束を少し破ったようなことになったけれど、次に勝って(新潟の勝利を)活かして終わりたい」
振り返ると今季の甲府は「持っていない」チームだった。開幕のガンバ大阪戦は後半アディショナルタイム1分の失点で勝ち点3を取り切れず、第2節・鹿島アントラーズ戦も後半アディショナルタイムのPKによる失敗で勝ち点1を逃した。第13節・FC東京戦ではウイルソンが最後の1対1を決められず、やはり勝ち点1に留まった。第25節・清水戦もシュート数は「16対5」と圧倒しつつ、0-1と敗れた。
もちろん勝負に「タラレバ」はないのだが、それにしても今季の甲府は悔しさの残る試合が多い。選手やサポーターは「もやもや」「悔しさ」を十二分に味わってきた。
そのような詰めの甘さは勝負の世界において致命的で、逆の見方をすればそんなチームがよく最終節まで残留の可能性を残しているとさえ言える。しかし新潟の奮闘のおかげで、その悔しさを晴らすラストチャンスが残された。
普段はクールなキャプテン山本英臣も、大宮戦後の言葉は熱を帯びていた。「僕たちにまだ運が残っているという気持ちでいます。今日も石原克哉をはじめとするメンバー外の選手たちが、このスタジアムまで来て僕たちを後押ししてくれた。本当にすごくいいチームだなと改めて思った。全員が一つになる――。それをやり続けてきたチームというのを最後に証明して、しっかり残留を手繰り寄せられるように、まず自分たちの結果を求めてやっていきたい」
今季の甲府は「5-3-2」の布陣で、堅守やカウンターといった狙いは変わらない。一方でコンパクトな組織で攻守に連動して動くというベースが整い、目先の帳尻合わせに終始する傾向からチームは脱しつつある。山本はこう説明する。
「去年は『手を変え品を変え』という感じでやっていたけれど、今年は一つになって、同じ方向を向いてここまで歩んできた。それをブレずに自信を持って貫くことが重要だと改めて思います。『一つになって戦う』ことは簡単なようですけど、長いシーズンを通してなかなかできることではない。(今季の甲府は)ここまで一つになって戦ってこれたと僕は自負している」
今季の途中から山本は最終ライン中央の定位置を新井涼平に譲っている。大宮戦は島川俊郎の負傷によって18分のプレータイムを得たが、4試合ぶりの出場だった。彼はそんな心中をこう明かす。
「チームがこういう苦しいときに、メンバーに選ばれない悔しさ、複雑な思いはあります。ただ自分が出たら『結果を出すぞ』と強い気持ちでプレーできている。周りの人は僕が使われていないことで例えば『監督と上手くいっていないのか』みたいな感じがあるかもしれませんけれど、僕は監督のやっていることは大好きだし、その素晴らしいサッカーを最後まで僕も表現したい」
石原や山本のような甲府に長く在籍するベテランの思いは、試合から遠ざかっても切れていない。我々から目にできない、オフ・ザ・ピッチの貢献もおそらくあったのだろう。
どれだけいいプロセスでも、結果が伴わなければ評価するのは内輪の人間に限られて、なかなか外の人間には伝わらない。しかし今季の甲府はあれだけ痛い、ダメージの残る展開を何度も喫しつつ、確かにチームで戦う部分は全くと言っていいほど崩れなかった。
甲府が15位に滑り込み、J1残留を決める条件は二つだ。
(1)甲府が仙台に勝つ
(2)清水が神戸戦を引き分け以下で終える
幸いにして甲府は第34節・仙台戦をホームで戦うことができる。ここまでのプロセスの価値を、結果で証明する場が残されている。今季の甲府が“持っていないチーム”なのか、実は“持っているチーム”なのか――。12月2日はその結論が出る一日だ。
文=大島和人
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