J1昇格を懸けプレーオフ準決勝に臨んだジェフユナイテッド市原・千葉だったが、立ちはだかる名古屋グランパスの赤い壁の前に跳ね返された。
フアン・エスナイデル監督は「試合に関しては一番難しい先制点を取る目的を果たしましたが、ただゲームを完璧に支配することができませんでした。引き分けにされたゴールが試合の分岐点になったと思います」と振り返った。
リーグ終盤7連勝の勢いと、挑戦者として“自分たちのサッカースタイルを貫く”姿勢で臨んだ一戦は、前半アディショナルタイムにCKのチャンスでショートコーナーから為田大貴がグラウンダーのクロスを送ると、ラリベイが左足ヒールで流し込み先制に成功する。高いポゼッション率とリーグ最多得点を残す名古屋との相性は良く、今年の対決は2戦2勝を記録。ただ相手も“3タテ”を許すほど甘くはない。この日は最終ラインを3枚にし、両サイドに厚みを持たせて前線のシモビッチを軸に押し込まれた。
千葉は引き分けも許されず勝たなければ終わり。ここを乗り切れば一気に昇格の切符を掴み取る自信もあった。しかし61分、最終ラインに入ったボールを近藤直也がクリアするが、そのボールが田口泰士の腕に当たるも、そのままシュートを捻じ込まれた。ゴール後、選手らは激しく抗議をしたが得点は覆ることなく、この失点が大きくのしかかった。
流れを取り戻せないまま焦りがミスを呼び込むと66分と86分に連続失点。ラリベイが90分にPKで1点を返すも、90+6分に再び突き離され“ミラクル千葉”の挑戦は幕を降ろした。
J2降格後、4度目となったプレーオフに挑んだ佐藤勇人の胸の中は敗北感と悔しさが交差していた。
「(リーグ終盤)7連勝をして勢いは自分たちにありましたが、ここを勝ち抜くには勢いだけでは足りませんでした。最終的にリーグ6位という結果が、この日の結果として表れている。シーズンを通して、しっかりとした戦いができなければ、こういう試合を勝つことが簡単ではないと思いました」
リーグ終盤戦にかけて積み上げてきたものをピッチで表現できるようになったが、終始安定した戦いが出来なければそう簡単には上がらせてくれない。昇格への厳しさを肌で知り、もうひと踏ん張りする力が足りなかったことは来年への宿題となった。
また、特別な一戦での兄弟対決が注目されるなか、「兄弟、家族関係なく、ジェフのプライドと誇りをもってピッチに立ちたい。寿人もそうだと思いますが、家族を捨てて、クラブの一員として結果を出さなければいけない」と感情を捨て試合に勝つために臨んでいた佐藤兄弟。たった1つの椅子を巡っての真剣勝負は弟が兄をファールで止めるシーンもあった。
生きるか死ぬかの戦いで最後までピッチに立ち続けた背番号7だったが、試合終了の笛が無情にもピッチに響いた。悔しさと虚しさ、敗戦の痛みがそう簡単に消えるはずはない。しかし胸中には次の思いも芽生えていた。
「もちろん負けたくない思いはありました。お互いが強い気持ちを持って、クラブのために勝つ準備をしてピッチに立ちました。この敗戦は悔しいが、今は寿人のいちファンとして名古屋を応援します。寿人には『名古屋の昇格を応援しているので頑張ってくれ』と話しました」
勝負の世界には必ず“勝者と敗者”が存在する。勝ち続けた者だけが勝者であり、2番手以降はすべて敗者となる。結果だけが求められる残酷でシビアな世界だが、それがプロの世界でもある。
「前回の豊田での対戦では(勝者と敗者が)逆の形だったし、今回はその逆の形となった。それがプロで生きていく意味であり、自分はそれを受け止めて、寿人の(J1昇格)名古屋を応援したいです」と、改めてピッチを離れれば一番の応援団であること口にした。
だから、きっと、この物語には続きがあると信じたい。それはJ1の舞台での兄弟対決だ。終わりの始まりとなったこの一戦。悔しさを力に変えチームとしても個人としても一歩ずつ成長した先に昇格が見えてくる。
文=石田達也