今季を11位で終えた山形 [写真]=Getty Images for DAZN
木山隆之監督を新指揮官に迎えたモンテディオ山形の2017シーズンは、14勝17分11敗の勝点59、11位で幕を閉じた。3年ぶりのJ1復帰を目標に掲げたシーズンの結果としては、落胆せざるを得ない。しかも、せめて昇格プレーオフ出場権が得られる6位以内を伺いながらの最終11位ならまだしも、プレーオフ圏内に入ったのは第19節終了後に5位となった1度だけだ。後半戦は12から13位が定位置。後述するようにプレーオフ圏内チームとの勝点差はわずかだったとはいえ、そのわずかの差を詰めることはついにできなかった。大幅な選手の入れ替え、ケガ人続出、引き分け、得点力不足…。目的の場所への到達を阻んだ要因を探るためのキーワードはいくつかあるが、まずは山形の2017シーズンを時系列で振り返る。
【監督交代〜チーム編成】
3年間指揮を執った石﨑信弘前監督に替わり、ジェフユナイテッド市原・千葉・愛媛FCをプレーオフに導いた実績を持つ木山隆之監督を招聘。ミッションは「J1で戦える力をつけて昇格」である。愛媛からの4選手を含む12人の新加入選手を迎え、新チームが編成された。クラブの強化責任者は今季の編成方針について具体的な狙いを二つ挙げている。一つは「守備の安定とディフェンスラインからのビルドアップ」。GK児玉剛、DF菅沼駿哉、加賀健一と、守備力にプラスして攻撃のスイッチを入れられる選手を揃えた。昇格時の功労者であるGK山岸範宏がチームを去ることになったのも、この方針と無関係ではないだろう。もう一つは「得点力アップ」。昨季J2で二桁ゴールを挙げた阪野豊史(12得点/愛媛)、瀬沼優司(10得点/愛媛)、中山仁斗(10得点/愛媛)と3人のFWを補強。一昨年ではあるが10得点の実績を持つMF南秀仁(東京ヴェルディ)を含めた「点の獲れる選手」を揃え、チームを木山新監督の手腕に託した。
【開幕〜前半戦/苦しみながら9戦負けなしも】
開幕戦の9年ぶり勝利は大きなトピックスだった。例年、始動直後から雪のホームタウンを離れ開幕までの1カ月余りをキャンプ地で過ごす山形にとって、開幕戦は疲労との戦いである。ただ、それが負担になっているのは事実ではあるものの、開幕で勝てないシーズンを重ねるにつれ見る側も「長いキャンプで疲れているから仕方がない」と、許容していたところはある。しかし新生・木山モンテディオは緒戦で京都を2-1で下してみせた。システムは3-4-3。守から攻への切り替えの意識が高く、組織的に攻撃を組み立てていこうという意図の見えるサッカーには躍動感があった。昨年は出場時間1分だった。DF瀬川和樹が開幕スタメンの座を掴み取り、新加入・瀬沼の先制点をアシストしたことも含め、新生モンテディオが良い方向に変化していることを印象づけた。
しかし、開幕からの過酷なアウェイ3連戦を1勝2分と乗り切ったものの、この時期に南が負傷離脱。チーム作りの出鼻をくじかれた感は否めない。木山監督もシーズンを振り返って「チームの中ではちょっと毛色の違う、時間を作れる選手がいなくなって、ちょっと攻撃は寂しくなった」と語っている。
不運なことに、この時期から更に負傷者が相次いだ。ウィングバックに抜擢されて持ち味を出していたMF鈴木雄斗をはじめ運動量の多いサイドプレーヤーが不足し、チーム作りのプランに遅れが出たことは否めない。ただ、チームは苦しみながらも粘り強い守りをベースに奮闘。第11節から9戦負けなしで勝点を重ねながら前半戦を乗り切った。
【徳島戦の大敗から苦難の後半戦スタート】
ザスパクサツ群馬、横浜FCに連勝して9戦負けなしとした時点で順位は5位に浮上。しかし、天皇杯2回戦(vsV・ファーレン長崎/1-0)を挟んで迎えた第20節ホーム徳島ヴォルティス戦(1-6)は、今季の山形にとって忘れられない試合になった。11分に与えたPKで先制を許した後、前からのプレスは外され、徳島の速い攻撃に対処できないまま失点を重ねた。試合後にGK児玉は「こういう試合もある。ネガティブになってはいけない」と話したが、チームはそこからFC町田ゼルビアに1-3、レノファ山口に0-2と3連敗。続く天皇杯3回戦ではJ1鹿島アントラーズに0-5と完膚なきまでに打ちのめされた。ケガ人が続出し苦しい戦いが続く中でも、なんとか必死で勝点を積むことによって保ってきた選手達の精神力に、徳島戦の大敗は大きなダメージを与えた。平日の天皇杯開催による過密日程が追い打ちとなって、チームは心身ともに疲弊していた。
【光明/ゲームメーカーの復帰とシステム変更】
徳島戦からの3連敗の後、第23節名古屋グランパス戦から、木山監督はキャンプから続けてきた3バックから4バックにシステムを変更する。この時期、MF佐藤優平が復帰したことも一つのきっかけになった。昨季オフに左ひざ関節前十字靭帯の再建手術を受けチームを離れていた佐藤は、ゲームを作れる選手。彼がトップ下に入る4-2-3-1を形成し、リズムのある攻撃が徐々に増えていった。名古屋には倍のシュートを打ちながらも敗れたが、第24節ホーム湘南ベルマーレ戦に3-0と完勝。首位チームを相手に4バックの守備の手応えをつかみ、勇気を持って仕掛けていく攻撃を思い出した試合だった。
【夏から秋へ/ドローで足踏み、浮上できないまま終了】
湘南戦の勝利で勝点は35に。順位は14位だが、J1昇格プレーオフ圏内である6位との勝点差はわずかに2。僅差の中に10チーム近くがひしめくサバイバルレースのただ中にいた。走力に自信のある山形としては、消耗戦の夏に頭一つ抜け出したかったが、8月は2勝2分1敗。30節が終了した時点で勝点42の13位に留まっており、6位東京Vとの勝点差は7に開いていた。
残り12試合で勝点7差は逆転不可能な数字ではないが、それを可能にしようと必死のチームが何組もあった。ここから逆転劇を演じるには、勢いを加速する勝ち方が必要だった。しかし9月は5試合のうち4試合がホームゲームだったにも関わらず、0勝4分1敗。6位がじわじわと遠ざかった。
結局は、8月から9月にかけて、一つ勝てば大きく浮上するというファン・サポーターの期待の中で、5戦連続ドローを含む9試合勝ちなし。反撃の狼煙は湿って上がらず、昇格の現実味は急激に薄れた。もちろん監督も選手も「可能性がある限り昇格を目指す」と口にしてはいたが、それは自らを鼓舞するための言葉だったのではないか。システムを4-3-3に変えて快勝した第37節・横浜FC戦など、チームと選手の成長が見える試合はあったものの、3節を残して山形のプレーオフ進出の可能性が消えた。
【ケガ人、引き分け、得点力不足】
シーズン前には選手たち自らが「優勝」をチームの目標に掲げた。そこには意気込みも含まれていただろうが、根拠のない打ち上げ花火ではなかったはずだ。顔を揃えたメンバーを見渡して、優勝も狙えるチームという自己評価を与えたからこその目標設定だったろう。だが現実には、昇格争いをしたという手応えもないままに終わってしまった。その要因はいくつもあるが、端的に言えば「ケガ人の多さ」「引き分けの多さ」「得点力不足」が大きく成績に影響した。
ケガ人は春先から不思議なくらいに続出した。南や鈴木など公式に負傷者リリースが出された選手の他にも、軽傷だがトレーニングにフル参加できない選手がつねに数名。多い時には8人が別メニューで、コーチを入れても11対11の紅白戦ができないこともあった。
「監督が変わった時は、練習の内容やオーガナイズが今まで慣れていたものと違うから、かかる負荷が変わってケガが増えるというのはよく言われること」。木山監督はケガ人続出の原因の一つとしてトレーニング内容の変化を挙げた。それが全てなら来季は心配ないが、避けられたケガと不可避のケガとを切り分けて、原因を潰していく必要はあるだろう。
17試合に上った引き分けの数はJ2リーグ最多(町田と同数)。今季の山形の特徴となってしまった。17のうちスコアレスドローは7試合に及び、得点力不足との関連も明らかである。そして得点力不足はケガ人ともリンクしている。12人の新加入選手と既存の選手を融合させ、攻撃のコンビネーションを確立していく時期に、チームのベースを固められなかったこと。加えて、「J2で二桁得点」の実績を見込んだ4人のうち、2人が長期離脱を余儀なくされたことはあまりに痛かった。春先に離脱した南ばかりか、途中出場で結果を出してチャンスを掴みつつあった中山も8月に離脱したままシーズンを終えたのである。クラブは夏の補強に動いたが、数の充足が優先され、現場を助けるようなインパクトのある補強には至らず。足踏みした夏から秋をチームの頑張りに任せるしかなかったことについては、クラブ力の不足を痛感せざるを得ない。
【J1で戦えるチームへ。構築は道半ば】
「今年の目標はズバリ、J1に復帰すること。もちろんクラブからはJ1定着に向けてしっかり力を蓄えて欲しいというタスクも任されている」。 木山監督は今年1月に開かれた新加入選手記者会見時の挨拶でこう述べた。
一方で、昨年末に木山監督の就任会見の席に立った中井川茂敏取締役強化運営担当はこう明言した。「(現状では)まだまだJ1で戦える力はない。木山体制2年でJ1で戦えるチームを作り、昇格するという目標を一緒に達成したい」
クラブが考える「J1で戦えるチーム」のイメージが、木山監督が目指す「自分たちが主導権を握ってボールをつなぎ、前線からプレッシャーに行くサッカー」と合致したからこそのオファー。その意味では、木山体制の1年がチームにもたらした変化はクラブの期待に沿うものだったと言えるだろう。シーズン終盤にたどりついた4-3-3のシステムで見せた、ゴール前に3人、4人と押し寄せる迫力ある攻撃は、今後に期待を抱かせるものだった。この成長をいかに数字として上乗せできるものにしていくか。小さからぬ手応えを残したとはいえ、メンタル面も含め、勝ち切る力のあるチームの構築にはまだまだ道半ば。来季に持ち越されたタスクもまた少なからず残った。
文=頼野亜唯子