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【インタビュー】相思相愛での“帰還” 大卒ルーキー・矢島輝一の誓い「プレーでFC東京愛を示す」

2018.01.13

中央大からFC東京に加入したFW矢島 [写真]=兼子愼一郎

 FC東京を離れ、中央大学で過ごした4年間。揺るがないはずの「戻りたい」という願いさえ、見失いそうになるほどの苦悩も経験した。それでも矢島輝一は、覚悟を決めた。「プレーで、ゴールで“東京愛”を示す」。誓いの言葉を胸に今再び、青赤のエンブレムを背負って――。

インタビュー・文=平柳麻衣  写真=兼子愼一郎、内藤悠史

 2017年3月。矢島輝一は悲劇に見舞われた。全日本大学選抜の遠征中に左ひざ前十字じん帯を損傷。全治8カ月の大けがで、その時点で大学ラストシーズンをほぼ棒に振ることとなった。所属する中央大学の関東大学リーグ1部昇格、ユニバーシアード日本代表での金メダル獲得、そして幼い頃からの夢であったプロ入りに向け、強い覚悟を持って足を踏み出した矢先の出来事だった。

[写真]=兼子愼一郎

 

■「FC東京に戻りたい」。でも、即答できなかった

――大学4年目の開幕前という時期にけがを負い、大きな不安があったと思います。
矢島 大学に入ってからもずっと、スクール時代からお世話になってきたFC東京に「戻りたい」と思っていたんですけど、客観的に見たらこの時期に大けがをするというのは本当に難しい状況ですし、正直「どうなるか分からないな」と思いました。ただ、僕としては「FC東京に関わりたい」という思いが強かったので、もしFC東京からオファーが来なかった時にサッカーを続けるのかどうか、アカデミーの先輩の小泉将来さんが日体大を卒業してFC東京のスクールのコーチになったので、「スクールのコーチってどうですか?」と聞いてみたり、いろいろな選択肢を探しました。

――実際にFC東京からオファーが来たのはいつ頃でしたか?
矢島 けがをしたのが(2017年)3月1日だったんですけど、5月1日に「今日でちょうど2カ月か……」と思っていたら、中大のGMの佐藤健さんから電話で話を聞いて、一瞬で鳥肌が立ちました。実はその前にJ2のクラブからオファーをいただいていたので、サッカーを続けることはできそうだなと思っていたんですけど、やっぱり僕にとってFC東京は特別で、その時は本当にうれしかったです。でも、当時スカウトだった宮沢(正史/現FC東京コーチ)さんから電話で「迷いはないか?」と聞かれた時、すぐに答えられなくて……その時が一番、サッカーに対する自信が持てなくなっていた時期だったので、やっぱりFC東京は日本を代表するクラブだと思っているし、「試合に出られるのかな?」という不安もありましたし、FC東京でプロになることが「怖い」と思ってしまったんです。もし、けがをしていなかったら「迷いはないです」と即答できたと思うんですけど、その時はすぐに答えられないほどすごく心が病んでいたというか、本来の自分ではなくなってしまっていたのかなと思います。

――改めてけがをしてしまった時の状況について聞かせていただけますか?
矢島 4年生になる年の3月で、自分も「これからだ」と楽しみにしていたところを一瞬で……全日本大学選抜のヨーロッパ遠征中の紅白戦だったんですけど、その瞬間、痛すぎてめちゃくちゃ叫んだんです。あまりに衝撃が強くて、ひざが取れてしまったんじゃないかと思ったほどでした。ひざを見るのも怖くて、恐る恐る触ってみたら全然普通で、「意外と大丈夫かな」と思ったらその後だんだん腫れてきて、「あぁ、これは重傷だな」って。「左ひざ前十字じん帯損傷」という診断で、全治はオペをしてから8カ月くらいと聞いて、8カ月後と言ったらもう大学リーグも終わっている時期になるので、その時はもう何も考えられなかったです。

――かなりツラい状況だったと思います。
矢島 最初のうちは、まだけがをした事実を完全に受け入れられていなかったので、グラウンドに顔を出したり、チームメイトと話したりすることも普通にできました。でも、4月にオペをしてから入院生活で一人の時間が増えて、左足が全く動かないことを感じた時にやっと「大きなけがをしたんだな」と実感しました。病院の消灯時間が21時半だったんですけど、そこからの寝付けない時間が毎日キツかったですね。

――なかなか眠れない時はどんなことを考えていたのですか?
矢島 考えないほうがいいと分かっていても、「本当は今頃こうなっていたはずなのに」と理想を思い浮かべたり、自分の今後のストーリーを嫌な方向に考えてしまったり……音楽を大音量で聴いて気を紛らわそうとしたんですけど、それでも考えてしまいました。

[写真]=内藤悠史

■「けがをしなかったら出会わなかった人」との出会い

――リハビリをしている間に矢島選手の支えになったものはありましたか?
矢島 けがをしたドイツ遠征中に香川(真司/ドルトムント)選手、内田(篤人/シャルケ/現鹿島アントラーズ)選手からメッセージ入りのユニフォームをもらったり、リハビリ施設で宮市亮(ザンクトパウリ)くんや小川航基(ジュビロ磐田)、森晃太(ヴァンフォーレ甲府)といったプロの選手たちと一緒にリハビリができたり、けがをしなかったら出会わなかった人たちとたくさん出会うことができて、みんなからもらった刺激が「自分も負けていられない」というモチベーションになっていました。他にも、大学選抜の仲間で同じ時期にけがをしていた今津(佑太/流通経済大)や松木(駿之介/慶應義塾大)と連絡を取って、「もう一回輝こう」とお互いに励まし合ったり。学校でも、以前はサッカー部の仲間以外とはあまり関わりがなかったんですけど、けがをしてからは集客など部の運営の手伝いをするようになって、そのつながりでサッカー部以外にも悩みを相談できるような友達ができたんです。

――人脈が大きく広がったのですね。
矢島 リハビリをどれだけ頑張っても、サッカーをした1日には勝てないです。でも、長いリハビリ期間で人間的な部分はすごく成長できると思う。人間的な成長って自分一人ではできないことなので、いろいろな人の話を聞いて、自分の中の引き出しを増やしていこうと思いました。以前は都心に出掛けるのが大っ嫌いだったのに(苦笑)、ご飯の誘いもほとんど断らないようになったんですよ。リハビリ生活の中では気持ちの浮き沈みが絶対にあるんですけど、それを毎日日記に書くことで自分のサイクルが分かるようになりました。僕の場合は、リハビリで新しいことにチャレンジして、それができなかった時に気持ちが落ちる傾向があるなと。それはリハビリをする中で起きてしまうことなので、落ち込む時間をなるべく短くできるように意識するようになりました。

――それは復帰後にも生かせることですよね。
矢島 けがをして良かったとは絶対に思わないですけど、人生のどこかでけがをしないといけないと決まっているとしたら、このタイミングで良かったのかなと思えるくらいには気持ちが変わりました。チームメイトの前ではずっと弱みを見せないように、極力明るく振る舞うようにしていたんですよ。でも、中大のキャプテン(須藤岳晟)はすごく勘が良くて、僕がツラい時に「このチームのエースは輝一だ」とメッセージをくれたり、リーグ最終節では気を使って僕を試合のサポートメンバーに入れてくれたんです。

――矢島選手が4年間、ピッチ内外でチームに貢献してきたからこそだと思います。
矢島 その試合で応援団が僕のチャントを歌ってくれたんですけど、中大での公式戦は約1年ぶりだったので、久々に聞いてすごくうれしかったです。けがをしてからはずっと応援する側に回っていた分、より一層感じるものがありましたし。僕が最後の1年で試合に出られなくてもリハビリやピッチ外での活動を頑張れたのは、けがをしていても活躍できる場をチームが作ってくれたおかげです。ゴール数のように目に見える結果で貢献できたわけではないですけど、自分にできることはやったと思っていますし、そこに関する悔いはないです。

――ユニバーシアード競技大会では、全日本大学選抜で切磋琢磨してきたジャーメイン良(流通経済大からベガルタ仙台に加入)選手が矢島選手の名前を手書きしたインナーシャツを着て戦っていましたね。
矢島 僕もユニバーシアードは本当に出たかったし、一緒に合宿をやってきた仲間のことがすごく好きで。だから、「輝一の分も頑張る」とか「輝一の分も点を取っておいたよ」と言ってくれる仲間に出会えて本当に恵まれているなと思います。大学を経由してこういう経験ができたからこそ、応援してくれる人や試合に出られない人の気持ちも分かるようになりましたし、少しは大人になれたのかなと思います。

[写真]=Jリーグ

■今後は僕が活躍する番。ナオさんに元気を

――FC東京への2018シーズン加入内定が発表されたのは8月でした。オファーに対して「即答できなかった」とのことでしたが、加入の決め手は?
矢島 本田(圭佑/パチューカ)選手がミランに加入した時、「10番をつけるチャンスがあるのに、他を選ぶのか?」と言っていたのを思い出したんです。僕にとっての夢は「FC東京でプレーすること」。その思いは小さい頃からずっと変わっていません。僕にも夢をつかむチャンスが目の前にあるのに、選ばない理由はあるのか?って。そう思って、FC東京で勝負しようと覚悟を決めました。

――FC東京のアカデミー所属時代は、石川直宏さん(2017シーズン限りで引退)への憧れが強かったそうですね。
矢島 僕にとってナオさんはすごく印象深い選手です。ナオさんがハットトリックした2009年の大宮アルディージャ戦(J1第9節)は見に行っていて、翌日の自分の試合でナオさんのゴールパフォーマンスを真似てやりました。その後もナオさんは僕が大学3年生で(JFA・Jリーグ)特別指定になった時に「大学のほうはどうなの?」と気さくに話しかけてくれたり、けがをした時にはリハビリ室まで来て「また一緒にやろうな」と声を掛けてくれたり。逆の立場だったらなかなか同じことはできないだろうなと思いますし、本当に人間性が素晴らしい人だなと思います。それに、ひざのけがを何度も乗り越えていてすごく尊敬しているので、引退すると聞いた時は、自分の中でジーンと来るものがあって……だから、今度は僕が活躍することで、ナオさんに元気を届けられたらいいなと思っています。ナオさんみたいに“FC東京の象徴”と言われる存在になりたい。引退する時にサポーターから「もう一度プレーを見たい」と思われるような人、そういう選手になりたいと思っています。

――それほどクラブに対する思いは強いものを持っていると思いますか?
矢島 FC東京を愛する気持ちは誰にも……ナオさんにも負けていないと思っています。クラブスタッフからも、東京愛の強さも僕の評価の一つだし、そういう選手が活躍することがクラブにとっては大事だと言っていただきました。思いがあるだけでは意味がなくて、ナオさんはそれをプレーで示したからこそあれだけサポーターから愛されたと思うので、僕もまずはプレーで、ゴールで“東京愛”を示していきたいと思っています。

――新シーズンの開幕が楽しみですね。
矢島 2018シーズンのキャンプに100パーセントの状態で臨めるように、とクラブ側とも話してリハビリに取り組んできたので、今はシンプルに自分自身の今後がすごく楽しみです。早く活躍したいですし、ゴールを決めたい。1年間で1点もゴールが取れなかった年は、サッカー人生で昨年が初めてだったんです。でも、FC東京はそんなタイミングでも自分の力を信じてくれて、クラブからの愛も感じましたし、その思いに応えないといけないという責任感も生まれました。僕を信じてくれた方々への恩返しのためにも頑張りたいです。そして、僕が小さい頃に味の素スタジアムで夢をもらったように、僕のプレーや僕のゴールを見て、一人でも多くの人に夢や希望を持ってもらえたらいいなと思います。

**********
 FC東京の2018シーズンが始動した1月13日、小平グラウンドに矢島の姿があった。残念ながら右足首の負傷により初日は別メニュー調整となったが、肝心の左ひざについては「もう問題ないです」と笑顔。そして夢をかなえ、プロとして“戻ってきた”古巣への思いを口にした。

「小平に来ると、やっぱり僕の居場所は“ここ”だなって思います」

 大好きな場所、大好きなFC東京。ここで愛し愛され、輝くために、矢島はもっと強くなる。

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By 平柳麻衣

静岡を拠点に活動するフリーライター。清水エスパルスを中心に、高校・大学サッカーまで幅広く取材。

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