プロ1年目はリーグ戦の出場が1分もなかった19歳が、開幕戦でスタメンに大抜擢されて見事期待に応えている。第2節のヴィッセル神戸戦ではDFながら早くもプロ初ゴールを挙げ、チームに今季初勝利をもたらした。
2年目の立田悠悟の台頭は、清水サポーターにとって石毛秀樹の復活とともにうれしいサプライズとなった。立田は開幕から5試合連続で先発メンバーに名を連ね、その活躍がまぐれでないことを証明し続けている。
地元静岡市清水区で生まれ育った立田は、中学時代からエスパルスのジュニアユースで育った生え抜きのセンターバックだ。現在は本職ではない右サイドバックでプレーしているが、189センチ・75キロと体格に恵まれ、足元の技術も確か。東京五輪世代ということもあって、地元ファンからの期待も大きい。
これまでエリートコースを歩んできたわけではなく、ジュニアユース時代はほぼ無名の存在だった。急激な身長の伸びに筋力が追いつかず、アジリティやバランス面で課題があったからだ。それでも、ユースに昇格してからは徐々に体力面が追いつき、高校2年時からコンスタントに公式戦に出場。初めて年代別の日本代表にも招集された。3年時にはキャプテンを務めてリーダーシップについても学んだ。
トップチーム昇格をつかみ取った当初はまだ線が細く、昨季の公式戦出場はルヴァンカップの3試合のみ。「もっと筋力をつけないといけないし、もっと走れるようにならないと使ってもらえないと思う」と本人も話していた。そして、日々のトレーニングで地道に体作りに励んだ結果、体重はプロ入りしてから7〜8キロは増えたという(公式プロフィールの75キロは加入時の体重)。
高さというストロングポイントを生かすためにヘディング強化にも取り組み、毎日のように阪倉裕二コーチ(当時)とマンツーマンで居残り練習を続けた。昨年秋の練習試合を見ていたユース時代の恩師・平岡宏章監督は、立田が相手のクロスをジャンプヘッドで力強く跳ね返す場面を見て、「あんなのはユースの頃には見たことない」と目を丸くしていた。その成果はサイドバックにも空中戦の強さが求められるヤン・ヨンソン監督の守備戦術で存分に生かされている。
神戸戦の初ゴールのシーンでは、190センチ級の選手とは思えない粘り腰も見せた。右サイドを抜け出した後で大きくバランスを崩したものの、何とか体勢を立て直してシュートまで持っていった。このプレーについて、立田自身は「以前だったらあそこでコケていた。これまでやってきた成果が表れたことが一番うれしいです」と振り返っている。
自分に足りないものを冷静に分析し、地道に努力を重ねられる。そうした謙虚さはエリートコースを歩んできたわけではない彼だからこそ、身につけることができたのかもしれない。「サイドバックは(守備の局面で)相手と一対一になることが多いですが、そこは自分の課題でもあったのですごく鍛えられていると思います。ボールを受ける回数もパスを出す回数も多いので、ビルドアップの面でもすごく練習になっている。今はやっていてすごく楽しいです」
左サイドの松原后のようにグイグイと駆け上がっていくタイプではないが、前方へのパスという点では非凡さを見せる。いわゆる「見えている」タイプで、良い位置にいる味方に正確にボールをつけるシーンが目立つ。
U-21代表の主軸を担う中山雄太(柏レイソル)のように効果的な縦パスを供給できることも、成長が楽しみな理由の一つだ。今は右サイドバックとして起用されているが、もちろん本人は将来的にはセンターバックで勝負したいと考えている。
「サイドバックでも試合に出続けていれば、経験や地力がつくと思うし、苦手な部分も克服できると思います。今は(相手から)結構狙われてますけど、自分としてはいろいろなことにチャレンジできるのでラッキーだと思っています」
かつて日本を代表するセンターバックとして一時代を築いた元日本代表の秋田豊氏も、鹿島アントラーズでの1年目に右サイドバックとして実戦経験を重ねたことが、センターバックとして成長する上で大きな糧になったと話す。同じことが立田にも言えそうだ。
立田は3月下旬に行われたU-21日本代表のパラグアイ遠征に参加し、ベネズエラ戦で3バックの一角として出場。しかし、本人は納得できる働きはできなかったと言う。「正直(自分のプレーは)良くなかったと思います。エスパルスでやっている時はすごく周りの人に助けてもらっていて、代表戦ではまだ自分一人では通用しないんだなということを改めて感じました」
それでも、苦い経験の中で次につながる収穫も持ち帰った。「食事が合わないし、飛行機も苦手なので、今までは海外遠征は嫌いでした。(海外でプレーすることへの)欲も全くなかったんです。でも今回南米の選手たちと戦って、個の強さや一瞬の速さというものをすごく感じたし、あれを基準にしたいなと思いました。自分の中で初めて海外への欲が出てきたのが一番の収穫だったかもしれない」
2年後の東京五輪に出場することは、立田にとっても大きな目標だ。まだまだ足りない面が多いことも彼自身が最も理解している。だからこそ常に足元を見つめ直す意識は失わない。「Jリーグで出続けることが一番成長につながるし、一番のアピールになると思います」
パラグアイから帰国した直後の横浜FM戦では、時差ボケの影響もあってミスが目立った。開始11分に決勝点につながる痛恨の判断ミスを犯し、チームは今季初黒星を喫した。
「守備の選手は4回うまくいっても、1回ミスをしたら終わってしまう。一つひとつの細かいところをもっともっと突き詰めないといけない。自分のミスで負けたということをしっかりと受け止めて次につなげたいですし、チャンスをもらえたらそこでまた勝負したい。落ち込んでいる余裕はありません」
国際基準の体格と技術、逆境にも折れない雑草魂とクレバーさ。センターバックの層が薄い日本代表の現状を考えると、立田悠悟が今後どこまで伸びていくのかは清水サポーターならずとも注目だろう。
文=前島芳雄