背番号9を背負う工藤壮人 [写真]=J.LEAGUE
初夏のようなまぶしい太陽が照りつけた8日午後の三協フロンティ柏スタジアム。この地でU-12時代から足掛け15年間過ごしたサンフレッチェ広島の背番号9・工藤壮人は、約2年半ぶりの古巣凱旋に複雑な感情を抱いたという。
「去年、向こう(ホーム・エディオンスタジアム広島)ではレイソルと戦ったけど、ここでやるのはまた違いますね。改めて不思議な感覚はありました」と本人もしみじみ言う。
レイソルサポーターが陣取る柏熱地帯の目の前で、工藤は広島の先制点をお膳立てしてみせる。前半17分だった。MF柴崎晃誠の右クロスをペナルティエリア内で背番号9が収め、再び右サイドに展開。そこに走り込んだMF和田拓也が中央に折り返したボールをパトリックが競り、こぼれ球が逆サイドにいたDF佐々木翔の前に転がった。佐々木は迷うことなく左足を一閃。豪快なゴールを相手にお見舞いしたのだ。
「サイドでボールを握る攻めは今、練習の中でも少しずつ取り組んでいる。その連動性がこの得点シーンでも見せられたんじゃないかと思います」と工藤は手ごたえを口にした。実際、彼とFWパトリックの2トップのポストプレーを起点にしながら広島がサイドアタックを仕掛けるシーンは、特に前半、数多く見受けられた。
ゴール前に位置する工藤にしてみれば、対峙する柏のDF中山雄太、中谷進之介という後輩センターバックの特徴は熟知している。「感覚的には雄太のところより、進之介のところで食いたいなっていうのはあった。雄太は1個外してきたりするうまさがあるんで」と本人も話すように、あえて中谷と駆け引きするように仕向けて、優位に立てるようにした。そういった冷静さと精神的余裕は、MLSのバンクーバー・ホワイトキャップス、広島という異なる環境を経験したからこそ、体得できたものなのだろう。
工藤の存在価値は攻撃面に限ったものではない。今季の広島はここまで6試合1失点という堅守を誇っているが、最前線に位置する彼はファーストDFとしてプレスのスイッチ役を担っているのだ。
それをやり切るには、献身的姿勢と凄まじい運動量が求められるが、この日も重要な仕事を確実に遂行していた。後半31分にベンチに退くまでの走行距離は9.3キロ。90分間に換算すれば11キロは超えていたことになる。
「今のサンフレッチェは走れない選手は試合に出られない。とにかくしっかりと走ることがベースになっていると思います」と工藤もランニングへの意識をより高めているという。
アグレッシブに走れるようになったのは、今季の広島チーム全体に言えること。32歳になったMF青山敏弘が13.13キロ、彼とボランチを組む稲垣祥が13.028キロというように、個人個人の走行距離は目に見えて上がっている。「選手のコンディションを上げるべく、多角的なアプローチをしている。トレーニングの強度も上げている」と城福浩監督の腹心である池田誠剛フィジカルコーチも話していたが、こういったアプローチが工藤にもプラス効果をもたらしているのは間違いない。彼自身の体も以前より絞れて、軽くなった印象が強かった。
加えて、城福監督の強調する「単に走行距離だけでなく、いつボールに行くのか、いつ戻るのか、いつサポートするのかといったタイミングをチームとして共有させている」という戦術面でのアプローチも功を奏している。こうした前向きな要素が重なって、広島はここまで6戦無敗。勝ち点16で目下、リーグ首位を独走している。この現状は、開幕ダッシュに失敗して森保一監督(現U-21日本代表)がシーズン途中に解任され、ヤン・ヨンソン監督(現清水エスパルス)体制の下、何とか15位につけて1部残留を果たした昨季とは実に対照的だ。
工藤自身も、広島移籍1年目だった昨季は背番号50をつけてエースFWとしての期待を背負ったが、18試合出場3ゴールという不振にあえいだ。柏時代はルーキーイヤーの2009年以外、2010年に10点、2011年に7点、2012年に13点、2013年に19点、2014年に7点、2015年に10点とコンスタントに数字を残していただけに、納得のいかないシーズンだったに違いない。
今季もここまで無得点と目に見える結果はまだ出ていないが、パフォーマンス自体は格段に上がっている。運動量が上がっているだけに、守備から攻撃という迫力もじわじわと増していくはずだ。
「今は守備のところに比重を置くことでチームがうまく回っている。守りのタスクをしっかりと遂行していかないといけないという気持ちはあります。自分としては、あとは点を取るところだけ。そこを改善していければいい。いつ負けて連敗し始めるか分からないという危機感はあるので、去年の悔しさや厳しさを忘れずにやっていくことが大事だと思ってます」
そう語気を強める工藤に課せられた今後の命題は、点取屋としてゴールを積み重ねることと、柏でJ1制覇を果たした2010年以来のタイトルをチームにもたらすこと。城福監督の下でもう一段階、大きく飛躍する彼の姿を楽しみに待ちたい。
文=元川悦子
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By 元川悦子