名古屋グランパスは公式戦9試合未勝利と苦戦が続いている [写真]=J.LEAGUE
開幕2連勝という幸先の良いスタートはどこへやら、名古屋が苦しんでいる。何せ公式戦9試合連続で勝利がなく、直近は7連敗中。リーグだけでも5連敗で順位も17位に転落し、勝点すら奪えない現実にもがく日々だ。「どう勝つか」を常に追い求めるチームは安易な窮余の策など選ばず“自分たちのサッカー”を貫く中に勝機を見出すが、J2では押し切ることもできた相手の対策は、カテゴリーが上がるとその破壊力も桁違いである。勝ち方にこだわってきたチームは今、まさに理想と現実の狭間に立たされている。
鹿島の狡猾かつタフな戦いの前に0-2の敗戦を喫し、リーグの連敗が「5」になった翌日、佐藤寿人に話を聞いた。3月から4月にかけて扁桃炎で欠場していたキャプテンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた後、「自分たちのやるべきことだけでなく、相手にやらせないことも考えないと」と劣勢の風景を振り返る。相手ではなく自分たち、が口癖の指揮官に率いられてきたチームは常日頃から主体的に試合を運んで勝つことばかりを考えてきたが、この苦境においては勝機の見出し方も変わってきたようだ。佐藤という勝負師はさらにもっと原初的な欲求をストレートに吐き出し、鹿島戦の厳しさをこう語った。
「とにかく、勝ちたいですよね。見栄えなんてどうでもいいので。僕らはショーをやっているわけではないですし、10本、20本とパスをつないで支配率を上げることが目的ではないです。もちろんボールを持っていれば相手にやられないのは事実としてありますけど、でも昨日のボール支配率とシュートの本数はまったく比例していない。支配率はウチが62%で相手が38%で、シュートはウチが4本で、鹿島が15本くらい。得点の匂いがしていたのは向こうであって、ということはボールを持たされていたにすぎないわけです。僕らはボール保持率を高める中でチャンスを作って、ゴールを一つでも多く奪っていく。そして相手がやりにくいなって思うことを自分たちもやっていかないと、やっぱり勝てないですよ」
見栄えなんてどうでもいい。この言葉が強烈なインパクトをもって響く。「どう勝つか」にこだわるイコール、「見栄えにこだわる」とほぼ同義だからだ。風間監督は「何もやっちゃいけないことはない」と言い、ピッチ内での選手たちの判断は最大限に尊重する指揮官だが、同時に自分たちのスタイルへのこだわりも強い。選手たちからしても、相手に封じられたからといって別の戦い方を選択するのは逃げのようにも感じられるのだろう。彼らは果敢にパスをつなぎ、相手陣のハーフコートに押し込んでいく戦いを挑み、時にそれが盲目的に“名古屋対策”の術中にはまってしまう。佐藤はそこに一石を投じるのだ。「プロとしてやるべきことは何なんだ?」と。
「プロの世界ですから、極端な話が勝ち負けです。勝つ術の一つとして自分たちがトライしていることがある。でもそれ以外にもいろんなサッカーの見方があって、時にはユニフォームを汚しながらでも、目の前の相手にいろいろなことを、見栄えが悪くても勝つためにやっていかないといけない。今の僕らは理想と現実の狭間にいると思いますが、このまま理想だけ追い求めていてもいけないですし、現実的なことだけで自分たちのやるべきことを放棄してしまうのも良くない。その両方のバランスが大事になってきます。でも、そうは言っても勝ち負けですよ。勝負の世界にいる自分たちからしてみれば。何が評価されるかって、勝った者が評価されるわけで、良いサッカーしているだけで評価をされるわけではないです。それはあくまで“良いサッカー”という評価に過ぎない」
自身も「おそらく2002年以来の16年ぶり」となる開幕戦での試合出場なしという逆境からスタートしたシーズンに、巻き返す思いは日に日に強くなってきている。現在、チームはリーグ8試合で挙げた8得点すべてをブラジル人選手(シャビエル4点、ジョー3点、ホーシャ1点)が挙げているという珍記録が継続中で、「いろんな部分で変えていかなきゃ」と“日本人今季1号”への意欲も垣間見せた。得点能力の高さ、嗅覚の鋭さに衰えはなく、風間監督も3トップで起用しつつも「ボックス内で勝負していい」と佐藤に指示を出しているという。点取り屋は「個人的にコンディションは良いので、チームの力になりたい」と意気込む。
勝てない、勝点すら取れないという状況では多少の無茶も必要になってくるだろう。しかしその判断には相応の覚悟が必要になってくる。「僕たちは勝負の世界にいる」ときっぱり言い放つ佐藤には、その覚悟が常にある。そういえば鹿島戦の前、風間監督は「リーダーとなる選手が出てきてほしいよね」と語っていた。待望論は既にある。そして佐藤はいつだって、期待に応えてきた男である。
文=今井雄一朗
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