混戦のJ2で首位に立つ松本山雅FC [写真]=J.LEAGUE
3月25日、維新みらいふスタジアム。開幕から5戦勝ちなしの松本山雅FCは、レノファ山口FCに2-0とリードして後半アディショナルタイムに突入していた。だがそこからパワープレーに屈してまさかのドロー決着となり、22チームのうち唯一未勝利で20位。J1昇格に向けて威勢良くシーズンインしたはずが、想定を大きく下回る鈍いスタートを余儀なくされた。
それから4カ月弱。気が付いたらいつの間にか、松本は順位表の一番上にいた。それ以前に首位に立ったのは、FW船山貴之(現ジェフユナイテッド千葉)がハットトリックを決めた2014年の開幕戦終了時点だけ。どうにも慣れないが、取材する立場としては喜ばしいことこの上ない。正直に告白すると、毎節が終わるごとに順位表をスクリーンショットして酒の肴にしている。
なぜ、ここまで鮮やかなV字回復を果たせたのか。主な要因は「堅守を取り戻したこと」に尽きる。勝ちなしだった第5節までは、スコアレスドローの開幕戦を除いて毎試合失点。中でも、サイズの不利を突かれて終盤のパワープレーであっさりゴールを割られるシーンが相次いでいた。
だが、第7節以降はそのパターンでの失点が激減。実際に前節の京都サンガF.C.戦も、190センチのレンゾ・ロペスと184センチ大野耀平をターゲットにした攻撃をしのぎ切り1-0で逃げ切った。「(試合の)締め方については、前半戦で高い授業料を払った。しっかり体を当ててフリーにさせないことが大前提」と3バック中央の橋内優也。自陣ゴール前はデリケートな対応が求められるが、及び腰にならずタイトに対応する意識が浸透してきた。
総失点数は最少のファジアーノ岡山に次ぐ22(24節終了時点)で、反町康治監督が目安とする1試合平均1を下回る0.92まで持ち込んだ。この数字の根拠となるもう一つの要素が、前線の守備だ。前田大然とセルジーニョの2シャドーは2度、3度と相手の最終ラインへチェイスをかけたかと思えば、自陣ペナルティーエリア内まで献身的にプレスバック。前田は「全員がそういうプレーを意識しているからこそこの順位にいる。誰が出てもそれはやらないといけない」と話す。
「正直あまり首位というのは意識していない。まだ最終戦とかじゃないし、プレッシャーも感じていない」。岩上祐三の言葉が象徴するように、どの選手に水を向けても慢心とは無縁。とはいえ、混戦の上位争いから抜け出すには改善すべき点が少なからずある。例えば守備に膨大なエネルギーを費やすことはすなわち、攻撃時の選択肢が狭まることとトレードオフ。実際、チーム随一の無尽蔵なスタミナを誇る前田でさえ「守備が一番になるので、攻撃に出るときにみんな疲れてチャンスが少なくなっている」と明かす。
そもそも大局的に振り返ると、2016年以降の松本は「スペースもボールも掌握する」スタイルへの進化を模索しながらJ1再昇格に挑んできた。実際にトレーニングでもビルドアップやパス&コントロールなどに注力はしているものの、ボール支配率はリーグで2番目に低い44.9%。1トップを務める高崎寛之は「自分たちのポゼッションのやり方が悪いのは感じている。縦パスを入れてほしいところで横を向いたり下げたりするクセがあるので、もっともっと呼び込まないといけない」と話す。
ここに、後半戦を占うカギの一つが隠されているように感じる。もちろんロシアW杯で世界中が何度も目撃したように、ボール支配率の高低と勝敗は必ずしも一致しない。指揮官が「うちは攻撃の優先順位を間違えないで攻めるチーム。パス数も多くはないが、要するにペナルティーエリア、あるいはその前まで運ぶパスをどうするかというところからスタートしている」と語る通り、ブロックの前で横パスを繰り返すようなこけおどしの支配率を求めてはいない。
とはいえ、もう少し数字を上げてもバチは当たらないのではないだろうか。美しく敗れるよりは泥くさく勝つのを是とする反町山雅に、「50%でお願いします」などという贅沢は口が裂けても言えない。個人的にも後者を好む。しかし、ただでさえ消耗が激しいスタイルで、なおかつ記録的な猛暑が続くこの夏。ときには緩急も駆使しながら賢く戦う引き出しを備えれば、頂点への視界はより明確になるだろう。松本はリーグで突出したスター集団でこそないが、それを実現できるクオリティーは備えているはずだ。
文=大枝令
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