ヴァンフォーレ甲府は8月4日のアビスパ福岡戦(1-2)を落として3連敗。ジュニオール・バホス、小塚和季といった攻撃の中心を負傷で欠き、苦しい試合が続いている。7月上旬にはリンスのFC東京移籍もあった。
そんなチームで気を吐き、結果を出しつつあるのが曽根田穣(そねだ・ゆたか)だ。「3-4-2-1」の左シャドーで起用されている。171センチ・69キロの23歳は7月4日のツエーゲン金沢戦で今季のリーグ戦初出場を果たすと、いきなりプロ初得点。そこから計5試合、267分の限られたプレータイムで3得点を挙げている。
ただ7月29日の松本山雅FC戦は先発しつつ、ハーフタイムで交代。不完全燃焼の45分だった。しかし彼はその反省を、続く福岡戦に結び付けた。
「山雅戦は自分の良さを出せず、ボールを受けたらシンプルに叩くプレーをしていた。今日は失ってもいいからドリブルで仕掛けたり、通らなくてもスルーパスを出したり、ゴールに直結するプレーをやろうと思ってピッチに入った」
今季3点目は前半6分、0-1とビハインドの状況から生まれた。
「堀くん(堀米勇輝)と園さん(金園英学)がいい具合にボールをつないで、タイミングを作ってくれた。抜け出すのが自分の仕事。イメージではキーパーの外を通すイメージだったけれど、上手く股を抜けた」
山梨中銀スタジアムのピッチに立てない時期は、「試合に出ていないときも、点を取るイメージは湧いていました。チャンスが回ってきたときは、いかに少ない時間でも結果を残せるかをずっと意識してやれた」と話す曾根田は、甲府における自らの役割についてこう説明する。
「堀くんも園さんもタメを作れる選手。自分はどちらかというとアクションを起こす、ランナーの役割だと思っている」
福岡戦のゴールもまさに彼のアクション、受ける動きから生まれた。曽根田はジュニオール・バホスや太田修介ほどスピードがあるわけではない。金園ほどの高さと強さもないし、堀米のような上手さもない。一方で“生かし生かされる”関係性を築きつつ、決定的な場面に絡めるアタッカーだ。また直線的な速さは無いが“動きの速さ”を持っている。動き出しがスムーズな、上下動の少ないショートダッシュは実戦で生きる強みだ。
いい意味での器用さもある。愛媛FCの育成組織に所属する頃から様々なポジションを渡り歩いてきた。自分が彼を初めて見たのは中2の冬で、右SBをやっていた。当時の愛媛FC U-15は近藤貫太(元愛媛FC)や久保飛翔(ファジアーノ岡山)を擁し、全国のベスト16入りも果たしたタレント軍団。そこに2年生が絡むのは実力の証明でもあるのだが、「アタッカー過剰」「DF不在」のチーム事情から、彼は久保とともに最終ラインへ移された。
曽根田はU-18、大学でも1年目からポジションを取り、サイドハーフとサイドバックを行き来していた。ただ「一目で分かる強みがない」「いつもいるけれど目立たない」タイプで、彼の甲府加入が決まったときは少し驚いた。
後で森淳スカウトに聞くと、関西学生リーグへ別のある右SBを見に行ったとき、その相手校でプレーしていたびわこスポーツ成蹊大の曽根田が目に入り、狙いを替えたという話だった。そこは“無名だけど使える選手”を何人も発掘してきたプロの目である。
サッカー界で後→前のコンバートはあまり多くない。曽根田も昨年は主にウイングバックでプレーしていて適性もあるはずだ。それでも「シャドーがやっぱり一番楽しいです。プロの世界で一番売りにしたいのは攻撃の部分だし、今のポジションが一番自分に合っていると思う」と、言い切る。
5試合3得点の結果にも満足した様子はない。3得点のうち2得点は負けゲームで記録したもので、結果につながっていないからだ。貪欲なプロ2年目は言う。
「1点ずつしかとっていないから、複数得点が欲しい。自分が2点、3点とチームにもたらせる選手にならないといけない」
甲府はブラジル人選手が相次いで加入しており、徐々に負傷者も復帰してくる。新顔の地位は決して安泰でない。しかし夏場に入って見せているプレーは嬉しい驚きだし、試合出場で経験値も上がっている。曽根田のブレイクは甲府が苦境で手に入れた数少ない収穫だ。
取材・文=大島和人
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