熊本の渋谷洋樹監督(左)と、栃木を率いる横山雄次監督(右) [写真]=Getty Images
■山形加入の内田は、ブレイクのきっかけになった愛媛と対戦
徳島にアウェイで1-5と大敗を喫し、11位に後退した山形が、前節もアウェイで甲府に競り勝ち、17位まで浮上してきた愛媛とホームのNDスタで対峙する第30節。近年は何かと因縁の多いこのカードからは、また1人山形へと加入した“木山愛媛”を知る男であり、破壊力抜群の左足を有するレフティをご紹介します。
7月31日に山形から発表された、内田健太が加入するというリリース。今季の名古屋ではリーグ戦も6試合の出場にとどまり、なかなか定位置を掴み切れないなかで、山形への期限付き移籍を決断した内田。既に加入後は2試合に出場し、前節はスタメンフル出場を果たしていますが、そんな彼がブレイクするきっかけになったのが、今節の対戦相手となる愛媛でした。
四日市出身の内田は、同期に横竹翔、篠原聖、兼田亜季重、中野裕太と後のJリーガーを5人も抱えていた広島ユースへ進み、横竹、篠原とともにトップチーム昇格を果たしたものの、実力者を揃えたメンバーの中で実戦経験を積み重ねられません。その状況下で、当時の広島は高萩洋次郎や森脇良太を筆頭に、若い選手を愛媛に期限付きで貸し出し、J2で揉まれることで逞しさを身に付けさせ、チームに戻す流れが存在しており、内田もプロ2年目の8月に愛媛へと期限付き移籍することになります。
加入早々に監督交替を経験するも、バルバリッチ新監督の信頼を勝ち獲り、移籍期間を延長して愛媛に残った翌2010年シーズンには、直接FKでJリーグ初ゴールも記録。在籍4シーズン目となった2012年にはようやく完全移籍を果たすこととなり、チームの貴重な左翼としてシーズンを通じた活躍を披露。そのパフォーマンスが認められ、2013年にはJ1の清水が送った完全移籍のオファーに応え、愛媛を離れることになりましたが、公式戦の出場試合数もゼロだった選手が、リーグ戦89試合・8得点という素晴らしい数字を残したことは、内田と愛媛の幸せな出会いを如実に語っていると言っていいでしょう。
ただ、清水では再びJ1の壁が立ちはだかり、ベンチに入ることもままならず、2014年は富山で1シーズンプレーするも、翌年に戻った清水でも出場時間は限られます。そのタイミングで、内田に期限付き移籍での獲得オファーを送ったのが、木山隆之監督率いる愛媛。ソリッドなグループを創り上げていた木山愛媛の貴重なピースとして、すぐさま左サイドのキーマンに名乗りを上げると、シーズン前には粉飾決算などの問題で、暗い話題ばかりだったチームは何とクラブ史上最高成績の5位でリーグ戦をフィニッシュ。J1昇格プレーオフこそC大阪に0-0で引き分け、レギュレーションで敗退を強いられましたが、そのプレーオフでもフル出場した内田は、翌シーズンもレギュラーとしてキャリアハイの試合出場を記録するなど、2度目の愛媛でさらなる飛躍を遂げたのです。
前述した通り、この夏のタイミングで木山監督が指揮を執る山形への期限付き移籍を選択した内田。30分間の途中出場となった京都戦、スタメンフル出場の徳島戦はいずれもアウェイゲームだったこともあり、もし今節で出場機会が訪れれば、それが山形の選手としてのホームデビュー戦ということになります。ともに昇格プレーオフを戦ったメンバーは愛媛に5人しか残っていないものの、彼らとの再会も含めて、このゲームは内田にとっても特別な一戦であることは間違いのない所。数々の因縁も含めて激戦必至の90分間は、それでも山形が意地の勝ち点3を奪い取ると予想。「1」にマークします。
■大宮で指導者キャリアをともにした指揮官が、熊本と栃木に分かれて相対する
前節の岐阜戦で連敗を『3』でストップさせ、14試合ぶりの白星を手に入れた20位の熊本と、現在3連勝中で後半戦はまだ負けなしと、リーグの台風の目になりつつある13位の栃木が、えがお健康スタジアムで激突する今節。このゲームは実に20年近く前から、同じチームで高校生やプロ選手と向き合ってきた2人の指導者が、両チームの指揮官として再会する一戦でもあります。
今季から熊本を率いる1966年生まれの渋谷洋樹監督と、就任3シーズン目を迎える1969年生まれの横山雄次監督は、それぞれ室蘭大谷高校と武南高校という名門校の出身。前者はそのまま古河電工サッカー部に、後者は中央大学を経て日立製作所サッカー部に入部。Jリーグ前夜という時代の中で、社業と両立する“社会人選手”として、プレーする道を選択します。
その後は柏や福岡でJリーガーとしてキャリアを歩んでいた横山が、大宮へと移籍してきたのはJ2初年度に当たる1999年。一方、既に2年前にNTT関東サッカー部で現役を引退していた渋谷は、そのままトップチームのコーチをしていましたが、1999年には佐久間悟・現甲府GMとともに大宮ユースを立ち上げ、初代のコーチに就任することになります。
当時のユースを「第1次のセレクションで30人合格にしたのに10人しか来てくれなくて(笑)、第2次は『合格したら必ず来て下さい』とお願いするような感じでした」と振り返る渋谷。最初は中学生にも負けてしまうような実力しかなく、文字通りゼロからのスタートを強いられたチームではあったものの、「育成の選手たちが将来的にレギュラーとして何人も出ているという夢」を抱いて、指導に当たっていたとのこと。2000年から2002年までは監督を務めることになりますが、現役を引退した横山が2001年にユースのコーチに就任したことで、2人の指導者キャリアは交差するのです。
渋谷と横山がユースをともに指導したのは2シーズン。まさに1期生に当たり、現在も大宮に在籍している金澤慎と木村聡という2人のトップ昇格者を輩出しつつ、チームとしても少しずつ力をつけていったそうで、最初はJユース杯で鹿島ユースに16-0で負けていたチームが、2年後には全国大会に出るまでに。「あの16-0が彼らにとって一番悔しい思い出だと思いますけど、その2年後の全国の懸かった大事な試合の前にその話をしました。『そういう想いがあってここまで来ているんだぞ』と。そうしたら全国に行ってくれて、1勝もしてくれて。だから歴史を創ってくれたのは彼らだと思います」と当時の選手たちへの感謝を口にする渋谷の言葉が、強く印象に残っています。
渋谷が今度はジュニアユースの立ち上げに関わり、一旦は離れたタッグが再び復活したのは2004年のトップチーム。三浦俊也監督の再就任に当たり、渋谷も横山も揃ってトップのコーチに就任。このシーズンがクラブ史に残るシーズンになったのは、J2参入6シーズン目にして初のJ1昇格を成し遂げたタイミングだったため。奥野誠一郎やトニーニョ、斉藤雅人など、懐かしい顔ぶれがメンバーリストに並ぶ2004年の悲願達成に、2人のコーチがもたらした影響も見逃す訳には行かないでしょう。
それから14年。甲府のコーチを経験し、大宮に戻ってトップの監督も務めた渋谷は今季から熊本の指揮官に。一方の横山は秋田の監督、湘南のヘッドコーチを歴任した後、2016年から栃木で指揮を執り、クラブを3シーズンぶりにJ2復帰へ導くなど、確実に監督としてのキャリアを積み重ねています。そんな2人の監督としての初対戦は、今季のJ2第6節。この時はホームの栃木が福岡翔太の決勝ゴールで1-0で勝利を収めており、渋谷としてもシーズンダブルを献上するのは避けたい所。両指揮官の好采配を期待したい一戦は、栃木の勢いが熊本をわずかに上回ると予想し、アウェイチームの勝利を意味する「2」で勝負します。
文=土屋雅史
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※本文中の「1」はホームチーム勝利、「0」は引き分け、「2」はアウェイチーム勝利。
■明治安田生命J2リーグ第30節
2018年8月25日(土)19時キックオフ
モンテディオ山形vs愛媛FC(NDソフトスタジアム山形)
■明治安田生命J2リーグ第30節
2018年8月26日(日)19時キックオフ
ロアッソ熊本vs栃木SC(えがお健康スタジアム)
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