[写真]=兼子愼一郎
日本サッカーがより発展を遂げていくためには何が必要か。Jリーグでプレーする外国籍選手にヒントを聞く企画“外国籍J戦士に聞く強化への道筋”の第4回は、大宮アルディージャのスウェーデン人FWロビン・シモヴィッチに登場してもらった。
母国スウェーデンは今夏のワールドカップでベスト8入り。人口約1000万人の国が結果を残せたのは、国が一貫して取り組む“ストロングポイント”があるからだという。「もしスウェーデンが2-0でベルギーに勝っている状況だったらどうしますか?」そんな質問も投げかけてみた。
インタビュー・文=三島大輔
写真=兼子愼一郎
■スウェーデンサッカーの特徴は“守備”
―日本人の感覚だと「スウェーデン=サッカー」というイメージがあまりないのですが、実際のところどうなのでしょうか?
シモヴィッチ スウェーデンにおける2大人気スポーツといえば、サッカーとアイスホッケーです。スウェーデンでスポーツをするのであれば、選択肢はその2つくらいなのかなと思います。
――ちなみに国技はテニスで、ラリー(自動車競技)やハンドボールといったスポーツも盛んなようですが。
シモヴィッチ そういったスポーツもありますが、真っ先に頭に浮かんだのはサッカーとアイスホッケーですね。
――人気スポーツの一つであるサッカーを始めたきっかけは何ですか?
シモヴィッチ 小さい頃から周りの人がよくサッカーをしていたので、その影響ですね。5歳くらいから始めました。
――スウェーデンは北欧の国ですが、冬でもサッカーができる環境なのでしょうか?
シモヴィッチ 私はスウェーデンでも比較的暖かい南部に住んでいたので、冬だからトレーニングができないということはありませんでした。もし雪が降ったとしても屋根付きの人工芝のピッチがあるので大丈夫なんです。
――スウェーデンではインドアのピッチが普及しているのですか?
シモヴィッチ 練習できるところはたくさんありますね。学生時代、よく放課後にみんなでボールを蹴っていました。
――プロサッカー選手を目指そうと思い始めたはいつ頃ですか?
シモヴィッチ サッカーを始めた時からプロになりたいと思っていました。「サッカー選手になる以外、道はない!」という気持ちで常に練習していましたね。
――プランBがないということは、ご両親からの期待もあったのですか?
シモヴィッチ 特にそういったことはありません。両親は「常に幸せでいてくれれば」とだけは願っていたようです。ただ、自分の中では「プロサッカー選手になる」という目標が常にありました。
――スウェーデンでプロサッカー選手を目指す場合、どのようなルートをたどるのでしょうか?
シモヴィッチ 日本と同じです。学校からプロになる人もいますし、クラブの育成組織に入ってプロになる人もいます。クラブでは早い人だと16歳、17歳でプロ契約を結ぶ人もいます。
――学校からプロという道があるのは意外ですね。日本でいうところの部活のようなものですか?
シモヴィッチ 部活という感じではなく、サッカーに特化したコースがあります。ただ、日本のように他の学校と対戦するといったようなことはありません。ちなみに学校でサッカーをしながら、クラブに所属している人もいました。
――シモヴィッチ選手はスウェーデンの強豪マルメの出身ですが、狭き門をくぐり抜けて入団したのでしょうか?
シモヴィッチ いえ、入団テストなどはありません。というのも、マルメは地域の小さいクラブからいい選手をピックアップしていくシステムなんです。私はもともと『IFKリムハムン・ブンケフロ』という地元クラブでプレーしていたのですが、一度トレーニングマッチでマルメと対戦し、その時に声がかかりました。9歳から19歳まで在籍しましたが、12歳からは「常に勝つ」ということを頭に叩き込まれました。
――世界各国にいろいろな育成方法がありますが、スウェーデンの育成年代で強調して教えられたことはありますか?
シモヴィッチ 守備ですね。スウェーデンではクラブに入った時から守備は相当教え込まれます。スウェーデンサッカーにおける一番の特徴でもありますからね。
■人口が少ない国でも結果を残すことはできる
――今年6月から7月にかけてロシアでワールドカップが開催されました。シモヴィッチ選手の母国スウェーデンはベスト8でしたが、この結果をどう捉えていますか?
シモヴィッチ トレーニングの時間の関係で見ていない試合もありますが、大半は見ました。ベスト8入りを果たせたことは、スウェーデンサッカー界にとって大きな成果だと思います。なぜなら、スウェーデンは人口約1000万人ほどの小さな国ですからね。ベスト8という結果は素晴らしいと思います。
――ちなみにスウェーデンは過去12大会に出場し、1950年のブラジル大会と1994年のアメリカ大会で3位という好成績を残しています。FIFAランキングも現在13位と上位につけていますが、人口約1000万人の国が結果を残せている理由は何だと思いますか?
シモヴィッチ 一番の理由は若年層からの一貫した教育だと思います。もちろん、現在のチームに優れた選手たちがそろっていることも理由の一つです。人口の少ない国でも結果を残すことはできる。クラブレベルでも私が在籍していたマルメはチャンピオンズリーグに出場していますし、今後もスウェーデンサッカー界には輝かしい未来が訪れるはずです。
――スウェーデンはドイツとの第2戦はカウンター重視、メキシコとの第3戦はサイドアタックというように、相手に応じて効果的な戦いができていたように感じました。
シモヴィッチ 通算6得点とゴールは少なかったですが、今大会は全員が連動してプレーできていましたし、特にセットプレーからはいい攻撃ができていましたね。スウェーデンが重視する守備、そこからのカウンターは間違いなくストロングポイントになっていたと思います。
――シモヴィッチ選手にとってのもう一つの祖国、クロアチアの戦いぶりはいかがでしたか?
シモヴィッチ クロアチアは人口約500万人程度とスウェーデンよりも小さな国です。準優勝という素晴らしい結果を誇りに思います。今のクロアチアには多くのトッププレイヤーがいますし、スウェーデンとはまた違ったサッカーが体現できていたように感じました。
――日本は2大会ぶり3度目の決勝トーナメント進出を果たしました。日本の戦いぶりはご覧になりましたか?
シモヴィッチ 日本の試合も見ましたよ。すごくいいパフォーマンスでした。ベルギー戦は不運にも2-3で逆転負けしてしまいましたが、あの試合に勝っていたら本当に面白い展開になったのになと思います。
――日本は2-0とリードした状況で69分から3失点を喫しました。もしスウェーデンが2-0でリードしたら、どんな戦い方をしていたと思いますか?
シモヴィッチ スウェーデンサッカーの考え方だと守るが一般的です。ベルギーには世界トップクラスの選手たちがいるので、前には行かずもっと守備を意識したプレーに徹するのではないでしょうか。
■日本サッカーは今後も発展していく
――日本でプレーし始めてから約2年半が経ちました。Jリーグにはどのような印象をお持ちですか?
シモヴィッチ スピーディーなサッカーは非常に面白いですね。日本サッカーは今後も発展していくと思っています。
――スウェーデン時代と比べて、一番ギャップを感じるのはどの部分ですか?
シモヴィッチ 根本的にスタイルが違うので、一概に比較するのは難しいですが……。スウェーデンは連動した守備、日本はスピーディーなサッカーと個人技が特徴だと感じています。日本人選手は一人ひとりの技術が高いですね。
――ちなみにJ1とJ2、両方のカテゴリーでプレーされていますが差は感じますか?
シモヴィッチ J1は全体的にミスが少なく、J2は単純なミスが増える印象はあります。
――Jリーグは今年で25周年を迎えました。Jリーグが今後さらに良くなるためには、どんなことが必要だと考えますか?
シモヴィッチ 今、Jリーグにはポドルスキ選手、イニエスタ選手(ともに神戸)、トーレス選手(鳥栖)がいます。海外からスター選手が来ることでリーグは発展すると思いますし、国外のやり方に影響される部分もあるはずです。また違ったスタイルのサッカーを見て、影響を受けることでJリーグはもっと向上していくと思います。
――日本にサッカー文化が根付いたとはまだ言い切れません。日本全体で見るといかがでしょうか?
シモヴィッチ 日本には野球というライバルスポーツもありますからね。サッカー大国になるために必要なのは、次のワールドカップでベスト8、ベスト4といった好結果を残すこと。そうなれば自然とサッカーに関心を持つ人が増えますし、日本サッカーの成長にもつながると思います。
――では、最後に。シモヴィッチ選手は今後、日本でのプレー経験をどのように生かしていきたいですか?
シモヴィッチ 現役を引退してからどうするかはまだ決めていませんし、この先何が起こるかは自分にも分かりません。ただ、日本でのプレー経験を生かして、将来は日本でビジネスでも展開できたらいいですね。
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By 三島大輔
サッカーキング編集部