後半アディショナルタイムのPKをストップした櫛引 [写真]=J.LEAGUE
試合後半が始まると間もなく、記者席には両チーム監督のハーフタイムコメントが配られる。ハーフタイムの監督の言葉から広報担当が要点を抜き出して短くまとめたもので、両指揮官が前半45分をどう見ていたかを推し量る材料になる。当然、ゲームの核心に関わるような内容が書かれていることはまずない。しかし、ハーフタイムのロッカールームの空気が伝わってくる、そんなコメントが時々ある。この試合がそうだった。
第35節松本山雅戦。ホームのモンテディオ山形は、前半のうちに2失点。攻撃ではシュート2本と、「まだJ1昇格を諦めていない」と言うのもおこがましい内容で折り返した。木山隆之監督のハーフタイムコメントはこうだ。
・プレスがかかっていない。守備はもっと強くプレーしていこう。
・攻撃は拾って、サポートを。もっとゲームに関わっていくこと。
・ホームを戦う雰囲気にしているか?プライドを持って戦うこと。覇気を出し、もっと行って、もっと競ろう。
選手たちへの物足りなさを吐き出すように、「もっと」が4回。おそらく実際はこの何倍も「もっと」を繰り返したはずだ。「プライドを持って戦うこと」は、きっと広報担当によって何倍も希釈された表現で、木山監督なら「お前ら、プライドはねえのか!」くらいの口調で怒鳴ったのではないか。
そんな風に深読みしたのには理由がある。この試合に向かう週、練習後の囲み取材では「残り8試合でプレーオフ圏内と勝点8差」という状況について、監督は熱のこもった調子で話していた。
「自分たちが崩れないで勝点を取っておけば、うちよりも勝点を取らないチームは絶対に出て来る。頑張って頑張ってやり続けていればワンチャンスあるから、諦めないでやることが大事。だから今はこの1週間に集中して、松本に勝つことだけを考えてやる」
それなのに、このザマか。可能性を信じているのは俺だけか。そんなもどかしさと苛立ちが、行間から立ち上ってくるようだった。
果たして、後半の山形は息を吹き返した。早い時間に栗山直樹、小林成豪が続けてゴールを奪い2−2の同点。だが首位松本も意地を見せ、直後に2−3と再びリードを奪われる。それでもなお山形はファイティングポーズを崩さず、93分に中山仁斗が決めて再び同点。中山は一瞬のガッツポーズのあと、すぐにセンターサークルへと走った。スタンドの歓声は山形のゴールの度に厚みを増し、ホームスタジアムは戦う空気に包まれていった。
ところが、勝点1を確保したかと思ったのも束の間、直後にペナルティエリア内でジネイを倒してPK。天国から地獄に叩き落とされたような気分の山形サポーターを救ったのが、この日7試合ぶりに起用されたGK櫛引政敏だった。低い弾道のジネイのキックを櫛引が左手一本で弾き出す。直後に吹かれた試合終了の笛は、渦巻くような歓声にかき消された。
試合後、監督や選手からハーフタイムの様子を聞き出そうとしたが、「一喝はしました」(木山監督)、「簡単に言うと、尻を叩かれた」(中村俊)などと言うだけで、誰も具体的なことを教えてくれない。そのことが逆に、想像をかき立てる。

山形は残り7試合でPO圏内の6位までの勝ち点差は9と負けられない戦いが続く [写真]=J.LEAGUE
首位を相手に3−3。展開を思えば安堵や充実感があってもよさそうなものだが、首の皮一枚で昇格レースに食らいついている身では喜んでもいられない。選手たちは一様に、後半の奮闘よりも前半の不甲斐ない戦いを悔いながらミックスゾーンを後にした。
PO圏内の6位横浜FCとの勝点差は9ポイントである。残されたチャレンジの場は7試合。間違いなく厳しい。それでもまだ、可能性を次につなげていける所にいる。諦めてしまえば楽になるだろう。諦めないということは、苦難の戦いに身を投じることである。
「そんな中でやってこそ強くなる。それを勝ち抜いた人だけが強くなるんだと思う。修羅場を何度もくぐってブレイクスルーしていかないと、強くなれない」
「弱いままでいいのか」と監督が投げかけた問いに、ともあれ選手たちは「NO」の答えを示した。このハーフタイムの覚醒を次節・町田戦へ。粘り倒すのは山形の身上だ。
文=頼野亜唯子
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