東日本大震災を体験したベガルタ仙台は、復興の希望の光となった [写真]=J.LEAGUE
編集部が独断で推薦!「秋に観たいサッカー映画」
ありふれた日常が、何の前触れもなく消えていく――。東北地方を中心に未曾有の被害を出した東日本大震災は、まさにそんな出来事だった。「当たり前の毎日」が、いかに奇跡的なバランスの下で成り立っていたのか。人々は否応なく、その事実と向き合うことになった。
J1開幕を翌日に控えていたベガルタ仙台の選手やスタッフも、2011年3月11日は経験したことのない混乱の中にいた。6週間の中断期間を経てリーグ戦が再開することが決まっても、選手たちには迷いの気持ちがあった。「壮絶な毎日を過ごしている被災者が大勢いるのに、自分たちはサッカーをしていていいのだろうか」と。
だが、正解のない問いは、やがて一つの確信にたどり着く。「つらい気持ちを抱える人たちを照らす希望の光に、自分たちがなろう」。物資や義援金とはまた違う形の「支援」があるはずだ。
再開したリーグ戦で、ベガルタは予想だにしない快進撃を見せる。決して“強豪”とは言えない地方都市のクラブ。優勝とは縁がないようにすら感じる彼らの大躍進は、たしかに、そして力強く、傷付いた人たちの心に火を灯していった。
ドキュメンタリー映画『勇者たちの戦い(Vegalta: Soccer, Tsunami and the hope of a Nation)』では、東日本大震災で決して癒えない傷を負った人々が、スポーツをとおして再生への一歩を踏み出していく様子が克明に記録されている。少しずつだとしても、確実な前進を続ける決意をした人々と、彼らを照らす灯火となろうとした男たちを描いた作品を、秋の夜長にご覧になってはいかがだろうか。
文=松本武水