松本の下川陽太は、昨季特別指定選手としてJリーグデビューを果たした [写真]=J.LEAGUE
■高校、大学、プロで同じ環境をともにした2人が、敵味方に分かれて相まみえる
現在ホームでは連勝中。少しずつ降格圏から離れつつある19位の京都と、5連勝を含む7戦無敗と明らかに上り調子の16位新潟が、西京極を舞台に激突する第38節。この一戦で注目したいのは、この最終盤に来てポジションを奪い取りつつある、高校と大学の先輩後輩対決です。
京都の牟田雄祐と新潟の大武峻は、ともに福岡の筑陽学園高校と福岡大学の出身。牟田は高校3年時に選手権で全国の舞台を経験し、ディフェンダーとして3試合連続完封を果たしたものの、3回戦では惜しくもPK戦で敗れ、無失点のままで大会を去ることに。また、2つ下の学年だった大武は、選手権こそ縁がなかった中で、3年時のインターハイには県王者として全国へ出場し、牟田同様に3試合連続完封に貢献。最後は福森晃斗を擁した桐光学園高校にPK戦で屈し、全国8強で進撃はストップしましたが、揃って高校時代も一定の結果を手に入れながら、2年違いで福岡大学へと進学します。
彼らが大きく躍動したのは牟田がキャプテンで4年、大武が2年だった2012年のインカレ。牟田の同級生に双子の岸田翔平と和人、清武功暉、田中智大、3年生に藤嶋栄介、大武の同級生に田村友、弓崎恭平、山﨑凌吾と、スタメンのほとんどが後のJリーガーというタレント集団の中、牟田と大武がディフェンスラインの中央で組んだ福岡大学は怒涛の快進撃を披露。準々決勝では三田啓貴や和泉竜司、阪野豊史らを擁する明治大学に、大武もゴールを奪って4-2で競り勝つと、準決勝でも本多勇喜や飯尾竜太朗、泉澤仁、窪田良など多彩なメンバーを揃えた阪南大学を退け、初優勝に王手を懸けます。
決勝の相手は早稲田大学。キャプテンの畑尾大翔を病気で欠き、島田譲や富山貴光といった4年生を中心に、より一体感が増したチームを相手に1-3で惜敗し、悲願達成とはならなかったものの、牟田は大学ナンバーワンのセンターバックという肩書を引っ提げて名古屋へ入団。さらに大武も4年時には、特別指定選手ながら名古屋で開幕スタメンを飾り、そのまま牟田の後を追うように加入。2人は再び同じユニフォームに袖を通すこととなりました。
2年早くプロになっていた牟田の2014年は、大学生だった大武にポジションを奪われる格好になった序盤戦から一転、終盤はレギュラーを奪い返した経緯もあり、2015年は2人のポジション争いにも注目が集まりましたが、開幕から田中マルクス闘莉王の横には牟田の姿が。その闘莉王が負傷欠場していたファーストステージ第17節で、“先輩後輩”はプロの世界で初めて同時出場を果たしますが、以降は一度も併用されることなくシーズンが終了。そのオフには牟田が京都への完全移籍を決断したため、リーグ戦での“再結成”はわずか1試合だけで、“再解散”になったのです。
大武はその後も名古屋での出場機会は伸びず、2017年6月に新潟へ完全移籍。牟田も同じ2017年の8月からは、JFLを戦うFC今治へ期限付き移籍を果たすなど、お互いにカテゴリー的にもすれ違いが続きましたが、今季はともにJ2が主戦場に。シーズン前半は2人ともほとんどゲームに絡めなかったものの、9月に入って同じような時期から定位置を確保。今節では高校以降で考えると、初めて敵味方に分かれたシチュエーションでピッチ上の再会が実現するかもしれません。
もちろん先輩の牟田にとっては意地の見せ所と言えそうですが、現状のチームパフォーマンスは新潟が突出しており、その勢いはなかなか止まらなそうな雰囲気も。ここは後輩の大武が“恩返し”的に勝ち点3をもぎ取ると予想。「2」にマークしたいと思います。
■勢いで突っ走った昨季…松本の下川は進化の時を迎える
リーグ前節は金沢相手に2-0と勝利を収め、再び首位に返り咲いた松本が、こちらも前節で岡山を2-1で退け、実に14試合ぶりの白星を挙げた20位の岐阜を、サンアルで迎え撃つ一戦。ここでご紹介したいのは、シーズンも佳境に差し掛かってきたこの最終盤で、再びピッチに立つ機会の増えている緑の勇者のルーキーです。
2017年8月。大阪商業大学在学中ながら、既に翌年からの松本加入が決まっていた下川陽太は、特別指定選手としてベンチに入ったJ2第26節のアウェイ湘南戦でJリーグデビューを果たすと、その次のアウェイ名古屋戦ではスタメンに抜擢されます。「初めてスタメンで出た試合が名古屋戦で、お客さんも3万人ぐらい入って、僕もどうしたらいいか分からなくて。でも、『まあいいか。やってみよう』という気持ちでやってみたら凄く良かったんです」と当時を振り返る下川。ゲームは2-5で敗れたものの、アルウィンデビューとなった第28節の山形戦でもキックオフからピッチへ送り出され、結果的に大学へと戻るまで7試合連続でスタメンに名を連ね、サポーターも認める存在へ進化していきます。
そして迎えた今季でしたが、開幕スタメンを勝ち獲りながら、徐々に出場機会は減少し、夏前にはベンチ入りもままならない時期が。実質のルーキーイヤーに「去年は勢いでやっていて、ほぼ何も考えていなかったので(笑)、今年になってメンタルのセルフコントロールも含めて、難しいなと。体のキレも去年とちょっと違って、今年は重く感じたので、そういう所も自分の中にはありました」という下川。「『前の自分ってどうだったのかな』とかいろいろ考えたりしました」と苦悩の時期を明かします。
ただ、「ボールを持ってから考えるんじゃなくて、持つ前に例えばヒロさん(高崎寛之)やイシくん(石原崇兆)の動きを見ないと、全部が全部遅くなっちゃうので、そういう所や、裏のボールの対応とか、その時の体の向きだったり、守備の課題も言われました」というスタッフからのアドバイスを聞き入れ、少しずつプレーの改善点に向き合いつつ、自らの強みだった仕掛ける姿勢や献身性を意識し始めたことで、確実に変化の兆しが。負傷者が続いた状況も手伝って、第34節のホーム熊本戦で久々にスタメン復帰し、勝利の一翼を担ってみせると、前々節の愛媛戦まで左ウイングバックで先発出場。前田大然が復帰した前節はベンチで90分を過ごしたものの、確実に戦力として計算されていることに疑いの余地はないでしょう。
去年と今年の違いを尋ねられ、「もう全然違います。比べ物にならないです」と即答した後、「やっぱり去年は大学生だったので、ちょっとミスしても何も言われないような環境でしたけど、今はそのミスを洗いざらい出さないといけないですし、誰がミスしたというのをハッキリさせて、次に改善しないといけないという明確なモノがあるので、1つ1つのプレーの責任度合いが違うんじゃないかなと思います」と続けた下川。苦しんだ時間を糧に、着々とプロ選手としての自覚が芽生えてきているようです。
危機感とは常に隣合わせ。「こういうチャンスを与えられたからには、結果を出さないと生き残っていけないですし、これでチームが負けてしまったら、僕自身もう今季は試合に出れないと思っているので、そこはチームとしても個人としても結果を求めていますね」と言い切った下川のアグレッシブなプレーが、昇格に向けてのラストスパートが求められる松本へ、大きな活力をもたらす気がしてなりません。
首位を奪還したとはいえ、3位の町田が2試合未消化という状況もあり、松本もホームでの取りこぼしは絶対に避けたい所。ここは下川の躍動にも期待しながら、今の両チームの勢いを考えると松本優位は揺るがず。ホーム勝利の「1」にマークします!
文=土屋雅史
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※本文中の「1」はホームチーム勝利、「0」は引き分け、「2」はアウェイチーム勝利。
■明治安田生命J2リーグ第38節
2018年10月20日(土)15時キックオフ
京都サンガF.C.vsアルビレックス新潟(京都市西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場)
■明治安田生命J2リーグ第38節
2018年10月21日(日)14時キックオフ
松本山雅FCvsFC岐阜(サンプロ アルウィン)
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