故郷のクラブである讃岐を長きにわたって率いた北野誠監督 [写真]=J.LEAGUE
■9シーズン率いた讃岐を去ることが決まった指揮官に注目
アウェイで挑んだ松本とのビッグマッチに競り負け、勝ち点を伸ばせなかった5位の東京Vと、栃木に敗れたことで再び最下位に転落した讃岐の第41節。このカードでは、9シーズンに渡って故郷のクラブを率いた北野誠監督をフィーチャーしたいと思います。
香川は高松市出身ながら、越境で当時の高校サッカー界で絶対的な強豪だった帝京高校に入学した北野少年が、頭角を現したのは2年時。その頃では比較的珍しい4-4-2システムの2トップを任され、選手権予選で4試合連続ゴールを挙げて東京制覇に貢献すると、本大会でも豊富な運動量を生かして大活躍。全国連覇を経験します。
高校卒業後は日立製作所サッカー部で7年間プレーし、現役引退のクラブとなった京都パープルサンガで指導者の道を歩み出した北野監督。ジュニアユースやユースの指導を任され、現在も讃岐でプレーしている永田亮太や角田誠、児玉剛、中村太亮らは当時の教え子。2004年まで京都に在籍し、翌シーズンからヘッドコーチとして招かれたJFL所属時のロッソ熊本でJリーグ昇格に携わり、2009年に1シーズンだけ監督として指揮を執った後、辿り着いたのがまだ四国リーグを戦っていた讃岐でした。
発足5年目の2010年。二度の地域決勝敗退を知るチームに、北野監督が掲げた合言葉は「目的は勝つこと」。大一番での弱さが目立った集団へ、勝利へのこだわりを徹底させ、練習用ウエアの統一、ホームゲームのバス移動の義務化など、細かい部分にも目を向けて団結力向上を重視すると、四国リーグ優勝、西日本社会人大会優勝、全国社会人サッカー選手権優勝と、確かな成果を携えて地域決勝へ向かいます。
1次ラウンドを首位で通過し、決勝ラウンドも長野をPK戦で、Y.S.C.Cを逆転で振り切り、最終戦の三洋電機洲本戦も1-0で競り勝って、讃岐は優勝という形で悲願のJFL昇格を手繰り寄せました。印象的だったのは試合後のインタビュー。報道陣に囲まれた北野監督が何度も「勝たないと意味がないんで」と口にしていた姿は、今でもその言葉の説得力と市原臨海競技場という少しノスタルジックなロケーションとともに、強く記憶に残っています。
JFLでも11位、4位と着実に順位を上げ、2013年には2位に入ってJ2・J3入れ替え戦へ。鳥取との決戦はホームの第1戦をドローで切り抜けると、アウェイの第2戦は高橋泰のゴールを守り切り、1-0で勝利を収めます。就任から4年、まさに“昇格請負人”とも言うべき手腕を発揮した北野監督の元、四国リーグを戦っていたチームは、とうとうJリーグの舞台へと乗り込むまでに成長したのです。
J2の監督会見は決して多くの記者が来る訳ではありません。場合によっては一桁なんてこともザラなのですが、逆にその分じっくりお話を聞くチャンスでもある訳です。北野監督は質問に対してご自身の言葉で、結構ぶっちゃけつつも真摯に話してくださる印象が強く、いつも会見が楽しみな監督の1人でした。先日、ひぐらしひなつさんの著書『監督たちの異常な愛情』を読んだ旨をご本人にお伝えすると、「ウチ、ヒドイでしょ。なあ」と横にいたクラブスタッフに水を向け、笑わせてくれる一幕も。何とも言えない不思議な魅力を有する方だったので、退任のリリースを残念に思った方は讃岐に関わっている方々以外にも、かなりいたのではないかと思っています。
21位になれば、J3の結果次第で残留の可能性も出てくるだけに、残り2試合は讃岐にとって“超”が付くほど重要なゲームであり、北野監督の9年間に報いるためにも奮起しなくてはいけないゲームでもあります。まだわずかに自動昇格の可能性を残す東京Vですが、ここは讃岐がアウェイで意地の勝ち点1を奪取すると予想。「0」で勝負します!
■苦境を救ってくれた恩師の背番号とともに…福岡のセンターバックはJ1を目指す
町田との上位対決に敗れ、6試合ぶりの黒星を喫した6位の福岡と、アウェイ新潟の地で11試合ぶりの勝利を手にし、21位へ順位を上げた熊本の一戦。このゲームからは、特別な一戦に挑む福岡のセンターバックに目を向けてみたいと思います。
篠原弘次郎、27歳。もともとはC大阪の下部組織で育ち、1つ上には山口蛍と丸橋祐介、同級生には扇原貴弘、永井龍、小谷祐喜など、錚々たるメンバーの中でも、布啓一郎監督が率いたU-17日本代表に扇原や茨田陽生、原口元気らとともに名を連ねるなど、将来を期待されていたセンターバックは、高校3年時に東福岡高校への転入を決断。憧れの高校選手権出場も果たすと、当時はJ2昇格2年目だった岡山でプロサッカー選手の道に足を踏み入れます。
ただ、最初の2シーズンは中国社会人リーグに籍を置くネクストが主戦場に。以降もけがが重なったこともあって、トップチームでの出場機会はなかなか得られないまま、プロ5年目にあたる2014年には熊本へと期限付きで移籍することになりました。開幕スタメンを勝ち獲り、以降もしばらくはレギュラーとして試合に出ていたものの、少しずつベンチスタートの回数も増え、試合に絡めなくなっていきますが、ある日の紅白戦で自身のこだわりのあるセンターバックではなくサイドバックで起用された時、「自分のプレーを出していけないもどかしさと悔しさとが本当に入り混じって」篠原の必死に保っていたメンタルの糸がプツッと切れてしまいます。
それを察したのが、現在も熊本でコーチを務めている北嶋秀朗。タイミングを見計らい、篠原に声を掛けてランニングへ誘います。そこで北嶋は自身の体験を交えつつ、現状を受け入れていない甘さを指摘。「あの時にキタジさんが厳しい言葉やどうしていくべきかということを、本当に親身になって僕に伝えてくれたので、あれは忘れられないですね」と振り返る篠原は、「情けない想いでガチ泣きした」その出来事をキッカケに自分を見つめ直し、再びレギュラーへと返り咲くことに。熊本に在籍したのは結果的に1シーズンだけでしたが、「どんな状況になっても自分の目標を見失っちゃいけないと思いますし、『日頃の振る舞いが本当に大事だな』と感じたので、本当に自分を変えてくれた人」との出会いは、その後の篠原にとってかけがえのないものになりました。
福岡へと完全移籍を果たした今季も、開幕から数試合はベンチ外でしたが、第5節からは出場停止を除くほとんどの試合でスタメンに指名され、最後尾からチームを牽引する篠原。まだ立ったことのないJ1のピッチを目指し、奮闘を続ける彼の背中には岡山時代を含めれば4シーズン目となる“39”の番号が。その“39”は恩師とも言うべき北嶋が、現役最後のクラブとなった熊本で背負っていた特別な番号であり、篠原にとっても譲れないこだわりとなっているのです。
昇格プレーオフ進出に向けて、もう勝ち点を落とせない福岡に対し、21位以下は確定しているものの、他力で降格を免れる可能性のある今の順位はキープしておきたい熊本。置かれた状況は違えども、お互いに絶対負けたくない“バトル・オブ・九州”は、それでも福岡のJ1復帰への意地がわずかに上回ると予想。ホーム勝利の「1」にマークします。
文=土屋雅史
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※本文中の「1」はホームチーム勝利、「0」は引き分け、「2」はアウェイチーム勝利。
■明治安田生命J2リーグ第41節
2018年11月11日(日)13時キックオフ
東京ヴェルディvsカマタマーレ讃岐(味の素スタジアム)
■明治安田生命J2リーグ第41節
2018年11月11日(日)13時5分キックオフ
アビスパ福岡vsロアッソ熊本(レベルファイブスタジアム)
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