いつでも笑顔があふれるウタカ [写真]=須田康暉
日本サッカーがさらに向上・発展し、世界で戦い、世界で活躍していくためには何が必要か。
Jリーグでプレーする様々な外国籍選手たちに話を聞き、そのヒントを探る連載企画【外国籍J戦士に聞く強化への道筋】。新シーズンになり、連載再開ということで、第5回はヴァンフォーレ甲府のFWピーター・ウタカに話を聞いた。
エジプト、クロアチア、ベルギー、デンマーク、中国と数多くの国でプレーし、日本にやってきたのは2015年。そこからJリーグのクラブも渡り歩き、現在は5チーム目となる甲府に在籍している。ピッチ上では厳しく、模範となる選手であり、ピッチを出ると笑顔を絶やさないウタカに、自身のキャリアや日本での生活、日本サッカーついて語ってもらった。
インタビュー=小松春生
写真=須田康暉、Getty Images
■子どもの頃は周囲を笑わせようとしていたし、スマートだったね(笑)
―――サッカーを始めたきっかけから教えてください。
ウタカ 自然と、です。ナイジェリアにはサッカー選手になる夢を持つ子どもたちがたくさんいます。裸足でストリートサッカーをしたりして、夢を見る。一番人気のスポーツいうこともあって、みんながサッカー選手になりたいと思っています。
―――お兄さんの影響はありましたか?(兄・ジョンはレンヌやポーツマスなどでプレー)
ウタカ はい。兄は2人いて、彼らの影響を受けたし、私もサッカーを愛していたから、兄と挑戦し、改善していくという意識を持ってやっていました。
―――ご両親の後押しはありましたか?
ウタカ ノー、ノー(笑)。最初はサポートしてくれませんでした。ストリートでサッカーをしていたから、服が汚れたりして、洗濯をしないといけなくなった母から怒られたり。だから、帰る前に汚れたり破れたりした場所を何とかしようとしていました(笑)。後々、サポートしてくれるようになりましたよ。
―――ウタカ少年はどんな子どもでしたか?
ウタカ みんなを笑わせようとしていたし、とてもスマートでしたよ(笑)。周りがいい雰囲気になるように考えていて。あとはサッカーが大好きだったので、いつも楽しんで、いい関係を作ろうとしていました。先生から両親には、「すごくいい子で、話を聞いて、賢い。けど、いつもサッカーをやりたいと思っている」と報告されていましたね(笑)。
―――その中で、なぜプロを目指そうと?
ウタカ それも兄の影響です。エジプトで結果を出していた兄から、「俺よりもうまくやれる。点を取れる。一緒にやろう」と連絡があって。でも、母に話すのは少し勇気が必要でした(笑)。絶対に許してくれないと思っていましたが、兄は「今のクラブは自分のことを評価してくれたから、お前も絶対に大丈夫だ」と、強く私のことを説得してくれたんです。
―――自分からプロになりたいというよりも、お兄さんの影響が大きかったと。
ウタカ 兄は絶対に嘘をつかないと信じていたので、自信につながりました。「お前はいい選手で、絶対にプロの世界でやれる」と。それがチャレンジしようという気持ちにさせてくれました。国内の同じレベルでやるのではなく、海外に出て、より高いレベルでやる、その力を持っているから、と兄に説得されて。だから挑戦しようと決断できたんです。
■兄とナイジェリア代表でプレーできた時は涙したよ
―――ナイジェリアでプロを目指す子どもたちはどれくらいいて、どうやってプロ選手を目指していくのでしょうか?
ウタカ 最近はアカデミーを持つクラブや、育成年代の指導ができる人が増えましたが、自分の時代は、大きなクラブのセレクションを受け、狭き門を抜けなければなりませんでした。そこでうまくいけば、さらにテストを受けられる。受ける人数も多いので、うまくいくとは限らないし、自分の時も大変でした。今の方がチャンスはあります。あきらめないことが大切ですね。
―――人気スポーツのプロ選手になりたい、と思う子どもたちが多いんですね。
ウタカ アフリカ全体として、サッカーがNo,1スポーツで、ほとんどの子どもたちがサッカー選手になりたいと思っています。経済面を考える、夢を叶えるということを両立しながら、プロ選手になったら家族だけでなく、自分の周囲の人たちや、貧困に苦しんでいる人たちを助ける、と両親からも教えられてきました。自分も周りの人たちを助けたいと思っています。あとは、誰もが代表チームを目指しているんです。すべての子どもたちがナイジェリア代表選手になりたいからプロになりたいと思っているし、自分も選ばれたいと思っていましたから。
―――その夢が叶ったことは誇らしいことでしたね。
ウタカ 兄とは、同じクラブチームで一緒にプレーしようといつも話していましたが、同じタイミングで代表でのプレーができることになったんです。人生の中でも最も幸せな瞬間になりましたし、涙が出ましたね。1.8億人いるナイジェリア国民の代表に選ばれ、そこで兄とともにプレーできたことは誇りでした。
―――エジプトでスタートしたキャリアは、クロアチア、ベルギー、デンマーク、中国と続きます。まったく異なる環境、文化の違いもある中で、ウタカ選手はどうやって適応しようとしたのでしょうか?
ウタカ まず、その国の文化をリスペクトすることです。自分はオープンマインドで明るい性格でもあるので、国と人々を受け入れることを意識して、互いのこと知ることが大切でした。その国のことを身につけ、学ぶことが重要です。あとは言語ですね。その国のことを知りたいと考えた時、伝えたいことを言って、相手が反応してくれたことで、伝わっているかわかるので、それが一番大切です。周囲といい関係を作れれば、自然と慣れていくと思います。
―――苦労したことはありますか?
ウタカ 苦労というか、今は日本語ですね。難しいんです(笑)。頭の中には4カ国、5カ国語が入っているから、それが邪魔をして、なかなか覚えられなくて悔しくて。もう若くないから、日本語を覚えるのが大変なんです(笑)。
―――多くの言葉を覚えることは、ウタカ選手の頭の良さもあると思いますが、何事も飛び込んでチャレンジすることが大切、ということですね。
ウタカ 今日よりもさらに明日と考えることです。いつもチャレンジしたいと思っているから、身につきました。英語、ドイツ語、オランダ語、フランス語…。チャレンジし続けている中で、人と接することが大切で。今日より明日、と思うことで、言語や他のこともできるようになった理由かなと思います。
―――ご両親やお兄さんの教育が素晴らしかった、ということもありますね。
ウタカ 家族の影響、教育が良かったこともありますけど、家族の中でポジティブな意味で競争が激しかったことが大きいですね。兄弟の中でもうまくなりたい、負けたくないと思っている中で、成長できました。ベルギーでプレーしていたとき、前半1点を取ったら、ハーフタイムに兄から「お前はもっと力があるんだから、2点、3点と取らないと!」と言われて。今やったことより、次もっと力が出ると。そういった刺激を受け、競争の中で成長してきたし、もっとうまく、もっといいものが見せられると思っていたんです。家族での競争があったからこそ、ですね。
■もし、間違えていても、そこから学べばいい
―――日本でのプレーも4年が経ちました。
ウタカ まず言いたいのは、日本のことは“LIKE”なのではなく、I “LOVE” JAPANなんだということ。これを知ってもらいたいです。なるべく日本にいたいと思っていますし、日本で引退したいとも思っています。いろいろな理由はありますが、人々が互いに尊敬していることや、サービスの気持ちをすごく感じ、素晴らしい国であると思っているからなんです。あとは食事と衛生面ですね。料理は美味しいし、日本食は大好きですし。周りをすごくきれいにしているし、規律正しいことも理由にあります。
―――逆にもっとこうした方がいい、と思う部分はありますか? 例えば、自己主張ですとか。
ウタカ そんな多くはないですが、一つ挙げるとすれば、ミスを怖がっているということです。完璧主義者という感じですね。ミスしてもトライして学んだことを次に生かせばいいんです。例えば英語の発音を怖がっていたり。デガワさん(出川哲朗)が出演しているTV番組(『世界の果てまでイッテQ!』)を知っていますよね? 彼は英語が100%ではないけど、チャレンジしています。もし、間違えていても、そこから学べばいいということです。
―――それはピッチ内でも感じますか?
ウタカ そうですね。例えば試合中、ボールを前に出せる状況なのに下げてしまう。100%大丈夫なところに出してしまうんですね。でも、その出した先でミスしてボールを失うとカウンターでやられてしまう。選択のところをもう少し考えた方がいいと思います。リスクを冒して前に進むことを選択できる人がトップチームにいるし、代表にも選ばれていく選手になると思います。
―――いろいろな国でプレーしてきたウタカ選手だからこそ、説得力をより感じます。
ウタカ ありがとうございます(笑)。いろいろな国から常に学びたいと思っているので。そして、オープンマインドに視野を広く、世界はこうなんだと知ることですね。
―――今後のキャリアの見通しはありますか? 例えば日本とナイジェリアの懸け橋になるような活動ですとか。
ウタカ 仲介人になりたいと思っています。日本とナイジェリアのサッカーでのつながりは今までありませんでした。ナイジェリアには今、アカデミーに在籍し、若くて素晴らしい選手がたくさんいますし、チャンスをあげたい、助けてあげたいと思っています。日本とのつながりもできましたし、もっとプロの世界へ進むチャンスをあげたいんです。日本とナイジェリアのつながりを深くし、チャンスと希望、夢を与えたいですね。
―――引退後の話をしてしまいましたが、まずは今季、J1昇格と得点王を獲得できるよう、応援しています。
ウタカ 甲府に来た理由は、J1に昇格することを手助けするためです。その中で得点王を取れたら素晴らしいですが、まずはJ1昇格、そして優勝。それができればアメイジングですね。でも簡単にはいかないと思いますし、今は毎日ベストを尽くしていきたいです。
最後にこれだけは、どうしても。とにかく一番大切なのは“笑顔”ということ。まずは笑顔で、周りも笑顔にすることがとても大切なことで、これが一番みんなに伝えたいことですね。
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By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長